第8話 そして、レディ・ルイーズは決意する

 幸いな事に公爵家、子爵家、それぞれからお手紙をいただいたけれども大したことはなかった。

 公爵家……というか、父の上司からは『なんか泣きつかれたけどそちらで解決してください』って内容だったのでお前があんなボンクラ紹介しなきゃこんなトラブル起きなかったのに……と思ってしまった。

 思っただけに留めて、お手数をお掛けして申し訳ありませんって手紙を書いて置いた。


 ちなみに父は病欠が続いているので、クビになるかもしれないからそろそろ出仕しろと何故かその手紙で伝言を頼まれたんだけど……それはそちらの問題なので、こっちを巻き込まないでくれないかなあと思ったのはこれまた内緒の話だ。

 義母が知ったら自分たちのせいだってまた落ち込んじゃいそうだからね!


 子爵家もまあなんていうか、一応問題なかった。一応。

 息子がなんだか失礼なことをしたらしいけど婚約者だから許してやってくれ、新しい家族と仲良くなりたかっただけらしいから。

 婿に来る宛てがなくなったら困るでしょ? 公爵家と繋がりもあるうちの子ほど優良物件はないよ?


 ってな感じの内容だった。

 一応あちらのご夫妻は自分の息子がやらかしたことは察しているようだけど……それでも酷いな? トラブルが避けられたからヨシとして置くけど……こっちは一応侯爵家だぞ?

 いくら公爵家と若干の・・・仲違いをしたところで、婿選びに困ることなんてないんだから! ……多分。


 まあ、今の時期は私としてもいざこざを起こされても困るから、両家共に侯爵家へもの申すような内容じゃなくて本当に良かった。


「ルイーズたん、ダイジョウブ? 天日干ししたエシャレットちゃんモフる?」


「お姉様それを仰るならひなたぼっこしていたエシャレットを撫でるか、ですわ。……とりあえずこの間の、エッカルト様の件は一応当人同士で解決するということで落ち着きましたからご安心ください」


「マジ病むわ~……あーしがメンブレしてる場合じゃねーんだけど、秒でアイツぶん殴ろうと思ったの割とマジでめんごね……」


「……ええと……。大丈夫ですよ、私もエッカルト様があのような方だと知らず、お姉様にもご心配をかけてしまい……」


 多分だけど、エッカルト様に対して殴りたいほど怒ってしまった結果追い返したことを謝罪してくださったのよね?

 しょぼんとした状態で大型犬を抱えている姿はなんともパワフルなんだけども。

 ドレスでも、意外とイケるのね……?


「まあ婚約者とかさ、よきのきどっちって話だけどあーしにはどうしようもないんだと思う。ちゃけば、じこちゅーかもだけど!」


「は、はい?」


「あーし、ルイーズたんには幸せになってほしいんだよね。だって折角家族になったのに、あんなんが婚約者じゃお先真っ暗もいいとこじゃん?」


「……お姉様……」


 なんか言われていることが半分くらいしか理解できないけど、なんか愛されていることはよくわかった。

 物語がどうとかそんなの関係なく、今の私たちなら『仲の良い姉妹だ』とどこに言っても自慢できると思うのよ。


 お姉様の令嬢教育は一応進んでいて、天賦の才なのか立ち居振る舞いに関しては割とすぐ及第点をもらえたのよね。先生もびっくりしてらした。

 でも、この言葉遣いだけはどうにもならなくて……。黙って微笑む、もしくは常に口数を減らして仲を深めてから素を少しずつ出していくというのが最善だろうということに落ち着いている。


 お姉様自身は令嬢として生きることに難色を示しておらるし、私もできたらお姉様には自由に生きていただきたいけれど……残念ながら侯爵家の縁者となった以上そうもいかないのが現実なのよね。


「そういえばお姉様、不躾ながら伺いたいことがございます」


「ん? なーにぃ?」


「お姉様の、男性に対するお好みを教えてくださいませ!」


 そう、私は決めている。

 お姉様は侯爵家の縁者、もう平民でいられて頃に比べれば自由がない。

 

 なら、せめて。


(せめて、お姉様には良い縁談を見つけてさしあげたい……!!)


 淑女の仮面を一旦被っていただいて、縁談がまとまってからちょっとずつ素を出せるような関係になれる、そんな素敵な人に出会っていただいて幸せに。

 私とエッカルト様のことはもうよっぽどのことがないとどうしようもないけれど、お姉様の縁談だけは私がなんとか結んでみせる。


 もうお父様には頼らない。絶対、変な人引き当ててくるもの!!

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