第14話 如雨露の光

(今、何時だ?)


 気が付いたら夜になっていた。

 タカテラスは体を起こすと、ろうそくに火をつける。それを灯台ごと持って部屋の外に出ると、廊下にある掛け時計を見た。時刻は22時を回ったところのようである。


「……こんな時間か」


 あれから7時間程経っている。しかし、腹も空いてなければ、眠りが浅かったせいかあまり寝た気がしない。タカテラスは部屋に戻ると、ベッドに腰掛けた。


「……」


 ヒナタに会いに行くために始めた旅は、今日で二週間になった。これくらいでへこたれるつもりはなかったが、図書館で見た新聞が思った以上の衝撃だったらしく、気持ちが萎えている。

 ヒナタが魔法使い狩りに追われていることもそうだが、村を一つ洪水で流してしまったという話も気がかりだった。

 彼はタカテラスの村を救ってくれたのに、何故、新聞記事ではこんなことになっているのか。まだ、ヒナタであると分かったわけではないが、もしこれが彼であるなら、何か事情があったに違いない。そう思うと酷く胸が苦しくなった。


「……」


 タカテラスはおもむろにベッドの下をまさぐると、そこから如雨露を取り出した。

 村を救ってくれた如雨露。銀色に光るそれは、今も貰った時と同じように煌びやかである。


「ヒナタ……俺は本当のことを知りたいよ……。君は今どこにいるんだ? 生きているんだよな……? 会いたいよ……」


 そう言って彼が目を閉じ如雨露に額を当てたときだった。彼の視界が急に明るくなった。


「え?」


 不思議に思って目を開くと、不思議なことに如雨露が、様々な色に変化する柔らかな光を放っていた。


「これは……どういうことだ?」


 そしておかしなことに、如雨露は光を放っているのにも拘わらず、。そのため、暗がりは暗がりのままである。


「何なんだ……」


 タカテラスがどうしたらいいのか困っていると、如雨露の先端から、ゆっくりと光が伸びていき、窓の方へ向かう。


「外に何かあるのか?」


 彼は立ち上がり、暗がりの中、足元に気を付けて窓の傍へ行くと、光はまるで長いカーペットがうねるような動きをして窓を通過し、北東に向かって進んでいく。タカテラスは丘の上に建つ宿泊所から、街を見下ろすようにして光の行き先をじっと見守った。

 美しく幻想的な光は、じらすようにゆっくりとしていたが、タカテラスは静かにそのときを待つ。そして、光はあるところから伸びなくなった。


「あそこは……」


 暗がりで良くは見えないが、タカテラスは目を凝らし、その光が留まる場所を眺める。以前、グレイスに見せてもらったフィリンガー地図を頭の中に思い描き、光の指す場所と比較した。


「森か?」


 記憶にある地図を辿って見つかった場所。そこは確か、森だった。


「もしかして……そこにヒナタがいるのか?」


 まるで道しるべのように遠くに広がって行く輝きにすがるように、タカテラスは見つめる。その後光が一瞬強くなったかと思うと、森まで向かっていた光は、ゆっくりと如雨露の中へ戻り消えてしまった。


「……」


 この光が指し示すものが何なのか、実際のところは分からない。しかし、タカテラスは信じたかった。それがヒナタに通じるものであることを。


「行こう」


 彼はそう呟くと荷物をまとめ、明日に備えて再び眠りに就いたのだった。

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