第15話 森へ

 次の日、タカテラスは宿泊所を引き払うと、周囲の店で食料などを買い込み、昨夜光が指し示した森へ向かった。


 森までの道を人に聞きながら歩いていると、彼の前に、同じ方向に歩いていく人たちがちらほらと現れる。どうやら森を通った先に隣街があるらしく、通行料さえ払えば誰でも行き来ができるのだという。


 きっと隣町に用がある人たちなのだろうなと思いながら、彼らの後を付いて行くと、だんだんと森の姿が見えてくる。余程大きいと見えて、遠目からでも鬱蒼と木々が生い茂っているのが分かった。

 そこからは周囲を左回りに歩いていくと、木々の間にぽっかりと空いた場所が見えて来る。その手前には人が数人いて、制服を着て立つ人に、旅人風の恰好をした人たちがお金を渡して中へ入って行った。


「ここだ……」


 遠くから人が入って行くところを眺めると、道が続いており、周囲の人たちが生活をするために出入りしていることが伺える。


「よし、行こう」


 タカテラスは荷物を背負い直すと、森の入り口で通行料を取る人に金を渡し、意を決して足を踏み入れた。


 森に入ると、思ったよりもずっと道幅は広く、想像以上に向こうの街から来る人とすれ違うことが多かった。ときには貴族が乗っているのか、馬車も傍を通るので、ここを抜けるまでずっと道が平らになっているているのだろう。


(ヒナタは……向こうの街から来る人にでも紛れているのだろうか)


 如雨露の光が何を示したのかは分からない。しかしヒナタから如雨露を譲り受けてから22年間、昨夜のように光を放ったことなど一度としてない。そのため、意味もなくあんなことが起こるとも思えなかった。

 タカテラスは何か手がかりがあると信じ、道なりに森の中を歩き続けた。


(ちょうど半分くらいか……)

 

 じっとりとかいた汗を拭きながら、タカテラスは道の右端に立てられている看板を見た。森の中には時折看板が立ててあり、あとどのくらいで街に着くのかが表示されている。丁度通り過ぎようとしていた場所の看板には、白地に横線が引かれ、真ん中に赤い印が付いていた。つまり、ここがフィリンガーと隣街の丁度真ん中ということだ。


「……」


 タカテラスは空を見上げる。木々の枝が重なった隙間から見える、太陽の位置を確認しようとすると、南の頭上近い場所で燦燦と光を放っているそれがあった。


(少し休憩しよう)


 タカテラスは陽光のある位置で昼時を判断し、道の脇に逸れて腰を下ろす。背負っていた荷物から、ここへ来る前に買ったサンド(コッペパンのようなパン生地に、サラダやハムのような加工肉が無理矢理詰められているもの)を取り出すと、すぐに頬張った。パンの香ばしい香り、炒めた薄切りの肉から出る汁、サラダのシャキシャキとした食感。時折ピリリと辛い、カヤック(マスタードに近いもの)がアクセントになってとても美味しい。


 一つ目は、お腹が空いていたということもあり、あっという間に食べ切ってしまう。食料は万一に備えて多めに買ってあるので、彼はもう一つサンドを開けると、この先を歩くための体力を蓄えることにした。


 昼食を終えたタカテラスは、休憩もかねてその場に座ったまま茶を飲んだり、脇を通り過ぎる人たちの背を眺めていた。


 話をして歩いていく人や、馬車が通ると多少うるさく感じるが、森の中は静かだった。お陰で、森の奥で鳴く鳥のさえずりが聞こえてくる。タカテラスはそれが心地よく、いつしか木の根元でうたた寝してしまっていた。

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