轍に愛憎を満たして
- ★★★ Excellent!!!
狂気にみえて平気、ちーちゃんの世界は理想郷。
日常に震えて緊張、ひーくんの頭のなかは戦場。
殻の内側で、愉快で笑えない遊びに夢中なのが独り。
殻の厚みが心配で、今日も作り笑いに励むのが一人。
傷つき割れてしまえば中身が混ざって、もうどちらの血だったのかもわからない。
抑えがたい衝動、妄執の末にある一滴の諦念をじっくりと煮詰めた作品です。
猟奇的な趣味を持つ女の子と、常識的な物差しを持った男の子。二人の特性が合わさったとき、物事はどのような変化をみせるでしょうか。思いつく限りを挙げた中に、本作の粗筋が含まれていることは珍しくありません。それでも「予想通り」を容易く捻じ曲げてしまうのが作者様の怖いところです。ときにはグロテスクな描写で、またあるときは背骨まで凍りそうなホラー演出で。多彩な筆致が生む刺激によって、貴方の先入観はあっという間に剥がされていくことでしょう。
それだけに留まらず、人物の内面を縁取る表現力も絶妙です。多くを語らないまでも、考察の材料は残していく。その繰り返しには誘われているような怪しさと、不思議な心地よさが同居しています。そう簡単に言葉で表せない人間の感情を楽しみながら、物語を追いたい方には極上の体験が待っていること請け合いです。この作品でしか味わえない旨味がきっとあります。ただし、興味本位で迂闊に手を出すと雑味が出てしまうかもしれません。そうならないように、最後に一つだけ助言を。
決して怖いもの見たさでページをめくらないように。