第17話 さあさあ、賑わって参りました
「まず、この騒ぎは一体何なんだ?」
「ことの始まりは私がこちらにおります義姉と共に来たところから始まるのですが……」
「うん? 待ってくれ、いくつかこの段階で確認したいのだが……。まず、ルイーズ嬢とそちらの義姉は姉妹だけで会場に来たのか?」
「はい。義姉はこちらにいらっしゃるヴィズ男爵と婚約をしておりますが、彼は任務の都合で遅れると連絡がありましたので……。私はエッカルト様から一度も連絡がなかったため、遅れぬよう義姉と会場に参った次第です」
「……連絡が、なかった……?」
「そ、それには! 事情が!!」
さすがに貴族社会で当然のルールを守っていない、そんな常識知らずのことが横行していたなんて殿下には俄に信じがたかったようです。
ただそこでエッカルト様が声を上げたので私が正しいって証明されちゃいましたけどね!
気にせずドンドン行きますよ!
「到着したところ、会場の入り口でエッカルト様から婚約破棄を言い渡されました。衆目の認めるところでありますので……その話題が会場内にも……。そして、その事実確認をするため、シャレンズ公爵夫人がお声をかけてくださったのです」
「ええ。その通りですわ」
「なんだって……」
殿下もさすがに学友の仕出かしたことに驚きを隠せません。
いやあ、私もここまで話してどこまでいってもあり得ないな? って思いますからね!
ちなみに私の横に座るラン姉様は真顔でエッカルト様を睨み付けています。
でもそれって、彼にとってご褒美なのでは……?
「どうも聞いていた話と違うな、エッカルト。僕は君から、ルイーズ嬢が君に一方的に惚れ込み婚約を無理矢理した挙げ句、平民出身の義姉を虐げ望まぬ婚約を押し付け本人は贅沢三昧と聞いたが?」
「そ、それは……彼女が婿に入る際、自分には騎士とならずエルドハバード侯爵家の私兵を取りまとめるものになれと、それは傍若無人な振る舞いではございませんか!」
え、それのどこがおかしいの。
領地を持つ貴族には自領の治安を守るために私兵を持っていることが殆どです。
この場合ややこしく感じるかもしれませんが、王家直轄の騎士たちとは違い領主直轄という扱いなので私兵と呼ばるけど……騎士には違いないのよ?
ぶっちゃけ、扱いとしては国家公務員には違いありませんからね!
地方か中央かって違いです。
で、さらにぶっちゃけた話をすると我がエルドハバード侯爵家は武人の家系。
私が領地を運営するなら、婿は何をするのかって話です。
うちの父親のように騎士として……といっても実は騎士隊に所属する文官(いざとなったら武器が扱える準騎士なんだけど、まあ騎士は騎士である)みたいに働きに出るのはいいと思うけれど、エッカルト様は……まあ、ねえ。
文官としては才がなく、武人としては……お察しで。
(本当になんでお父様はこの人が私の婚約者に相応しいって思ったのかしら。カイバン公爵家と繋がりが持てるから? ないわー。本当に、ないわー!)
心の中でくらい悪態をついたっていいでしょう。
それにしても私が惚れ込んだって……事実を捻じ曲げないでいただきたい。
「殿下、どうやら認識に違いがあるようですのでここではっきりさせたいですわ。カイバン公爵様もよろしいでしょうか」
「……よかろう」
「まず、私の父がそちらにおわすカイバン公爵様のご子息、騎士隊の分隊長様の部下にございます。娘が婿を取らねばならぬという話を父から聞き、ならばカイバン公爵家の寄子であるバイカルト子爵家に年も近い男児がいるということでご紹介いただいた……そのように私は伺っておりますが、いかがでしょうか」
「あ、ああ。その通りだ」
そう、父の上司……それはカイバン公爵様ではなくカイバン公爵様のところのご子息。
騎士隊の分隊長を務め、ご自身も公爵家が持つ爵位のうち伯爵位だったかしら? それを譲り受けて生活なさっているという話です。
うちの父からしてみれば素晴らしいお人なのでしょうが……。
しっかりと私の言葉に同意をいただいた上で私は感謝の言葉を述べ、次に進むことにしました。
「残念ながら当時の侯爵であった母が知らぬ間にその婚約は結ばれ、当時口約束でしかなかったためシャレンズ公爵夫人からご紹介いただく話が立ち消え公爵家同士でお話し合いがなされたというのは?」
「……事実だ」
「エッ!」
その件についてはご存知なかったらしい子爵夫妻がサッと顔色を悪くしましたね。
まあそりゃそうでしょう。
残念ながらエッカルト様は理解していないようですが。
そう、うちの母親……つまり前エルドハバード女侯爵は友人でもあったシャレンズ公爵夫人に私の婿を紹介してもらうつもりだったらしい。
私がもう少し成長したら……と思っていたら、婚約の届けを出した!って父親に報告されたってワケ。
婚約者候補を紹介してもらったよ、なら良かったのよね。
まだそこで済んだんだから。
「ええ、そうねえ。あの時はわたくしの顔を潰されたと思ったけれど、カイバン公爵様もご存知なかったし、一度結ばれた婚約を反故にするのもと思ってお互いなかったことにしたけれど……友人の娘がこんな目に遭わされるとわかっていれば、あの時もっと強く出るべきだったわね」
「シャレンズ公爵夫人……」
握った扇子がミシミシ言ってますよ!
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