婚約破棄される物語の主人公だけど、それより義姉を立派な淑女にしなくては~レディ・ルイーズは挫けない!!~

玉響なつめ

第1話 レディ・ルイーズの受難

 私ことルイーズ・ディララ・エルドハバードは緊張していた。

 侯爵令嬢として生を受け、淑女として誰の前に立っても恥ずかしくないようにと教育を受けているので緊張していようとも優雅さは忘れていない。

 けれど、緊張しているのには理由がある。


(もうすぐ、もうすぐ来るのね……!)


 そう、もうすぐ我が家に人がやってくるのだ。

 後妻と、その娘――つまり私にとっての義姉が。


意地悪な・・・・義姉、カサブランカ……ああ、どうしよう。ちゃんと私はやり返せるかしら?)


 緊張しすぎて手に持っていた扇を強く握りしめてしまった。

 その様子に隣の父も気づいたらしく、私に困ったような笑みを浮かべて話しかけてくる。


「緊張しているのかい、ルイーズ」


「はい、初めてお目にかかりますので」


「大丈夫だ、二人とも平民だから言葉遣いなどは少々粗暴ではあるが、気の良い二人だからきっとお前もすぐに打ち解けられる」


「さようですか」


 若干素っ気ない物言いになったが、そこは許してもらいたい。

 だって、あんまりな話なんだよこれが!!


 半年前、私のお母様……つまり侯爵夫人が病気で他界した。

 体の弱い人だったので、仕方のないことだったのかもしれない。優しい人だった。

 もともとこの侯爵家はお母様の実家であり、お父様は養子。

 それでも仲睦まじい夫婦だと私は信じていたのよ。


 ところがである。


 この父、なんと愛人がいやがったのだ。

 しかも愛人を囲うだけならまだしも(いや、娘としては許せないけども)、私が生まれるよりも前に愛人に子供を産ませて(貴族的に醜聞だ)、挙げ句に後妻として迎えると言い出したのだ。


 正妻を蔑ろにしていたわけではないし、女侯爵である母を立ててくれていたこともみんな知っている。

 知っているが、これはないだろう!!


 しかも妻が亡くなって半年で愛人を後妻に迎えるって!

 娘である私へも侯爵家の体面に対しても、デリカシーのデの字もないわ!!


 勿論愛人を連れて帰ってくると決めた父に対し、古くから我が家に仕える使用人たちは反対もした。

 それを押し切って、次期侯爵である私の後見人なのだからと権力を振りかざしたのである。


 問題は、その愛人と娘である。

 私は、知っているのだ。

 その二人がこの家に入りエルドハバード侯爵家の人間となった途端、私のことをいじめ抜き、最終的には私の婚約者まで奪い去ると言うことを!


(まさか私が、あの・・『レディ・ルイーズは挫けない!』のルイーズに生まれ変わるだなんて……!!)


 レディシリーズ、そう呼ばれる婚約破棄にまつわる物語三部作。

 そのうちの一つにある、次期侯爵であるはずなのに義姉に虐げられ追いやられたルイーズが最終的に婚約破棄され、追放されてしまっても諦めることなく幸せを掴み最後にはやり返すのが主体だ。

 ちなみに他の二つのシリーズもこれに関連しており、婚約破棄される現場でルイーズを庇うご令嬢と、追放されたルイーズを助けてくれる少女がこの国の第二王子と出会うものである。


 つまり、シリーズ第一作ってやつである。やったね!


(って何も『やったね!』じゃないわあああああ!!)


 私は追放されて辛酸を嘗めた挙げ句に商会を立ち上げたり商売先で危険な目に遭ったり、ロマンスっぽいことになった上で国に戻るからって涙のお別れなんかしたくない!

 っていうかその程度で私との別れをさっくり受け入れるようなカレシなんてこっちから願い下げだ! そこは食い下がってこいよお!


「ルイーズ様、旦那様。お客様がお見えにございます」


「おお、そうか! お前たち、出迎えをしっかり頼むぞ。未来のエルドハバード侯爵夫人なのだからな!」


 父の浮かれる姿にどんどん気持ちが急降下する。

 ねえ、わかってるのかしら。

 執事は私の名前を先に呼んでいるのよ? お父様は当主じゃなくてあくまで代行なんだからね?

 だから愛人が後妻になったとしてもそれは確かにエルドハバード夫人ではあっても侯爵夫人ではないのよ?


(はあ、頭が痛い……)


 実父が使い物にならないポンコツってだなんて事実、本当に頭が痛い。

 その上、愛人とその娘が常識的な人物だったならまだしも私を虐めてくるとわかっているんだからね。


 どうしてくれようかと内心思っているところで、玄関に入ってきた女性の姿が二つ、見えた。

 逆行でシルエットになっているけれど、私は軽く頭を下げて彼女たちを歓迎する態度を示そうとして――固まってしまった。


「きゃあ~~~~マジおひめさまじゃん! やばっ、尊い……尊みの極みじゃん。え、マジで? コノコあーしの妹になんの? え~~~無理みがつよい~~~あ、あーしカサブランカ。気軽にランおねえちゃんって呼んで!」


「は? え? ラ、ランおねえさま……で、ですか?」


「やば。妹しかマジ勝たん。あーし超はっぴーなんですけど」


 突撃されるようにして手を掴まれた上にぶんぶん振り回してくるのは、確かに私の記憶にもあるカサブランカだ。間違いない。

 水色の髪に垂れ目で泣きぼくろが色っぽくて、胸は大きく腰はくびれて色気の暴力か。


 でも、なんか、こう……さあ。

 言動、おかしくないかな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る