とは、拙作に出てくるフレーズなのですが、思わず使ってしまうほど共鳴しました。
人の心を感じ取る特別な力を持つ一透ちゃんが、唯一読めない九十九くん。高校生活の中で思春期の少年少女たちの心は何度も不安定に揺らぎます。
一透ちゃんはみんなの心を守ろうと奔走するのですが、なんだか上手にできない。そこで九十九くんが一透ちゃんのお手本となるのです。過去に相手の心を読めず苦い経験をした一透ちゃんは、今度こそ見逃すまいと九十九くんを見つめます。
私が本作で印象に残ったのは、登場人物がみんな優しいことでした。優しいから自分だけじゃなくて周りの人たちに心を砕ける。だけどそんなふうに切り分けた優しさは、やがて底を尽きます。空っぽの器は暗い感情に蝕まれ、やがて持ち主を壊してしまう。
優しさが有限であることを知る一透ちゃんは、自分も優しさを返そうとたくさん悩む中で大切な絆を育んでいくのです。
ここまで書きながら振り返ると、一透ちゃんと九十九くんの関係ってある意味当たり前なんですよね。相手の心がわからないからたくさん考える。考えるうちに自分の中でその人の存在が大きくなっていって、大切に思う。現実の私たちとまったく同じに、一透ちゃんたちも生きています。
特殊な設定の特殊な物語ではなく、当たり前に悩んで手探りに日々を歩む私たちに寄り添ってくれる、私たちの話です。
主人公の人見一透ちゃんは感覚的に人の心の感情が見える女の子。
だけど隣の席の九十九くんだけはなぜかその心が見えなくて……
人見一透ちゃんの葛藤がとても上手に描かれています。
失敗したり落ち込んだりする様子は思春期の学生らしさを感じる一方、『なるほど』と感じさせる大人っぽい考え方が読者の心に深い共感を与えてくれます。
そして人見一透ちゃん以上に大人っぽい思考の九十九くん。
クールでスマートに物事を解決できてしまう彼にはどのような景色が見えているのだろうか……
二人の関係性も気になりますが、どのような経緯があってあのプロローグに繋がるのかとても気になります!
物語完結まで見るっきゃない!