知性の一ページをめくる
- ★★★ Excellent!!!
仮想箱なる装置が見せる、単一の世界と無数の解釈。
他の方々のレビューにもあるように本作は、著者の『仮想箱₋synonym』の導入として機能しており、仮想箱の一つである廃棄物処理施設での一幕にフォーカスされています。とはいえ、この「一つ」を読者に軽く流させないところが著者の凄さでしょう。冒頭で述べたように無数の解釈が生まれて、考察が絶えないのです。含蓄のあるテーマを短編に落とし込み、それでいて嵩張りを感じさせない。その技術力とセンスは一朝一夕で拵えることはできません。
センスで話を広げるならば、物語の展開も押さえておきたい点です。作中では問題提起が為されますが、これを紐解くパーツに衒学や持論は用意せず、著者はひたすらにフラットな視点で読者に問題を問い続ける。一貫した姿勢からは、「著者こそが一番、この問題を自らに問い続けている」と思わせられるほどでした。物語の中での様々な描写においても同様であり、注目すべき一コマをあえて脱色させ、あたかも自然に描写する筆致が印象に残りましたね。まさに映画のワンシーンのようで、かえって記憶に残ります。
別作品の導入という側面こそあれど、内容は約一万字の中で完結しています。仮想箱とはなんなのか、人間とはなんなのか。答えのないものの先にはなにがあるのか。気になった方は先入観に囚われず、まずは勢いに任せて飛び込んでみてください。なにせ本作は貴方が気になっていることの「説明書」なのですから。