第13話 権能蒐集
家から祠のある遊び場までは、徒歩で5分ほどの距離だ。
その辺りはちょっとした林になっていて、子供たちが探検や鬼ごっこなどをして遊ぶのに丁度いい場所だ。
祠はその林のちょうど真ん中の、開けた場所に建っていて、石を使った意外と頑丈な造りをしていた。
周りに灯篭などの装飾品はなく、高さ3mほどの比較的大きいサイズで、子供たちが鬼ごっこなどで遊ぶ際には隠れ場所に使われたりしている。
リルルと二人でよく遊びに来ていたが、もちろん他の村の子供たちも遊びに来ていて、中でもナシロとリルルによくちょっかいを出してくる同い年の男の子がいた。
気になるなら一緒に仲良くして遊べばいいのに、そういうの苦手な男子って多いからね……いや奈城くんは違うよ、うん。女子にもジェントルマンだったはずだ。
あれぇ?
でも女子のお友達いなかったなぁ……?
泣けてくるからこの話はやめよう。そうしよう。
話が逸れたが、今日はその子はもちろん、誰も遊びに来ていないようだ。
誰もいない林の中に、リルルが物怖じもせずに入っていく。
リルルや子供たちがこの場所をあまり怖がらないのは、慣れているというのもあるが、林の真ん中あたりが祠を中心にポッカリと開けていることもあって、薄暗い印象はなく、緑の隙間を縫って日の光が適度に照らしてくれるからだ。
今日も日の光が適度に地表を暖め、林の中は少しひんやりとしているものの、とても気持ちのいい、清々しい空気で満たされている。
「じゃあリルル、先にお祈りしようか?」
「そうだね、お祈りしようしよう!」
もしここに他の子供たちがいたら、人見知りが発動してボクの陰に隠れてるんだろうけど、今日は誰もいないので、いつもの元気なリルルだ。
村の歩道から林の中に入るための目印は、いつもこのルートを通って林の中に遊びに行く子供たちが踏みしめて作った、けもの道のようにして出来た道だ。
奈城としては初めてだがナシロとしての記憶によって、何度も通い慣れた道をボクもリルルのすぐ後について行って、早速祠に向かう。
いつもと変わらず、いつからそこに建っているのかわからないが、いつの時代も子供たちの成長を見守ってきたのだろう。
そう思うと何やら畏敬の念が込み上げてくるというもんだ。
ボクは古い建物にロマンを感じるんだけど、それはその存在し続けていた年月というものに対して、何か侵しがたい神秘性を感じるという事も大きいと思う。
それはしかし建物だけではなく、その周りの自然や生き物、時にはそこに関係してきた人間であったりもする。
人は自らの生では到達しえない長い年月をかけたものに対して畏怖を覚え、そこに神性を見出す。
目の前の祠はまさしくボクにとってはそういう対象だ。
美しく、神々しい。
こう言っては失礼だが、このような辺境の何もない村の中に置かれているのは、不釣り合いな気がするほどの造形美だ。
ボクが祠に見とれてボーっとしていると、リルルに袖を引っ張られて我に返った。
「ねえねえ、どうしたの? はやくお祈りしようよ?」
「あ、ごめんごめん。今行くよ」
リルルに引っ張られる形で、祠の前に到着した。
近くで見ると益々その華麗さに心奪われそうになるが、ここは我慢だ。
二人で正面に立ち、身体の前で手を組み、目を閉じて祈る。
ここは聖統教会ではないので、祀られているのは聖統神ではなく、土地神や精霊の類かと思うが、とにかく祈ってみる。
――お願いします。家族が無事でいますように。それからリルルが無事に育ちますように。そのためにはチカラが必要です。ボクの才能にその力がありますように――
隣でリルルも真剣に祈りをささげている気配が感じられる。
ボクと同じく長い、長い祈りのようだ。
二人とも一心に祈り、そのうち具体的な内容を祈願するというよりはただ、ただ無心に純粋な祈りを捧げ続けた。
そうして一体どれほどの時間祈っていたのかわからなくなってきた時。
キィィィイイイイン―――
耳から聞こえてきたのか、身体の内から感じたのかわからないが、不思議な音が聞こえてきて、思わず目を開けると、祠の中から光が溢れているのが見えた。
隣を見ると、リルルにもその光が見えているのだろう、驚いた顔で祠を凝視している。
どんどん光が強くなり、眩さで目も開けていられないような白さの中、ナシロは誰かの声が聞こえたような気がした。
【―――ようこ……蜈ォ荳??蜊………卆蜊∽ク?世界へ……これか………なたの旅に……どう……役………―――】
耳からというより、頭の中に直接語り掛けてくるような感じだ。
所々聞こえない部分や、ノイズのように聞こえる部分もあったが、イヤホンを付けたように耳の奥に直接、何重にも重ねられた不思議な声が……
声が聞こえなくなると……突然何かが……頭の中に何かが差し込まれるよう痛みを感じる!
ぐっ……がっ……!!!
まるで脳の構造が造り変えられるような……!
頭がバラバラにされるような……!
「ナシロ!? ナシロ! 大丈夫!?」
光が収まって、リルルはナシロの様子がおかしいことに気付き、ナシロに呼びかけ、手を握って体を支えてくれた。
「だ、だいじょう……ぶ……」
ナシロに呼びかけられている内に、何かを無理やり脳にねじ込まれるような痛みが、少しずつ引いてきた……。
リルルに手を貸してもらって、何とか立ち上がることができた。
先ほどまで我慢できない程の痛みを感じていたはずだが、嘘のようにキレイさっぱりなくなっている。
念のため自分の身体のあちこちを触って確かめてみたが、他に痛みを感じたり、異常がある箇所はないようだ。
「あ、ありがとう、リル…………え?」
安心させるようにリルルに笑いかけようと彼女の方を見ると、何やらおかしな現象が起きている。
リルルの頭上に≪002≫という金色に光る文字が……?
あまりに不可解な現象なので、何かの見間違いかと目を擦ってみる。
やはり、見間違いではない。
な、なんだ……?
まったく予想だにしなかった事態に固まっていると、今度はボクの脳裏にある文字が浮かび上がる。
【
「ス…キル…コレクション……?」
思わず声に出して読んでしまったが、リルルの頭上の光る番号といい、まったくわけがわからない。
すると今度はボクの左腕のすぐそばに金色の光が現れ、光が治まると、そこには何かが浮いていた。
――本だ。
空中に浮かぶ本。
タイミング的に、ボクが【
全体的に豪華な装丁が施されていて、パッと見は黄金色の豪華な百科事典といった様相だ。
……しかしまぁ、黄金の本とは、なんとも派手な本だ。
持っていたらちょっと恥ずかしいかも……
プカプカと浮かぶ本を警戒して様子を伺っていると、
「あれ~? その本なあに?」
リルルも浮かぶ本に気付いたようで、いったい何だろうと首をかしげる。
「な、なんだろうね……? リルルもコレが何か知らない?」
「ううん、しらないよ? でもキラキラ光って、とってもキレイな本だね!」
念の為聞いてみたが、やっぱりリルルにも心当たりはないようだ。
この様子では、リルルの頭上に浮かぶ数字の事を聞いても結果は同じだろう。
二人で本の事や、先ほどまでの光の事をアレコレ話していると、浮かぶ本のページがパラパラと勝手にめくられていき、止まったページに何かが浮かび上がってきた。
――――――――――
【加入No.】 002
【名前】 リルル
【年齢】 5
【性別】 女
【所属】 スルナ村
【状態】 良好
【基本レベル】 1/42
【魔法レベル】 2
【魔法色ランク】 青:1 黄:1
【習得魔法】 ――
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
ん~~~!?
これは……いったいなんだあ……!?
リルルの名前が載っている。
それにリルルの頭上にある番号も……って、リルルの頭上に表示されていた番号が消えた。
もしかしてこれは、いわゆる鑑定的なモノだろうか。
そうだとしたら色々おかしいぞ。
まず基本レベルっていうのもよくわからないが…おかしいのは【魔法色ランク】だ。
これが教会で見てもらった才能色の話だとすると、リルルの鑑定結果は『青1』だけだったはずだ。
なのでリニーさんに教えてもらった話では、リルルの魔法レベルは、1のはずだ。
教会の鑑定になかった『黄1』が増えた?それで魔法レベルも2に上昇したとみるべきか?
これまで三人の大人に魔法の話を聞いてきたが、誰も才能色が新たに増えたりする話はしていなかった。
魔法の経験や学び方なんかによっては才能色が増減するということだろうか?
しかしそう簡単に才能色が増えるのならば、ボクの才能色でそこまで驚くことはなかったはずだ。
やはりこれはかなりイレギュラーな現象だろう。
とりあえずは、この情報は誰にも言わない方がよさそうだ。
その下には、四色流派が存在するという【武術流派】まで、情報として載っている。
その下の【魔技クラス】とか【習得魔闘技】というのは多分武術を覚えると解放されるんだろうな。
しばらく様子を見ていたが、どうやらこの本は害がなさそうなので、恐る恐る触ってみる。
透けて触れないかとも思ったけど、普通に手に取ることができた。
パラパラと他のページもめくって確認してみたが、ほとんど白紙だ。
「ふぅん……なんにも書いてないんだねー? お絵描きしてもいい本かな?」
いやリルルさん……この世界の本は気軽にお絵描きできるお値段じゃないと思うよ。
本を興味深そうに覗き込むリルルと一緒に、ボクは内容を確認していく。
ページが埋まっているのは最初の方だ。1ページに戻ってみる。
まずはさっき確認したリルルと同じように、今度はボクの情報が記載されている。
――――――――――
【加入No.】 001
【名前】 ナシロ
【年齢】 5
【性別】 女
【所属】 スルナ村
【状態】 良好
【基本レベル】 1/5
【魔法レベル】 7
【魔法色ランク】 赤:1 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1
【習得魔法】 ランク1…【土球】【土壁】
【習得英技】 ランク6…【権能蒐集】
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
上から順番に目で追っていく。
この加入ナンバー? というのはいったいなんだろうか……ボクとリルルで1番と2番……仲間になった証とかかな。
性別の項目はスルーだ。
わかりきったことだがスルーだ。
基本レベルというのも謎だ。どうやら上限があるような表記だけど。
上限だとしたら、生まれ持った潜在能力といった類のものだろうか……というかボクの上限レベル低くないか?
リルルが42もあるのに、ボクは5までしか上がらないのか……。
ここからがまた不可思議だ。
リルルと同じく、教会で鑑定してもらった結果と違っている。
鑑定結果では、『赤1 橙1 青1 緑1 紫1』で、魔法レベルは5だったはずだ。
それが、青が1から2に上がり、持っていなかったはずの黄1が増えて、魔法レベルは5から7へ。
【習得魔法】欄にリニーさんに教えてもらった【土球】と【土壁】があるのはわかる。
問題はその下。
【習得英技】とは……エイギ? 魔法じゃないのか?
これが先ほど脳裏に浮かんだ言葉だ。
【
この言葉を呟いたタイミングでこの本が出現したことを考えると、この本が【
名前からして、鑑定が主な能力ではないとは思うけど……。
まだまだ続きを確認したいところだけど、隣で一緒に覗き込んでいるリルルがもう退屈し始めていたので、続きは家に戻ってからにしようか。
「ねえリルル、そろそろお家に帰ろうか?」
「え? 帰っちゃうの? おいのりしたら遊んで帰るんでしょ?」
――あ。
そうだった。お祈りして遊ぶ約束だった。
本音を言うと早く本の内容を確認したいが、約束は約束だ。
リルルのお願いは可能な限り断らないことに決めている。
村長夫妻とリルルがいなかったらボクはどうなっていたかわからない。
この恩を返すためにもボクに出来ることはやろうと思う。
というわけで、逸る気持ちを抑えて、リルルがやりたいという遊びをしばらくしていたが、30分も経たない内にリルルが帰ろうと言うので、二人で家に帰った。
もっと遊びたかったんじゃないかと思うけど、もしかしたら、ボクが本に気を取られているのを感じたのかもしれない。ありがとう、リルル。
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