姉の願い、妹の一念

 おゆき弁財天にまつわる伝承を掬い上げた郷土色の強い作品。
 のびのびと脚色を加えていくさまは、昔話の成り立ちを見るかのよう。

 戦国時代。斜陽の武田方についた為に翻弄される田峯菅沼家。
 身内の裏切りにあい、田峯城に残されたのは菅沼家の家老「城所家」の妻子。
 家老の妻は、年の離れた妹おゆきに子どもを託す。
 おゆきは姉の子どもを連れて、命からがら田峯城から落ち延びる。

 二人いた子のうち、おゆきはまず兄を寺へ匿い、さらに弟を連れて川を渡り村に身を潜める。見事、二人の幼子の命を救ってみせるのだ。
 城所家の人々はおゆきの死後、お堂を建てた。
 ここまでは史実である。

 お蔭で今でも、「城所家」の子孫がいるそうだ。
 田峯城が廃墟となり、朽ちた後も、おゆきが救った命は歴史のうねりの中で今の世に遺されている。
 作者はそこに妖(あやかし)を配置して、おゆきの逃亡を手伝わせることにした。

 姉妹作品『観音さまと夏の雪』にも出てくるこの妖、その名を『スガヌマ君』という。

 スガヌマ君が、なぜおゆきを助けたのかは、読めば分かる。
 余計な描写を大胆に省いた語り口は、囲炉裏の傍で、「昔むかし田峯のお城に、仲のよい姉妹がおってな」と、媼から昔がたりを聴いているかのようだ。

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