転生少女、はじめました。〜22歳建築男子大学生が少女に転生して、仲間を集めるほど強くなるスキルで無双する~

矢許タカシ

第一章 辺境の村編

第1話 プロローグ

「はあっ、はあっ……!」


「さあ、頑張って! もうすぐだからな!」


小さな少女が、男性に手を引かれて懸命に走っている。


薄暗い森の中。

日はすでに昇っているはずだが、その光がほとんど届かない程、鬱蒼とした木々に囲まれている。


「あなた……!」


少し先を進んでいた、幼子を抱いた女性が、男性に警戒を促すような声を出す。

男性は手を引いていた少女を後ろに庇うように、周囲を警戒しながら女性の元に向かう。


「まさか、ヤツら……もう……!?」


大人達の様子を見て不安に思ったのだろう。

少女が不安げな表情で男性に話しかける。


「おとうさん、どうしたの……? もう走らなくていいの?」


父と呼ばれた男性は、少女を一度見て、女性と幼子を見つめてから、何かを決心したように頷き、しゃがみ込んで少女の目線に合わせて、優しく語り掛ける。


「大丈夫だよ。何も心配はいらない。これからお父さんとお母さんはとても、とても大事な用事があるんだ。もしかしたら、お父さんとお母さんには、しばらく会えないかもしれない。ホントに……本当にごめんな……」


少女の母親も幼子を抱いたまま、少女を抱きしめるように包み込んだ。


「ごめん、ごめんね……! どうか、元気にしていてね……お父さんもお母さんも、あなたのことを愛しているわ。今までも、これからもずっと……!」


少女は状況がよくわからなかったが、何か悲しい事が起ころうとしていることは何となく理解できた。


「いや、いやだよ! おとうさん、おかあさん……!」


女性が少女に手をかざし、何かを呟くと手が紫の混じったような緑色の光に包まれる。

すると、少女は突然眠気を感じたように、ゆっくり、ゆっくりと瞼が閉じられていく。


その様子を男性と女性が最大限の愛情を注ぎながら見守る。


これから少女を待ち受ける運命に、どうか幸あれと願いながら。




◇◇




「おいッキミ!!そこに立つな!!! おい!聞い――」


 ゴウッ―――


「へっ…? いや、ちょっと、まっ――!?」



 僕は落ちた。


西暦2022年。


 全国的に異常気象が続いて、多少の強風程度で工事中断してられないとか、そんな日に大手ゼネコンが就活生用の現場見学会を開催するとか、そういうちょっと不幸な偶然が重なったせいか。


 それとも現場でぼんやりしながらフラフラ歩いていた自分のせいか。


 まあ自分が悪いよなあ…。


 超高層ビルの建設現場から落ちながら、どこか現実感ないまま、このまま死ぬんだろうなぁ…などと考えながら、アスファルトで舗装された道路に向かって、僕は落ちた。


 …ああ、僕の人生っていったい何だったんだろう。



 ……幼いころに事故で両親を亡くしてからは、引き取ってくれた祖父ちゃんの家でそれなりに楽しく暮らしてきた。


 腕のいい大工でもあった祖父ちゃんには、たくさんの事を教えてもらった。


 雑学好きな祖父ちゃんは、話し出すと止まらないので親戚中では有名だった。


「祖父ちゃんの話は長いからうかつに話を振るな」が暗黙の了解だった中、僕だけが興味を持って聞いていたので、祖父ちゃんも自分の持っている知識全部を僕に伝えようとでも思ったのか、毎日毎晩、缶ビール片手にほろ酔い気分の祖父ちゃんと、色んな話をした。


 そうこうして10歳を過ぎたころからは大工仕事の手伝いなんかもして、なんとなく建築関係の仕事に就きたいと、将来のビジョンなんかも持ち始めた。


 それなりに勉強を頑張って大学に入って、でも院に行かずに卒業したら働きたくって、就活始めて。


 そうやって参加した現場説明会&見学会でこんな目にあって。


 これから!っていう時だよね…。


 これから祖父ちゃんに教えてもらった色んな事を実践して、育ててもらった恩を返す意味でも社会に貢献して、自慢の孫だと、喜んでもらいたかった。



 ――さようなら、世界。


 生まれ変わったらもっと意味のある人生送りたいです。


 やりたかったこと、行きたかった場所。


 たくさんやり残したことがあります。


 祖父ちゃんに教えてもらったこと、まだ何にも生かせてない。



 ――きっと、よりよい世界を作る一助になれるよう頑張ります。


 だから――




 だから、なんなんだろう。


 もう何もないのに。


 まあいいや、こんなこと考えながら、僕は死んでいくんだなぁ。




 バチッ―――!!!!




「あいたっ!?」


 落下中になんだか電気ショックのようなものを感じたけど、これから死のうとしている時だし、そういう不可解なことも起きたりもするんだろうね…まぁどうでもいいや。



 祖父ちゃん…悲しむだろうなあ。


 お父さん、お母さん、二人の分も長生きしようと思っていたのに、叶えられなくてごめんなさい。


 えー、それから……


 …って、いくら死ぬ間際の走馬灯とやらが猛スピードで駆け抜けるらしいって言っても、さすがに時間がかかりすぎてないか…?




 もうなんぼなんでも落ちてるやろ。


 なんて、こんなエセ関西弁でツッコんでるヒマなんてあるはずない。




 そういえば、先ほどの電気ショックから、体の感覚がない気がする。




 落下して地面に激突したら痛そうだから、自然と体の痛覚を意識と感覚ごと手放そうとしてたので気づかなかったけど、目を開けてるのか、閉じてるのか、そもそも今落下してるのかもわからない。




 真っ暗なのか、まぶしいのか、いや、そもそも肉体があるのかどうかも自信がない。




 時間の間隔もアヤシイが、そんな状態のまましばらく経過すると、今度は急速に身体の感覚が戻り始めた。




 自分の肉体を感じる。周りの空気や音、においを感じる。


 どうやら僕はどこかに横たわっているらしい。




 静かに目を開ける。




 …はて?




 確か僕は高層ビルの建設現場からアスファルト舗装された道路あたりに落ちたはず。


 なのにいま目に映っているのは土の地面、そしてあたり一面おおいつくす草原……




 は?え?




 人は理解を超える事態に陥ると、声も出ないしまともな思考力も損なうらしい。

 なんだ、落ちたのはやっぱ夢か?


 て言うかそれ以外に思いつく言い訳(?)が浮かばない。


 なんて自分で自分に支離滅裂なツッコみを入れている間にも、気持ちが多少落ち着いてくる。


 これは夢じゃない。



 明晰夢とか、逆に夢を見てる間にどうやってこれは夢だと区別するんだ?とかいう話をよく聞くが、いやわかるだろ。



 これは現実だ。夢なんかじゃ断じてない。


 感じる風、におい、音、地面の感触…


 なぜだろうか。


 僕は確信をもってそう感じたのだ。

 ここで僕は現実を生きているのだと。



 そして僕の異世界生活が始まった――






 ―


 ――


 ―――のは百歩譲って許そう。




 ……しかしこれは許せん。


 僕は。


 ボクは。。。




 転生と同時に少女に生まれ変わっていた。




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