「好き」なだけではままならない世界でも

本作では女子2人の恋愛が描かれると同時に、互いを思い合う男女の様子も描かれています。

詩葉を一途に思い続ける希和と、希和を「好き」なのに彼の恋人になる自分が想像できない詩葉。
自分に対して恋愛感情を向けてくる希和のことを、詩葉は彼と同じ「好き」を返せないと悩む。やがて詩葉が自身の性的指向を自覚すると、2人の物語は加速していきます。

相手と同じ「好き」を返せたらどれほど幸せでしょう。けれど心の安寧を求めて楽な道を選ぶことは、相手と向き合うことを諦める不誠実な行為でもあります。
人間同士思い合うことは尊いはずなのに、性別によって線を引かれてしまう世界で、もがき苦しみながらも詩葉は希和と向き合うことを諦めません。

世間の目に悩みながらも愛を貫く百合と同時に、恋愛ではない形で互いを強く思い合う男女の姿が印象的な作品です。
女性が恋愛対象だからって、男性に向ける「好き」を掻き消す必要なんてない。

「好き」の気持ちがすれ違う様子は苦しくもありますが、逃げずに向き合う詩葉と希和の結末が美しい、人と人の関わりの物語です。