こなれた調子の詩が織りなす、それとは真逆の人間模様。
そのギャップが本作の最大の特徴であり、深みを生み出している点だといえます。作品が洗練されるにつれて、表現したいものの自然さが薄れていくというのはままある事かと思います。だからこそ整えた土台の上で、あるがままの自然さを転がす表現力には唸らされました。しかも本作は人間の心が主題。ひどく曖昧で、切り口次第では覗く顔も数知れず。この不確かなものから装飾、説法、賛美といったあらゆる細工を排したうえで、その輪郭を克明に縁取った作品はそう多くはないでしょう。練度がものを言う領域です。
それを下支えする詩も当然ながら素晴らしい。
真意を探らず、読んでいるだけでも十分に楽しめます。個人的には考察を交えつつ読み進めるのがお勧めですが、楽しみ方は人それぞれですね。ただし一度で終わらず、二度三度と読んでほしいです。そうすれば、そのたびに見え方が変わっていくという面白い体験ができるかもしれません。詩だからこそ味わえる、自分だけの考察に浸りたい方は是非ともご一読を。たしかな技術と感性によって形作られた世界が、きっと貴方の心を満たすことでしょう。