こういうのは、後々から、大人の言葉で書き換えちゃいけないものなのだ。

ゲームブック、あるいはTRPGに見られるような、語り手が画面の前の僕らに語りかけてくるタイプのお話です。
語りは間違いなく「男性の一人称」なので、読み始めると意外なほどに話がするりと入ってくると思います。そして、自分が「中学生の女の子」だったような気がしてくるはずです。僕はそうでした。あなたもそうです。

あなた、すなわちこの作品における「きみ」は女の子です。それも中学生の女の子。
大人と呼ぶにはまだ幼く、されど子供扱いするには大きすぎる。そんな青春まっさかりの不安定な季節に織り成す出会いと別れの物語が、ここにはこれでもかというほどにぎゅうぎゅうに詰まっています。

もしこれが三人称視点だったり、女の子視点だったら。あるいはそもそも語りかける形式ではなく、映像作品のように連なったシーンを追いかけていく形だったとしたら……おそらく、ここまで刺さってはいなかったでしょう。もちろん良い作品になっていたとは思いますが、少なくとも余韻にかり立てられるままにこうしてレビューを書いていることはなかったはず。それくらい強烈な一撃をもらいました。

例えるなら、この読書体験は手紙を読むのに近いでしょうか。
結婚式の手紙で泣いたり、タイムカプセルから出てきた手紙で寂しくなったり。たとえ宛名が自分では無かったとしても、横で聞いたり読むだけでも、なんだか自分ごととして捉えてしまう。そんな手紙というシステムがもつ不思議な魔力を、僕はこの作品からも感じました。

手紙の封をひらけば、そこには「二度とは来ないあの特別な季節」が入っています。
この手紙、ぜひ受け取ってみてはいかがでしょうか。

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