第6話 はじめての魔法(?)
村長宅の裏庭には、自給できるだけの作物が育てられる畑や、花壇があり、さらには村の集まりなどがあった時に行えるような広場が備えられている。
魔法の練習をするには充分な広さだ。
後日再度教会を訪れて、神父さんに詳しく教えてもらえるとは思うが、ナシロはリルルと共に裏庭に出て、自分の才能色、魔法について今わかっていることだけでも確認してみたかった。
こう言っちゃなんだけど、率直にワクワクする。
だって魔法だよ、魔法!
○学生の時には、いつか撃てると思って下校中にカ○ハ○破の練習をかなり本気でやってたし、マンションの二階にあった実家の窓から空を飛ぶための練習で何度も飛び降りた(良い子はマネしないでね!)し、駐車場で人目を気にしながら『
……え? イタくないよね!? みんなやるよね!? やったよね!?
そんなボクが、ついに魔法がつかえる……!?
興奮しないはずがない!
ムフムフ笑っているボクの様子にちょっと怖がっていたリルルを落ち着かせるように、興奮を抑えて優しく笑顔で語り掛ける。
「ねえリルル、リルルはこの前、青1つの才能があるって言ってたよね?」
「うん、そうだよ。だからね、リルルは魔法が使えるんだって!」
「それはすごいね。じゃあリルルは今もう魔法が使えるの?」
リルルの自信満々な態度に、ボクの期待も膨らむ。
「ううん! 使えないよ!」
「あ、えーっと、そ、そうなんだ……」
ガクッ……!!
ありゃ? 才能があってもすぐには使えないのか、それともリルルが小さい子供だからだろうか?
「でもね、見てみて!」
リルルはそう言って手を前に差し出すと、意識を掌に集中するように目をつむった。
すると――
……
チョロ……
チョロチョロ……
なんと、少量ではあるが、掌から水があふれ出てきている!!
「お、おおぉおお……!?」
なんともまあ……!
アニメ、映画、漫画……色んな創作物でこういうシーンを見てきたが、現実に目にすると本当に度肝を抜かれるね……。
これが魔法か……! オラワクワクすっぞ!!
落ち着け、自分……。
なるほど、青の才能色というのはおそらく水系統の魔法ということなのだろう。
そしてよく見ると、リルルの手を中心に淡く青に輝いているのがわかる。
なんと幻想的な光景だろう。
「ふうっ……久しぶりにやってみたけど、ちゃんとできた!」
そう言って嬉しそうに私の顔を見ると、駆け寄って私の手を握ってブンブン振っている。
とても褒めてほしそうだ。
「スゴイね、リルル!! ボク感動したよ!」
実際とても驚いたし、感動したんだから間違いない。
「これが魔法なんだね。あ、でも、さっきリルルは魔法を使えないって……?」
「うんとね、リルルもよくわからないんだけど、ただちょっと水を出したりするだけなのは魔法って言わないって神父さんが言ってたんだ」
「そうなの?」
うーん、リルルの説明じゃ要領を得ないが、強弱の問題だろうか。リルルのは弱すぎて魔法と言えるレベルにない、とか。
やはり神父さんに詳しい話を聞かないと、先には進めないのかもね。
でもとりあえず、今リルルに見せてもらったやり方でチョロチョロっとでも出してみたい!
「ボクもちょっと試してみていいかな?」
「うん!ナシロもやってみて!」
「うん、それでなんだけど……さっきの水はどうやって出したのか教えてくれる?」
「もちろんだよ! えとね、手を前に出してね、目をつむってね、『水よでてこい~!』って念じるんだよ!」
ふむ……なるほど。
特に詠唱とか何か特別な手順が必要なわけじゃないと。
イメージが大事なのかも。
元の世界じゃ、実際に手から水や火が出せるわけじゃないけど、日本が世界に誇る文化でたくさんそういう魔法みたいなモノを見てきた身としては、ある意味イメージしやすいのかもしれないな。
よし。いっちょやってみるか!
ボクの才能色は赤・橙・青・緑・紫らしい。
どれから試そうかと思ったけど、考えてみたらリルルが見せてくれた青以外は、なんとなく予想はできるものの、どんな系統の能力かわからない。
青は水系統みたいだし、一番危険が少なそうだよな。
ということでやっぱり青の魔法を試してみようと思う。
先ほどのリルルの真似をして、手を前に差し出して意識を集中し、掌から水が湧き出てくるイメージを脳裏に浮かべた。
身体の内側で何かが駆け巡り、それらが掌に集約されていくような体感がある。
これがいわゆる魔法力的な何かだろうか。
なんというか、得も言われぬ脱力感のような、それでいて爽快感を感じるような複雑なモノだ。
「あっ!」
リルルの声が聞こえたが、ボクはそのままもっと集中して水を出すイメージを描き続けた。
チョロ…チョロ……
ゆっくりと目を開けて、自分の腕から手にかけて包み込んでいる青い輝きを見ると、掌から少しずつ水があふれだしているのがわかる。
リルルは魔法じゃないと言っていたけれど、これはボクにとっては紛れもなく魔法だ。
元の世界の物理法則を超えた、神のような力。
まずはボクに与えられたこのチカラを自由自在に使いこなせるようにならないと、当面の目標である家族の捜索に向かうことができない。
準備が整うまで何か月、何年かかるかわからないけれど、行方がわかるまでは諦めずに頑張ろう。
これは奈城というよりはナシロとしての感情が強く影響を与えているのだと思うけれど、奈城としても全面的に賛成ということで一致している。
そのためにも、まずは神父さんに魔法について教えてもらわないといけないな。
「やったね、ナシロ!」
「うん、リルル、ありがとう。なんとかできたみたい」
できれば他の色も試してみたいところだけど、ちゃんと正しいイメージができる自信がないし、危険なことになったら困るので、やめておくことにした。
ちょうど村長の奥さんがお昼ご飯の準備ができましたよと、呼びに来てくれたので、検証は後回しにして家の中に戻った。
◇◇
裏庭から居間を通って食堂に向かう途中で、村長さんと、来客らしき人物が通りかかった。
「リルル、ナシロ。裏庭に出ておったのか?」
「はい! リルルに魔法を教えてもらっていました」
そう言った瞬間、村長の隣に立っていた客が目を細め、ボクとリルルを観察するように見てきた。
「こ、これナシロ……!」
「ほぅ……これはこれは」
小太りの中年男が、ニヤつきながら眺めてくる。
なんだろう。
超不快な視線だ。前世では向けられたことのない類の視線。
全身に絡みつくような、ねばつくような……まさかこれって……。
気付くとリルルが震えながらボクの後ろに隠れ、うつむいて涙をこらえている。
ボクはリルルの身体を隠すように立ち、小太りの男を睨みつける。
「んん……?」
5歳の少女らしくない態度を取ってしまったボクに興味を抱いたのか、その男が一歩歩き出した瞬間、村長が自然な態度で間に割り込んだ。
「代官さま。ご紹介させていただきます。我が孫娘のリルルと、村の子でナシロと言いますじゃ」
「ん……? うむ、そうか。なかなか可愛い娘たちじゃの。大事に育てるが良い」
「は、ありがとうございますじゃ」
村長さんと会話しながらも、チラチラとこちらを気にする代官だという男。
「ふん。まあよい。また次に来た時にでも、ワシが直々に色々相談に乗ってやろう。ぐふふふ」
「何卒お手柔らかにお頼み申します……」
「よいよい、ワシに任せておけ」
二人が何の話をしているのかはわからないが、ロクでもない話なのは間違いなさそうだ。
また近いうちに来ると言って、代官は上機嫌で供を連れて帰って行った。
代官が帰ったあと、村長さんに促されて、みんなで食堂で昼食をとると、ナシロはリルルの部屋に二人で入った。
リルルがまだ怖がっているような気がしたので、しばらくそばに居ようと思ったのだ。
あの代官の視線……たぶんボクとリルルを欲望の対象として見る目だったように思う……。
前世ではもちろん自分がそんな目を向けられたことがないが、アレがそうなのか。なんというか……ただただ気持ちワルイ。
少女に転生してみて初めて気付いたが、隠そうともしない男の欲望って、女性にとってこんなにも恐ろしいものなんだ。
これからこの世界で女性として生きていく以上、こういうことは避けられないんだろうな……。
……しかしあのオッサン、いくらなんでも5歳の少女に欲情するか……?
さすがにこの世界でも、あいつはかなり異常な方だろう。
……だよね? 信じてるからね?
ちなみに「代官ってナニ?」とは聞けなかったので、また今度教えてもらおう。
◇◇
教会の神父さんに魔法について教えてもらう為の時間を調整してもらっている間、また村長さんの手の空いている時間に学問を教えてもらう日がしばらく続く。
ちょくちょく青の魔法を試してみたりもしたけれど、水がチョロチョロ出るくらいしか練習できなかった。
もっとチカラを込めればドバドバ出せそうだけど、制御できなかったら困るので自重しておいた。
またリルルと二人、水をチョロチョロ出して、ついでに花壇に水をあげていたら、その様子を見ていた村長さんが声をかけた。
「ナシロよ。この家の中なら構わんが、あまり外で魔法を使ったり、使えることを人に言わぬ方がよい。リルルにはもうその話はしてあるが、リルルも今一度肝に銘じるのじゃぞ」
「はい、おじいちゃん」
「は、はい、わかりました」
「世の中、良い人間ばかりではない。特に今はな……昔より悪い人間が増えてしまったのじゃ。二人のように幼く、貴重な才能色を持っておることが悪い人間の耳に入ってしまえば、二人が危ない目にあってしまうことがあるかもしれん」
ん……? 悪い人間が増えた? 何か紛争とかそういうことがあって治安が悪くなってるとかかな? それとも飢饉的な感じかも。
「じゃらかの。自分の身を自分で守れるような年になるまでは、人前ではあまり魔法を使ってはいかん。よいな、二人とも」
ボクとリルルは目を合わせ、二人で共に頷いた。
それから数日後、神父さんがまとまった時間が取れるということで、待ちに待った日がやってきた。
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