献身と慈愛が切り開く逃避行

物語自体は重く陰鬱な雰囲気を醸し出していたものの、主人公や妖の存在によって上手く調和のとれていた作品でした。こうした要素は実際の出来事に対する、ある種のIfの展開を示唆していたのかなと通読して感じました。フィクションならではの「救い」や「温かさ」が余すことなく表現されており、読んでいて楽しかったです。

また、登場人物たちのやり取りも本作の醍醐味と言えます。単純に面白いというのではなく、どこかリアルな影があるといいますか。場面ごとに表される登場人物たちの想いや、そのときだからこそ映える会話などは非常に印象深かったです。情景描写も相まって、脳内で一つの絵として浮かび上がることもしばしばありました。どこか幻想的で、それでいて小説としての旨味もある。時代小説好き、ファンタジー好きの両者に是非とも手に取ってもらいたい作品です。

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