第15話 役者が揃えば怖いものなし

「こちらはカリル・ローゼンハバード様です」


「ローゼンハバード? ……隣国の公爵家ですか?」


 公爵夫人の顔がやや強張りましたが、私はおっとりと笑ってみせました。

 それに併せるように何故か隣に立つカリル様が私の肩を抱くようにしましたが……ええ、まあ、入場する前に紹介していただいた際、婚約者に対してやりこめたい・・・・・・旨を伝えてあるので私を守るようにしてくださっているのかもしれません。


 でも正直なところ、私はエッカルト様以外の男性と接触したことがありませんので少々ドギマギしてしまいます。

 顔が赤くなっていないといいのですけれど!


「カリル・ローゼンハバードと申します。仰る通り、私はこの国の者ではございません」


「まあ! ……そうだったわ、隣国との交換留学生でローゼンハバード家の三男がおいでだと伺っておりましたが……貴方が?」


「はい」

 

「カリル様は辺境伯様のところにご滞在とのことですが、本日のパーティーは不参加の予定でしたの。でも、ライルお義兄様の婚約発表も兼ねて挨拶回りをすると耳になさって、友人の祝い事に是非参加したいと……ああ、勿論許可はとっておられるとのことです」


「まあ!」


「私にエスコート役がいないことを知って、こうしてお助けくださって……とても感謝しておりますの」

 

「まあ……まあまあ! そうだったの」


 公爵夫人との会話に注目が集まる中、段々とエッカルト様は居心地が悪くなっておられるようですね。

 そうです、私が申し上げたことは一つも嘘など含まれておりませんとも。

 私は浮気なんてしておりませんし、エッカルト様から贈り物もいただけなければエスコートもしていただけず、婚約破棄を申しつけられた可哀想な令嬢なのです。

 そこで友人の祝い事について来たカリル様が哀れに思って手助けしてくださった……と、まあ概ねあっておりますもの!


 とはいえ、本当のところを言えばエッカルト様の行動が予想外だっただけで、今回どうせエスコートされなかったであろうこととここまでの流れまでは計画的なものです。


 カリル様は隣国の公爵家出身ですが、三男ということもあって良い嫁ぎ先をお探しとのこと。

 自国では同じ年頃の女性とウマが合わず、交換留学の話を耳にして一も二もなく飛びついてこちらにいらっしゃったんだとか!

 軍部に所属したいそうなのですが、それはそれで公爵家出身というのが色々と問題を起こしたりしたらしく……。

 以前から辺境伯とは親交があるそうで、その繋がりでライルお義兄様とも親しいとのことでした。

 

 ライルお義兄様とは本当に仲が良いらしく、私とカサブランカお姉様、そしてエッカルト様が流したであろう噂の数々……それらを元にやり返してやりたいこと、いずれは婚約破棄をしたいこと、カリル様の婿入り先を探す手伝いをする代わりにエスコート役を頼みたいこと……とまあそういう利害一致ですね。


 でもカリル様は素敵な方なんですよ!

 これは大変役得でもあるのです。


 エッカルト様と違って、ライルお義兄様ほどではないもののがっしりとした体つきで気品溢れる振る舞い、そして凜とした佇まい、お顔立ちもとても綺麗で……ライルお義兄様経由で少しだけ手紙のやりとりをしたのですが、教養も高いと思うのです。

 そんな方にエスコートしていただけるだなんて、淑女冥利に尽きるというものです!


「これは一体何事ですか……!!」


 騒ぎに気付いたのでしょう、主催者と一緒に来た男性が咎めるような口調で私たちのところへやってきました。

 その人物を見てエッカルト様がホッとした顔をしておりましたが、私は扇子で口元を隠しつつ思わずにやりと笑ってしまったのでした。

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