姉の願い、妹の一念
- ★★★ Excellent!!!
おゆき弁財天にまつわる伝承を掬い上げた郷土色の強い作品。
のびのびと脚色を加えていくさまは、昔話の成り立ちを見るかのよう。
戦国時代。斜陽の武田方についた為に翻弄される田峯菅沼家。
身内の裏切りにあい、田峯城に残されたのは菅沼家の家老「城所家」の妻子。
家老の妻は、年の離れた妹おゆきに子どもを託す。
おゆきは姉の子どもを連れて、命からがら田峯城から落ち延びる。
二人いた子のうち、おゆきはまず兄を寺へ匿い、さらに弟を連れて川を渡り村に身を潜める。見事、二人の幼子の命を救ってみせるのだ。
城所家の人々はおゆきの死後、お堂を建てた。
ここまでは史実である。
お蔭で今でも、「城所家」の子孫がいるそうだ。
田峯城が廃墟となり、朽ちた後も、おゆきが救った命は歴史のうねりの中で今の世に遺されている。
作者はそこに妖(あやかし)を配置して、おゆきの逃亡を手伝わせることにした。
姉妹作品『観音さまと夏の雪』にも出てくるこの妖、その名を『スガヌマ君』という。
スガヌマ君が、なぜおゆきを助けたのかは、読めば分かる。
余計な描写を大胆に省いた語り口は、囲炉裏の傍で、「昔むかし田峯のお城に、仲のよい姉妹がおってな」と、媼から昔がたりを聴いているかのようだ。