第3話 生活の変化にレディ・ルイーズは困惑する

 あれから。

 私の生活はなんかこう……色々変化した。


「チョリーッス! ルイーズったら今日も可愛くて激ヤバ~!! ってかもう神? 神ってるよね~マジパねぇ~」


「ランお姉様……」


 なんかもう、カサブランカのキャラがおかしい。

 いやもうギャルっぽい段階でおかしいんだけど、色々おかしいのよ!


 私はルイーズになる前、レディシリーズを読んでいた。

 いわゆる転生らしいのだが、自分がルイーズだと知った時は驚いたよね。


 小説だと語られない部分があることは理解しているつもりだったけど、まさかカサブランカが血の繋がらない関係だとは思いも寄らなかった……そういう描写ないけど、愛人とその娘って書いてあったからそうなんだろうなって思っていたのよ。


 その後も『裕福に何も知らず暮らしていたアンタが憎い』とか『今度はあたしがアンタの居場所を奪ってやるんだから』っていう感じで美貌を武器にルイーズを巧みに追いやるのがカサブランカ……のはずなんだけど。


「あの、ランお姉様。そのお召し物は一体」


「あーこれ? ドレス窮屈だしさア、今日は庭の手入れ手伝おっかなーなんて思っちゃったりしてるワケ! ど? 似合うっしょ?」


「お似合いです。ではなくて!」


 実際目の前に居るカサブランカは、何故か私のことを溺愛する姉となっている。

 しかも使用人になる気満々で、令嬢になることを嫌がるばかりだ。

 今日だって白い綿のシャツにカーゴパンツに身を包んで朗らかに笑う姿は大変健康的でよろしいけれど……どうしてこうなった!


 小説版だと妖艶なドレスに身を包んで、その肉感的なボディで周囲を籠絡していくキャラじゃなかったのか!!

 それなのになんでそんな庶民的……っていうかギャル? ギャルなのかな?


 父は父で『愛人とその娘に慕われているオレ』を夢見ていたらしく、実際にはそんなことはないと知って意気消沈したのかすっかり引きこもりになってしまった。


 義母にとって残念なのは父との婚姻届がもう提出されていて、しかも受理されてしまったことだろうか。

 いくら侯爵代理とはいえ、次期侯爵である私がまだ未成年であり後見人を必要としている以上家を取り仕切る役は後妻となってしまった義母の役目なのだ。

 勿論、私もお手伝いするし、使用人たちも義母と義姉の状況を察して彼女たちを支えてくれると言ってくれているので一安心していたのに肝心の義姉がこれですもの!!


「そうは申しましても、お姉様にはこのエルドハバード侯爵家の家族となりました以上、令嬢教育を受けていただかねばなりません」


「ええ~、いつかルイーズたんが成人して侯爵になったらあたし、結局出てくんだし別によくない? っていうか最初から手に職をつける方向で勉強した方がよくなくない?」


「確かにそれはそれでよろしいかと思いますが、それでも侯爵家に縁があった娘が使用人と同じ扱いを受けているなどと我が家のあら探しをしている者に知れれば大問題になってしまいますわ」


「ちょーだるーい」


 怠いのはわかる。

 令嬢教育って結構面倒くさいからね……そういう意味では市街地で悠々自適に暮らしてたまに日中、酒場のランチタイムにアルバイトで行っていたらしいカサブランカには窮屈に違いないけれど……。


 確かに私も物語通りに万が一話が進んだら困るから、彼女が大人しくしてくれているのは大変助かると思えば好きにさせてあげたい気もする。

 べ、別に自分を甘やかしてくれる〝おねえちゃん〟のためだからとかそういうわけではなくて!


「それに本日は、私の婚約者との顔合わせもありますからどうかお着替えください」


「そうだった! マジやばたにえん!」


 こうしちゃいられないと踵を返して走り去る義姉に、私はため息を吐く。

 向こうの方で義母が「走るな! はしたない!!」って大声をあげて、それに対して執事の「奥様、大声をあげるのもはしたのうございます」って注意が聞こえて……。


(うちがこんなに賑やかなの、初めてじゃないかしら……)


 ぼんやりとそんなことを考えつつ、私はお茶を飲んでほうっとため息を吐き出した。

 思い出すのは、先ほどの義姉の言葉だ。


 どうして、使ってる言葉が微妙に古いのかしら……。

 義母と義姉が戻ってくるまで、私はそれについて悩むのであった。

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