17 ドラゴンの正体


 ――ブオォォォォッ!

「「うわぁぁぁッ⁉⁉」」


 突如現れたルージュドラゴン。そして突如放たれた凄まじい炎の咆哮。


 場は瞬く間にパニック状態となったが、一早く攻撃に反応していたフリードさんが自身の持つ魔剣エクスカリバーでその咆哮を一刀両断し、攻撃を遮った。


「今のうちにSランク以外は全員避難しろッ! 騎士団は何が何でも国王を死守! 絶対に被害者を出すなッ!」


 これがSランク冒険者の実力。不測の事態でも素早く的確な判断を下す。フリードさんはドラゴンの攻撃を遮り直ぐに皆に指示を出した。


「どうするルカ!」

「俺達も残ろう。相手がドラゴンだからって逃げたら意味がない!」

<安心しろ。主にはそのドラゴンの王がついているのだからな>


 確かに。それにしても不思議な感覚だ。ジークの言う通り、俺はドラゴンの王ともう何年も一緒にいるのに、人生でちゃんとドラゴンを見たのはこれが初めてだ。


「よし! 集まった僕達で奴を止めよう」


 この場にいたSランクは全員で6人。俺達王都から来たフリードさん、リアーナさん、ドルファンさんの3人に加え、他の街から合流した3人のSランク冒険者の人達。


 王都の俺達が1番冒険者の数も多くSランクが3人いた。王都以外の大都市3つからそれぞれSランクが1人ずつ。これがドラシエル王国が誇るSランク冒険者の面々だ。勿論まだ何人かいるが当然この場にはいない。


「1番人数の多い僕達王都組が前方から攻撃をしよう。君達は後方から頼む。そしてルカ君とレベッカさんも僕達と一緒に前方から来てくれ。いいかな?」

「「はい!」」

<それにしても“妙”だな――>


 今から攻撃を仕掛けるという瞬間に、ジークが何やら意味深な発言をした。


「どうしたジーク」

<確かに奴はルージュドラゴンに似ているが……。魔力が微妙に違うな>

「魔力が違う……?それは突如こんな所に現れたのと関係しているのかな?」


 先の訓練のお陰だろうか、ジークはフリードさんや他の人達ともいつの間にか馴染んでいた。


<もしかすると“竜石”を取り込んで進化したモンスターかもしれぬな――>

「竜石だって?」


 ジークの言葉に皆が驚いた。

 今ジークが言った竜石とは、とても珍しい石である。それを使うと大幅に魔力が増幅するし、武器に取り込む事でより強力な武器とする事も可能だ。そして何より、その竜石を稀にモンスターが体内に取り込む事案が確認されているのだが、竜石を取り込んだモンスターは進化する事も確認されている。


<元の魔力を探った感じ、アレはガーゴイルが竜石を食べたな。うむ、間違いなくガーゴイルだ>

「成程。それならこの状況にも合点がいくね」

「でも竜石なんて何処から口にしたのかしら? ここら辺で確認はされた情報はありません」

「まぁたまたま見つかっていなかったか、もしくは誰かが故意に与えたとか? それは考え過ぎか」


 ドルファンさんの何気ない発言に数秒の沈黙が流れた。

 確かに考え過ぎかもしれないが、可能性はあると皆が思っている様だ。


「一先ず詮索は後にしよう」

「そうね。奴が来るわ」


 皆が一斉に戦闘態勢に入った。

 

『ギギャャャャ!』


 再び雄叫びを上げたルージュドラゴン……正確には竜石を飲み込んだであろうガーゴイルが上げた雄叫びが合図かの如く、皆が瞬く間に魔法を放った――。


 リアーナさんの氷魔法、ドルファンさんの土魔法。そして他の人達もそれぞれ一斉に攻撃を放ち、フリードさんも奴の大きな体目掛けて斬りかかった。


 ――ガキィィンッ!

「ぐッ、硬いな!」


 フリードさんの斬撃でも奴の鱗に僅かな傷しかついていなかった。


「でも十分だ……。食らえ!」


 皆に続いて俺も雷魔法をルージュドラゴン目掛けて放った。直撃した落雷によりルージュドラゴンは全身が痺れて動けずにいる。この隙をついて後方に回っていた他の街のSランク冒険者達も一斉に攻撃を仕掛けた。


 偽物とはいえかなり頑丈だ。余計な被害を出さない為にも一気に止めを刺そう。


「フリードさん!このドラゴン、討伐しても問題ないですよね?」

「え、討伐……⁉ ハハハハ。いいよ、ルカ君の好きにして。その代わり確実に頼むよ」

「はい、ありがとうございます!」


 訓練を経て俺の実力を少しは認めてくれたのか、フリードさんは俺に任せてくれた。期待に応える為にも、そして国王や他の人達全員を守る為にも、久しぶりにちょっと本気で攻撃しよう。竜石の力とは言え、目の前のコイツはドラゴンだ。


<偽物だが久々に骨があるな>

「ああ。何時も以上の力で行く……⁉」


 魔力を練り上げ威力の魔法を放とうと思った瞬間、風に乗って僅かな匂いが運ばれてきた――。


 ちょっと待て……。

 もう他の冒険者達は既に離れている筈だ。


しかもこの匂いはッ……! おい、嘘だろ? 何故“お前達”がそこにいる! 避難したんじゃなかったのかよ……“グレイ”――!


「フリード!あっちに誰かいるぞ!」

「何だって⁉」

『ギギャャャャャッ!!』


 ルージュドラゴンが痺れから意識を取り戻した。その間に与えていた皆の攻撃のダメージが一気に押し寄せて来たのか、雄叫びと共に暴れ出した。


 そしてルージュドラゴンは怒り狂うままに、再び炎の咆哮を放つべく口を大きく開いていた。


<ドラゴンブレスが来るぞ>


 ジークの声に全員が身を護る態勢に入った。

 奴の口から放たれた豪炎はあっという間に山の一角を焼き焦がし、跡形も無く消えていた。真っ黒に焦げた跡と臭いだけを残して。


「危なかった……」


 痺れから動き出したルージュドラゴンと、まさかのグレイ達に呆気を取られ攻撃魔法を打ち込むタイミングを逃してしまった。


 何やってるんだアイツら! もしかして倒せるとでも思ってるんじゃないだろうな……⁉


 視線をルージュドラゴンから少し離れた岩場に移すと、その岩陰に隠れるグレイ達を見つけたのだ。しかもルージュドラゴンは事もあろうか既に次の攻撃態勢に入っていた。しかも標的は俺達ではなくグレイ達だ――。


「くそ……」


 一瞬でこれまでの事がフラッシュバックした。


 反射的にアイツらを助けようと体が反応したが、助けてもいいのかという迷いが俺の体を止めていた。


 アイツらは俺を毛嫌いしている。仮に助けたとしてもまた文句を言われるのがオチだ。それに今となっては俺もアイツらと関わりたいと一切思っていない。


 だが……。


 フラッシュバックした中で、俺はマスターの言葉も思い出していた――。




『……私の管理下で最も重い罪は、仲間や家族を裏切り見捨てる事だ!そんな奴らは冒険者を名乗るでないッ――!』



 

 もう仲間や家族だなんて到底思っていない。お互いにな。だがやはり見殺しにも出来ない……!


 覚悟を決めた俺は魔力を一瞬で練り上げ、ドラゴンの姿に変化した――。


 もうこれじゃないと間に合わねぇ。


「フリードさん! 奴の注意を引きつけて下さいッ!」

「了解!」


 咄嗟の事にも関わらず、察したフリードさんは援護に回ってくれた。

 ドラゴンの姿になった俺はバチバチと音を鳴らしながら雷の如き速さで瞬く間にグレイ達の所に向かった。


 ――バチバチバチバチッ!

「うわッ……!」

「な、何だ⁉」

「またドラゴン……⁉」


 突如目の前に現れたドラゴンの俺に、グレイ達は目を見開いて驚いていた。このドラゴンの正体が“俺”だとは分かっていないだろう。


「何してるんだ!ここから離れるからしっかり捕まってろ!」 


 俺はグレイ達を直ぐに背中に乗せ、ルージュドラゴンの咆哮が放たれたとほぼ同時にその場を離れ回避した。


♢♦♢


「――よし。ここならもう大丈夫だろ。直ぐに皆の所へ行けよ」


 間一髪奴のドラゴンブレスを躱した俺はそのまま山を下り、安全な所でグレイ達を降ろした。既に避難していた討伐隊はもう目と鼻の先だからグレイ達はもう大丈夫。フリードさんが相手してくれているから俺も早く戻らないと。


「……じゃあな“グレイ”」


 俺は無意識にそれだけ言い残し、急いでフリードさん達の元へ向かった――。





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