40 オロチ討伐へ向けて

~特殊隊の訓練場~


 訳が分からない流れのまま一夜が明け、何時も俺達が使っている訓練場には結構な人数が集まり活気が生まれていた。


 これが俺とダッジ隊長の決闘というのが未だに実感がない。

 もう始まりそうなのに――。


「隊長とルカが戦うなんてどうなるんだろう!」

「……ルカも確かに強いけど、やっぱ隊長も強い……」

「お前も物好きだな本当に」

「いやいや、ゼインさん程ではないですよ。それにたまには息抜きがないとやってられません!」

「国王様……。その様な発言は余り大きな声でしないで下さい」


 訓練場の周りでは本当に多くの人が観戦しに来ている。

 特殊隊の仲間は勿論、国王やモレー大団長。それにどうやってこんなに早く情報を知ったか分からない他のギルドのSランク冒険者やその他国王団の人達まで来ている……。


 しかもマスターまでいるじゃないか。久しぶりに見たが元気そうで何よりだ。だが、この状況を見た俺が今思っている事をはっきり言おう――。


「あの、なんか盛り上がっているところに水を差して悪いんですけど……決闘している時間があったらオロチの討伐行けませんかね? ここのいる面子で。最強だと思いますけど……」

「――ダメだ。隊長である以上部下の勝手な行動は許さん。それにお前の実力を、俺はまだしっかりと把握していない。オロチを倒したいのならば、それ相応の強さを示せ」


 ダッジ隊長はそう言い、凄まじい魔力を瞬時に練り上げながら戦闘態勢に入った。


 成程。腐ってもこの特殊隊の隊長だと言う事を忘れていた。思い返せばここに来た初日、いきなり“遊び”という名の攻撃を仕掛けてきた変わり者が集う場。それがこの特殊隊……。


 毎日毎日誰かが必ず訓練場で戦っている。俺も当然幾度となく皆と戦っていたが、ダッジ隊長とだけは確かに1度も戦った事がない。


 変わり者をまとめている隊長だからどこか人格者なのだろうと昨日まで勝手に思い込んでいたが……どうやら見当違い。結局はダッジ隊長もここに集まる変態達と同じだった――。


「隊長の戦いなんて見た事ないよ!」

「隊長はSSSランクだから当たり前に強い。しかもドラシエル王国のSSSランクの中でも最強らしいからね。ルカとどんな勝負になるか楽しみしかないよ」


 不意にクレーグのそんな言葉が聞こえた。


「なんと、まさかSSSランクの中でも最強とは……。それはマスターよりも強いという事か? 何とも恐ろしい」


 思わず自分の心の声が駄々洩れた。そしてジークがそれに反応している。


<フハハハハ! これは今までで1番の実力者。楽しみだなルカよ>


 ジークもダッジ隊長の実力を認めた様だ。あのジークが今までで1番だと言ったんだから間違いないだろう……。これは本当に嫌だ。


 だがここだけは譲れない。隊長を倒して俺は絶対にオロチをぶっ飛ばしに行くからな。しかも隊長は俺が勝てば特殊隊でサポートするとまで言った。それは正直滅茶苦茶有り難い。オロチの実力が分からない以上、皆が付いて来てくれるならかなり心強いからな。


「――そろそろ始めようか」

「はい……お願いします!」


 こうして、ダッジ隊長の決闘が始まった。


「行くぞジーク!」

<ああ>


 俺とジークは最初から全開。相手が王国最強と言われているならば当然だ。抜いたゼロフリードに魔力を注ぎ込みながらダッジ隊長に魔法を放った。


「“プロメテウス”!」

「“シールドロック”」


 高火力の炎を放った俺に対し、ダッジ隊長は土魔法で大きな岩を繰り出し炎を打ち消した。だが俺は続けざまに雷魔法を連続で撃ち込む。


「“ロックメテオ”……!」


 ダッジ隊長は俺の雷魔法も全て防ぎきると同時に、出していた岩に炎を纏わせ弾丸の如く放ってきた。


 ――ズガン!ズガン!ズガン!

「凄い威力だ……」


 飛んでくる炎の岩を避けながら、俺は避け切れない分を剣で打ち落とした。そして最後の1発を剣で防ぎダッジ隊長に攻撃を仕掛けようとした刹那、既に隊長が俺の背後で剣を振りかざしていた。


 ――ガキィィンッ!

「ほぉ……」

 

 間一髪反応した俺は何とかダッジ隊長の剣を受け止めた。


「お前も珍しい剣を持っているな」

「……!」


  ダッジ隊長と鍔迫り合っていると、ダッジ隊長の持つ深紅の剣がどんどん俺の魔力を吸い込んでいた。


<コイツの吸い込みは次元が違う。距離を取れ>

「分かった……“トール・サンダー”!」


 俺は大きな雷を放ち、僅かに意識が逸れた瞬間ダッジ隊長と距離を取った。しかし、一瞬たりとも休む間を与えてくれないのか、ダッジ隊長は自身が扱えるという全種類の魔法を一斉に放ってきた。


「“アイスドラゴン”、“ロックスネーク”、“フレイムジャッカル”、“エアロバード”、“ライトニングキメラ”――」

「なッ……⁉」

<面白い!>


 間違いなくこれまでに俺が戦った中で最強の相手……。1発1発の威力がある事は勿論、狙いもタイミングも全て抜群。一瞬でも判断が遅れれば命取りだ。しかも放ってくる属性の種類が多いいから的を絞りにくい。確実なダメージを与えるには一苦労だぞこれは。


「なぁジーク、ダッジ隊長とんでもなく強いぞ。どうする?」

<確かにな。間違いなく今までの中で1番だ。だが……それがイコール負ける理由にはならぬな――>

「ああ。ダッジ隊長倒して、全てを終わらせに行くぞジーク――!」


 怒涛の攻撃を繰り出すダッジ隊長に対し、俺はドラゴン化で全ての攻撃を掻い潜りながらダッジ隊長との距離を少しづつ詰めていった。そして互いの間合いに入った瞬間、俺は再びゼロフリードに渾身の魔力を込めて振り下ろした。


 ――ガキィィン!

「吸い尽くせ……“ダークサキュバス”」


 俺の剣とダッジ隊長の剣がぶつかり合った瞬間、再び魔力がどんどんダッジ隊長の剣に吸われ始めた。




 ここだ――!




「……⁉」




 魔力が吸われ始めた刹那、俺はそのまま手にしていた剣をパッと離し、予め攻撃魔法を放つ準備をしておいたもう一方の腕で、僅かに反応が遅れたダッジ隊長の体に勢いよく撃ち込んだ――。


「“竜神の全撃ドラファクト”!」


 俺の放った攻撃はダッジ隊長を捉え、その屈強な肉体を訓練場の端の壁まで瞬く間にぶっ飛ばした。


 ダッジ隊長は壁がめり込む程の勢いで衝突し、僅かに意識を保ちながら体を動かそうとしたが、次の瞬間そのまま地面に静かに崩れていった。


<終わったな。まさかここまでとは>

「本当だよ……。ダッジ隊長以外、今の攻撃を受け切れるSSSランク冒険者はいないだろうな。一瞬立ち上がってこようとしてたし……」


 そんなこんなで、俺とダッジ隊長の決闘は無事終わったのだった。


「――凄い戦い……」

「ルカも化け物だがダッジ隊長も化け物だったぞ」

「ニクス、隊長を頼めるかな?」

「任せて下さい! 私の聖霊魔法で治します」


 そう言ってニクスはダッジ隊長に優しく聖霊魔法を掛け、傷が癒えていくと共にダッジ隊長は意識を取り戻した。それを見て周りにいた皆も集まって来る。


「……どうやらやられたみたいだな……。見事な実力だったぞ、ルカ」

「ありがとうございます隊長」

「とんでもない決闘だったな!」

「まさかダッジ隊長が撒けるとは。いやはや、恐れ入ったよ……」

「お疲れ様、ルカ君。また一段と強くなった様だね」

「あ、あの! これで俺オロチの討伐に行ってもいいんですよねダッジ隊長……!」


 皆は今の俺とダッジ隊長の決闘を称えてくれたが、この戦いの真の目的はオロチの討伐許可。意識が戻って直ぐで申し訳なかったが、俺は焦る気持ちを抑えられずに聞いてしまった。


「そう慌てるなルカ……。勝負はお前の勝ち。約束通り、オロチの討伐に“行く”ぞ。しっかり準備をしておけ」

「え、行くぞってもしかして……」

「当然、特殊隊総員で行くぞ。サポートの約束もしたからな――」

「ダッジ隊長……」


 隊長はそう言い、皆にもその旨を伝えた。こうして俺達は、晴れて3日後に再度集まる事が決まった。


 目的は勿論オロチの討伐――。


 この3日間は各自準備や束の間の休息を取ったのだった――。

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