第19話 呪われた魔法使い
「呪われた魔法使いって?」
タカテラスが聞くと、ヒナタは立ち上がって家を指さした。
「ここで話すのもなんだから、中に入らない?」
タカテラスは驚いて自分の後ろにある、こぢんまりとした建物を見上げた。
「ヒナタの家だったの?」
「そうだよ」
タカテラスは暗がりの中、まじまじとヒナタの家を見た。
「どうかした?」
ヒナタが彼の様子を不思議がって尋ねる。家があるなんて当たり前じゃないか、と言われそうだが、グレイスに聞いたことや、図書館で調べたこともあって住むところに困っているかもしれないと心配していたのだ。そのためこの目でヒナタの家を見るまで、住むところがないかもしれないと思っていたので、驚いて仕方のないことである。
しかしそのことを言ってしまうと、洪水を起こした魔法使いの新聞記事に触れてしまいそうで、適当に誤魔化した。
「ううん。ヒナタに会えただけじゃなくて、思いがけず家に招待してもらえて嬉しかったんだよ。道にも迷っていたから助かる」
「ゆっくりしていってよ。僕以外、誰も住んでいないしね」
「ありがとう」
ただ、そう言っただけなのに、ヒナタは悲しい顔をして呟く。
「魔法使いに『ありがとう』なんて言うのは、もう君くらいかもしれない……」
「え?」
「何でもないよ。さあ、付いてきて。お茶を淹れるよ」
ヒナタが案内してくれた家の中へ入ると、そこには明かりに照らされた、横に広い部屋が広がっていた。テーブルにラクチュア(布のかかった柔らかい椅子のこと)、そして触り心地のよさそうなフェリル(厚地の毛織物のこと)。観葉植物がちらほらと玄関周辺の床に置かれている。奥には本棚があるが、グレイスのところと違って置いてある本は数冊だけだった。それ以外にはほとんど物はなく、あとは右手に小さなキッチンがあるくらいである。
「ここに座って」
ヒナタがそう言ったので、タカテラスは彼と横並びにソファに座った。
「はい、お茶。それと、ウルーネ(ナッツの入ったふわりとした生地のパン)もどうぞ。森を歩いてお腹がすいているんじゃない?」
タカテラスは、出された物を見て表情をほころばせた。お茶も良いが腹も空いていたので、ヒナタの気遣いを有り難く受け取った。
「空いてるよ。ありがとう」
タカテラスはウルーネを頬張りながら、お茶を飲んだ。ウルーネはフィリンガーでよく食べられるものなので、タカテラスも何度も食べたことがあるが、お茶は初めての味がした。グレイスのところで飲んだお茶とはまた違う香りがする。こちらは緑色の葉を使っているせいか、若々しい感じがした。
「僕のことを語ろう」
タカテラスがひと段落すると、ヒナタは目の前にある玄関側の窓を眺めならそう言った。
「うん」
「とても言いにくいことなんだが、僕はもうすぐ50歳になる」
「……え⁉」
タカテラスの反応に、ヒナタはふっふっと笑う。
「やっぱりそういう反応になるよね」
「で、でも、どうして?」
「歳を取るのが非常に遅いんだ。だから、50年も生きているのにこんな姿をしている」
「それって生まれたときから?」
タカテラスの問いに、ヒナタは力なく首を横に振った。
「それは違う。幼いときに、ウーファイアという、最強と言われた魔法使いに魔法をかけられたんだ。歳を取るのが遅くなる魔法をね」
「魔法は自然の摂理にも抗えるの?」
驚きながら尋ねた彼に、ヒナタは「全ての魔法使いができるわけじゃない」と言った。
「ウーファイアが特別なんだ。だから最強と言われた」
「でも、どうしてそんな魔法を君に?」
「その如雨露——」
ヒナタがソファの上に置かれた如雨露を見たので、タカテラスも同じように見つめた。
「これがどうしたの?」
「その如雨露をね、託されたせいなんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。