秘する花を知ること、知らないこと。

百合×BSS男×合唱=破壊力!!

これは凄い激烈青春小説ですよ。

女子高校生:詩葉(うたは)は合唱部員。中学からの友達二人と一緒に練習や勉学に励む毎日。そんな彼女は「恋」がわからない。男友達:希和(まれかず)に好意はあるが、恋ではないという確かな感覚。どっちつかずの感情、厳然と存在する男女の違い……モヤモヤを抱えながらもトクトクと続くかと思われた日常。
しかしその日々は、可愛くて自分にゾッコンな後輩:陽向(ひなた)の登場と、ある出来事により終わりを告げます。

その衝撃に戸惑い、狼狽えながらも明日は来る。
両親との価値観の違い、世間からのまなざし。
希和の自分への慕情、自分からの友情。
引き摺ってきた過去、愛する彼女との未来。
わからないものすべてに向き合って、
咲かせてみせます百合の花、謡ってあげます愛の詩!

ってな感じのあらすじ。

濃厚、本編は濃厚の一言。これでもかと悩める主人公の心の中が書き表されています。高校時代の、あの特有のままならなさ。中学よりは窮屈でないけど、段々「大人」が見えてきて別の息苦しさが増していく。よく悩むことができる詩葉は、コンプレックスや呪縛のような思い出に苦しみながらも、少しずつ答えを出して前に進んでいきます。パッとした解決策はありません。ただじりじりと一歩ずつ行くだけ。それがいいんです。逃げも隠れもしない、並々ならぬ筆致で描かれた、一人の女性の成長を体験することができる。もしかしたらそれを「じれったい」「さっさと話し合うべきだ」と感じる方もいるかもしれない。ですが「秘すれば花なり」と言うように、秘めた思いでこそ作られる面白さもあるわけです。秘する花を知ること。恋愛、それも同性愛という問題を扱う上では、どうしても自分一人で考えなければいけない時間があり、本作はその勘所を完全に捉えて描いた。そして、知らないこと。心のままをさらけ出すことも描く。百合の花は日陰でも、陽向でも、どこに咲いても美しい。本作の魅力はここです。

また、愛すべき希和氏の存在も本作に素晴らしい深みを与えています。彼は優しいがナヨナヨしく、所謂「男性的な魅力」に欠ける存在。彼に対する本作女性陣の見解が披露される場面などは、男性の私からすると読んでいて胸が抉られる名シーンですが、彼の魅力はそれに留まりません。女性を愛する詩葉に対してどう接すればいいのか、何をできるのか。彼もまた真摯に悩み、答えを出していくことになるのです。もちろん詩葉だって彼の為にたくさん悩みます。異性の友達とは、女性の同性愛者にとっての男性とは。本作のテーマに重大な貢献をする希和氏の活躍は、是非本編を読んでお確かめください。

あまり悩む姿ばかりクローズアップし過ぎましたが、本作他にも見所まだまだ一杯。恋人たちの睦み合い、細やかに挿入されるサブキャラクター達の物語、登場人物の想い溶け合う合唱シーン、楽しくて心温まる場面だってあるんです。
そんなわけで。
辛いだけでも、楽しいだけでもない、この青春という一時のラブストーリーを、是非貴方もお楽しみください!

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