ほどけなくても、その痛みさえあなたのものだから

誰しもに、雁字搦めに心を縛り付けて、解こうとすればその棘に血を流すような、厄介な呪いがある。紬希にとっては色眼鏡。優芽にとっては…。作中にも様々な呪いを抱えた少女たちが登場します。その呪いは先天的であったり、後天的であったり、みんな同じじゃない。だから厄介。

この作品ではそんな『みんなちがう』部分を、地球外生命体というSF要素を支柱にすることでエンタメ性たっぷりに描き出しています。ひと言で『みんなちがう』と纏めてしまうのはとても簡単。でも、その本質を深い部分まで理解できている人はそう多くはないはずです。紬希の内向的で繊細な性格は、誰かから見れば同じだけ他者を強く思いやることができるという美点でもある。だけど紬希自身はそんな自分を肯定してあげられない。そこには誰の励ましも届かない、絶対的な事実という壁があるからです。角度によって色を変える世界で移ろいながら、若く未熟な少女たちが自身の呪いに打ちひしがれ、時にぶつかり、時に誰かの呪いによって救われ、その呪いを解こうとして届かず無力感に苛まれる様子が生々しく描かれています。

私が特に印象的に感じたのは、彼女たちが呪いに苦しむその心すらも赦し合う美しさでした。癒えなくても届かなくても、そこには確かな赦しがある。丁寧かつ奥深い人間ドラマの果てに映し出される世界の美しさには、思わず心が震えました。しかもそこに地球外生命体が重要なピースとしてはまってくるから、その鮮やかな手腕に感服すらしてしまうのです。

地球外生命体?魔法少女って?あらすじで疑問が浮かんでも大丈夫。読み終えるころにはそれらが不可欠なピースであるとわかります。
人間ドラマって複雑そう…それも大丈夫。1話あたりの文字数が少なくさくさく読めて、Web小説としても優れているのがこの作品の特徴です。
タグに並んだ言葉もなんだか難しそうだし、小説で多様性なんて理解できるか不安…そんな風に感じている人にこそ、私はこの作品を読んでほしいのです。理解できない、こわい、自分なんか。そんなあなたを縛る呪いすらも、ここでは赦されるから。

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