第4話 二人の関り

「突然お伺いしてすみません。お久しぶりです、グレイスさん」


 タカテラスが笑って挨拶をすると、向こうはさらに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「久しぶり! よく来た!」


 グレイスはそう言うと、親しい相手とする抱擁の挨拶をする。

 タカテラスの村ではこの挨拶はしない。そのため、初めてグレイスにされたときはとても驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。


「まさか君に会えるなんて! とても嬉しいよ!」

「私もです」


 タカテラスは、自分より6歳年下のグレイスの背を優しく叩き、半年ぶりの再会を喜んだ。グレイスも嬉しそうに受け止める。


「あっ!」


 グレイスはぱっとタカテラスから離れると、急に戸惑った表情を浮かべた。


「どうしたんです?」


 驚いて尋ねたタカテラスに、グレイスは「なんてことだ! 今日は何も用意していないよ!」と答える。

「あの、グレイスさん? 用意していないって何のことです?」

「菓子のことに決まっている!」


 堂々と言う彼に、タカテラスは狼狽えた。


「あ、あのっ、そんな気遣いは無用です! 突然来てしまった私が悪いのです! ですからお気になさらないで下さい。今日は少しお聞きしたいこと……と言いますか、グレイスさんに助言をいただきたくて少し寄っただけなのです。お時間がないときに申し訳ないですが……」


「俺は確かに忙しい」


 グレイスはそう言ってから、すぐに否定した。


「しかし、君の訪問はいつでも歓迎だ。あの遠い村から来てくれたのだから、聞きたいことには何でも答えたいし、もてなしもちゃんとしたい。幸い今日はアホな連中が集まる学会もないし、眠たい顔の生徒に授業する予定もない。君に付き合うよ。いや、付き合わせてくれ」


 すると彼はノトイアを振り返る。


「ノトイア、悪いけど近くの菓子屋で何か買ってきてくれないか。茶はこっちで淹れるから」


「かしこまりました」


 主人の命令を聞いたノトイアは、丁寧にお辞儀をしたと思ったら、すぐに踵を返し、彼は意気揚々と部屋の外に出ようとする。


「あ、あの、そんな悪いです――」


 タカテラスはノトイアを引き留めようとしたが遅く、ドアが閉められてしまった。


「申し訳ないことをしてしまいました……」


 閉じられたドアの前に立って、タカテラスは反省した。自分の目的のために寄ったばっかりに、気を使わせてしまった。

 その気持ちが表に出ていたのだろう。グレイスは自分よりも少し背の高いタカテラスの肩をトントンと軽く叩いて笑った。


「何を言っているんだ。俺もノトイアも、好きでやっていることなのだから気にしないで欲しい」

「ですが……」

「気にするな。そう言っている」

 じっと見つめるグレイスに、タカテラスはそれ以上は言えなくなった。

「……では、お言葉に甘えることにします」


 申し訳なさそうに、でも少し嬉しそうな笑みを向けると、グレイスも肩の力を抜いて、ほっとしたような笑みを浮かべる。


「そうだ。村の井戸はどうだ? 順調か?」


 グレイスは、ノトイアに宣言した通りお茶を持って来てくれると、テーブルを挟んで向かい合わせのソファに座りながらそんなことを聞いた。お茶の入ったカップを受け取ると、ふわりと良い香りがする。タカテラスは、それを一口飲んでから答えた。


「はい。それに雨水を貯える方法も上手くいっていて、作物は今年も順調に育っていますよ。それもこれもグレイスさんのお陰です」

 そう言って屈託なく笑う様子を見て、グレイスは目を細めた。

「俺のお陰……か」

「グレイスさん?」

「いや、何でもないよ」


 グレイスは天気や地下水脈、農業用水に関する研究している。今でこそ認められているが、タカテラスと出会い、グレイスの知識で村の穀物生産量が安定するまでは、天候をはじめとする自然系の学問は胡散臭うさんくさいものとして扱われていた。それは「魔法使い」がいたためである。

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