口笛吹いてる 男の美学

 こちらの作品、『ルパン三世のテーマ』が脳裏に流れて仕方がなかった。
 アニメのあの絵ではなく、頭の中には相当なイケメンがイメージとして登場していたのだが、テーマ曲はルパンだった。
 黄色い太陽。カッパドキアのような奇岩のひしめく無人の荒れ地。

 戦後、日本人骨抜き政策によって、弱体化した男が愛好する対象は不二子のような妖艶な美女からパジャマ姿の幼女へと移行、刃は何かを守って強い者に立ち向かう為ではなく、弱い者をうっぷん晴らしに刺して回るためのものに成り果てた。
 背中で語れる大人の男など絶滅危惧種だ。
 そんな中であっても、やはり人はどうしようもなく野生味に魅了され、豪快な英傑の生きざまに憧れ、未知の世界に飛び込む冒険譚に心を奪われる。
 その一つがここにある。

 乾いた文体は物語の中に吹く砂塵に似つかわしい。だるい態度で任務に就きながらも両眼に何かを探す光を宿している青年は、たとえ牙を抜かれても死に際まで雄たけびを上げるであろうことを匂わせる。
 そんな彼の前に現れる一粒の宝石。
 こまかな事情は一切語られない。強い印象を胸に残してくる映画の予告編のような掌編なのだ。

 カッコいいにも幅がある。醒めた態度でいながらも胸に熱いものを秘めた男らしい男というものは今も昔もカッコいい。
 余談だが、『ルパン三世のテーマ』の歌詞中「男には 自分の世界がある」の部分を、けっこう長い間、「男には 無限の世界がある」だと想い込んでいた。
 エメラルドが鍾乳洞の一滴のように岩間にきらめくこの物語には、「男には 無限の世界がある」の方がしっくりくる気がする。

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