第21話 婚約破棄は無事成立した、けど
それからは、とても早かった。
カイバン公爵様もシャレンズ公爵夫人も、揃ってエッカルト様の行動の非常識さにとても腹を立てて私との婚約破棄を賛成し、後押ししてくださったのだ。
そうなればいくらバイカルト子爵夫妻が謝ろうがなんだろうが、我が国の最高位貴族二家が賛同しているところに刃向かうなんてできるわけもなく……それに、エッカルト様の頼みの綱でもあった王子殿下も「呆れる以外ない」ってはっきり仰ったから学友としても見限られてしまったのではないかしら。
そうなるともう、エッカルト様の未来は真っ暗でしょうね!
軍人として生きるというのは可能でしょうけれど、ミヒャエル様が「才能がない」ってはっきり断言してらしたことを考えると一兵卒で終わるのか、或いは子爵令息であることからそこに忖度が働いて少しだけは出世するのかいずれでしょうね。
(ああ、でも出世はないかしらね)
なんせ寄親を怒らせてしまったのだし、子爵家がどういう対応を次男に対してあの家の行く末が定まるってもんですよ。
私がバイカルト子爵なら、可哀想だけれどエッカルト様のことは見捨てる。
それでも当面は社交界で針のむしろになってバイカルト子爵家は領地運営にも影響が出るだろうし、そう考えるとエッカルト様のお兄様は苦労するでしょうけど……そういや私、お目にかかったことないわ。
じゃあいいか。
(……疲れた、なあ)
あの婚約破棄から数日経って、私は何もする気力が起きなくなっていた。
エッカルト様がやったみたいに派手さはないけど、正当性で真っ向から婚約破棄をして、賛同をもらって行ったから慰謝料の受け取りや私に問題が一切なかったこと、それらは証明されたから今後も婿を取るのに問題は起きない……はずだ。
私はエルドハバード侯爵家の娘として、体面を守って行動をした。
それはひいては私自身のためだったしやっておくべきことだったし、穏便に片付けるタイミングを全部潰したのは向こうだし、悪いことなんてなに一つないってわかっている。
わかっているけど、ひどく……疲れたのだ。
エッカルト様とは、確かに親が勝手に決めた関係だった。
お互いに想い合うなんて言葉とは無縁だったし、共に過ごした時間だって数える程度しかない。
それでも。
それでも、婚約者だったのだ。
少なからず、ショックを受けた。そのことに、ショックを受けてしまった。
(……私も、悪かったんだろうなあ)
記憶を取り戻す前も、取り戻した今も、エッカルト様に対して思うところはない。
ただ、もう少しだけ……歩み寄っておけば良かったなとは、思ったかもしれない。
「ルイーズたん……」
「お姉様」
「ええと、あの、あーしもきゃぱいっていうかなんていうか」
「きゃぱい?」
なんだそれは。
お姉様の言葉がわからないなりになんとなく前後で察してきたけど、今回はわからないぞ!!
もしや新しい目のギャル語……?
困る私をよそに、お姉様は困ったように私の手を取った。
「あのね」
「お姉様?」
「ダーリンがデートに誘ってくれたんだけど」
「まあ、よろしいじゃありませんか」
そうだ、私が無気力だからってお姉様までそれに付き合って引きこもる必要はないのよ。
まあ、お姉様は毎朝エシャレットちゃん(定着した)と仲良く庭仕事してたはずだけど。庭師が才能あるって褒めてたからその実力は折り紙つきよ!
ただ花壇で育てているのが野菜だって話なのが気になるところではあるけれど……好きにしていいって私が許可を出したんだけどね。
いいじゃない、お野菜の花も可愛いのよ?
「うん。ダーリンが来てくれるのマジうれしーんだけど、そのね、カリル様も来てんの」
「え?」
「ルイーズたんに会いたいってついて来ちゃったんだって……ねえ、どする? ちゃけば、お偉いさんの息子でもあーしには関係ないし、ルイーズたんがヤなら回れ右させっけど」
「ええと……」
お姉様は私の意思を尊重すると言ってくれているのかな?
それにしてもカリル様がこちらにいらっしゃるだなんて想像もしていなかった。
あの日はご迷惑をお掛けして本当に申し訳なかったけど、あちらはあちらで『面白いモノが見れた』と笑ってくださったから……。
「……折角来てくださったのだもの、ご一緒させてもらえたら嬉しいわ。お姉様は二人きりのデートでなくなってしまってもよろしいの?」
「ルイーズたんがいてくれるならあーしはそっちの方がいい!」
「まあ! ライルお義兄様が妬いてしまいます」
「それはそれでよき」
にししと笑うお姉様に、私も釣られて笑う。
ああ、でもどこにも出かけるつもりなんてなかったから部屋着のままだった!
「お姉様、急ぎ支度して参りますのでお二人を客間にご案内してくださいます?」
「りょ~!!」
そうよね、婚約破棄で私は悪くないんだから閉じこもっていてもだめよね!
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