風鈴送り
- ★★★ Excellent!!!
南部鉄器の風鈴。
実によい音だ。
キンシャラと鳴る玻璃の風鈴もよいが、南部鉄器の音はどこか冷たく、よそよそしい。
清涼なこの音色に送られて、その一族の女は夏に逝くのだという。
主人公は四十歳手前。
独身で、子はいない。
死病にかかり、身辺の整理はあらかたすでに終えてある。
家系は自分が最後である。
母をはやくに亡くし、祖母に育てられた。
一族の女はみな夏に死ぬ。
そのことを教えてくれた祖母も、もう七回忌だ。
角灯籠が流れる夜の川。
孤独死を心配されている主人公は周囲の人たちの勧めで、緩和ケア病棟に入院することになる。もはや治療など意味がない。静かに終わりに向かって日々を送るのだ。
その耳はまだ風鈴の音をとらえる。
生きている限り夏はまだそこにある。
燃える紅葉を待ち、まぼろしの白い雪を夏の空に追う。
「私」は遠からず死ぬ。
川の先に灯りが消えていく夜の灯籠流しは、人生の流れの終焉を想わせる。
どんな生涯であってもやがては流れ去る。
カーディガンを羽織る。主人公はまた生きる。
介護担当の若者と出逢う。また生きる。
死を題材にすることは、ともすれば予定調和の平凡なものに陥りがちだが、最後の日々を丁寧に生きることはこんなにも尊いと、この静かな物語は控えめに教えてくれる。
夏の風鈴の音が送り出す命の先には、浄土の風鈴がきっと鳴っている。