第5話 魔法使い狩り

 元々この辺りの自然系研究は、全て魔法使いに委ねられていた。


 理由は、魔法によって、天候などの「予知」と「変更」が出来たからである。例えば雨に関して言うと、降るか否かの予想をし、雨が降らない場合は魔法を使って雨雲を動かして、乾いた土地に雨水をもたらすことも可能だったのだ。


 そのため、ふところ具合に余裕のある村は、魔法使いを雇って天候を見極めてもらったり、雨が降らないときは雨を降らせてもらったりと、自分たちの農作業や観光業などに活かしていたのである。


 しかし今から30年近く前に「魔法使い狩り」が始まったことで、魔法使いと非魔法使いの関係が崩れた。つまり、魔法使いを排除しようとする動きが生まれたのである。


 だが、おかしなことに「魔法使い狩り」が始まった理由は、未だに分かっていない。魔法使いと非魔法使いの間で仲違なかたがいがあったのであれば、その間で争いが起こるはずだが、実際に起きているのは魔法使い同士の戦いがほとんどなのだ。


 それ以来、村に天候を予知する者はいなくなり、魔法使いの戦いが頻発するようになると、今度は魔法の影響で天候が思いもよらぬ方向に操作されるようになった。

 強い魔法で、無理矢理動かされた雨雲は嵐となり、あるところでは洪水の被害が頻発して田畑が流れることもあったし、その一方であるところでは干ばつになったこともある。


 このようなことが相次ぐようになってからというもの、魔法使いは非魔法使いにとって不利益になる事態を招く存在となり、彼らとは距離を置くようになってしまった。


 魔法使いとの関係が冷え込んだのも問題だが、それよりも喫緊で何とかしなければならなかったのは天候と農業のことである。

 もちろん、魔法使いのように天候を動かすことはできない。

 しかし、悪天候が続いても対応できるような仕組みづくりと、今まで魔法使いがしてきた天候の「予測」ならば非魔法使いでも出来るのではないか――。

 そう考え、自然系の学問を開設したのが非魔法使いのソラースという人間である。今から18年前のことだ。


 しかし、この学問はつい最近まで存続の危機に陥っていた。


 公的に認められている学問は、少なくても100年以上の歴史があるのに対し、これは20年程度しか歴史がない。また「魔法使い狩り」の影響もあって、「元々魔法使いたちが持っていた知識の研究をしている」というだけで、周囲からはあまりよく思われていなかった。


 さらに追い打ちをかけるように、この分野を創設したソラースは、10年前に他界。力があった人がいなくなり、肩身の狭かった自然系研究は、隅に追いやられ、研究する人はより一層減ってしまったのである。


 そんな逆境とも言えるような状態の中、元々ソラースの考えに傾倒していたグレイスが研究を引き継いだ。このまま自然系研究を疎かにしていたら、農業が衰退すると考えていたのである。


 しかし、研究には金がかかる。その調達をしなければならなかったが、彼の研究は「怪しい学問」とされていたので、研究費は大学や公共機関から出してもらえなかった。

 

 また、研究や学問を志す者は大抵金持ちの子息である。グレイス自身も伯爵家の末子なので資金援助も見込めたはずだが、両親は息子の怪しい研究に金を出してくれるほど、心は広くはなかった。


 当然他の若い研究者も同じ状況だったので、研究費の為に彼らは働き始める。しかし、貴族の親はそれすらも疎んだ。

 それもそのはずで、息子が外で働いているとなれば、家の評判に直接響くことを酷く恐れたからである。


 そのため、グレイスと共に研究をしていた仲間は、家族に説得され一人また一人と辞めていったのだった。

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