第7話 冒険の準備はいいか? ③

 走るどころか、歩くのにも苦労していた長年の痛みが全くないんだ。それに身体も軽く腰を真っ直ぐにもできる。信じられないが、力がみなぎり体中のケガが治った感じだ。


「こ、こここ、これってもしかして回復ってやつ?」


 この変化に戸惑うけど、思いあたる節がある。さっき食べたフルーツだ。すかさず鑑定をかけて、詳しい理由を探ってみた。


【世界樹の実】:あらゆる癒しをもたらす果実。部位欠損にも効果あり。エリクサーの原料にもなる。


「すげーーーー、大当たりを引いていたんだ! 最高アイテムってマジついているよーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! そ、そうだステータスはどうなっている?」


 名前:ハルト・サクライ

 Lv:1

 状 態:ボーナスタイム

 魔 力:300

 攻撃力:2 (1UP)

 防御力:2 (1UP)

 素早さ:2 (1UP)

 器用さ:2 (1UP)


 装備:木剣〈攻撃力+5〉


 スキル:アイテムボックス、鑑定、言語翻訳


「うおおおおおおおおおおおお、底辺じゃないいいいいいいいいいいいいい!」


 のけ反るポーズも痛くない。体のズレが失くなって、本来の体の機能を発揮できるようになった。それに伴ってステータスも、この通り人並み(?)になっている。


 思えば人をうらやむばかりだった。駆けっこや野球に自転車と、どれも人がしているのを見ているだけ。それが出来るんだという嬉しさを噛みしめ、改めて世界樹に深々と礼をする。するとまた枝が優しく揺れていた。


『おーい、やっといたよぅ。もう置いていかないでよ』


 そんな所へ、ようやく女神様がやってきたので、今さっき起きた事を全て話したんだ。




『果実を貰っただって? す、すると君は世界樹に認められたんだね』


 カワイイ事を言い出した。認められるって、木が喋るのでもないのにあり得ない。それをニャムニャム説明している姿が可愛くて、ついデレて撫でてしまう。


「はははっ、大袈裟だよ。さっき来たばかりの俺の何処を見たっていうのさ?」


『ハルトくん、世界樹はなんでもお見通しなんだ。君は自分が思っているより凄いんだよ?』


 子供っぽいなぁと笑っていたら、女神様は真剣な眼差しだ。その気迫は本物だけど、流石に信じる気にはなれない。


『それなら試しに実をくれるか聞いてみなよ。それではっきりするはずさ』


 女神様がこう言うのも、世界樹の素材が貴重なのは、その現存している数の少なさもあるが、世界樹自身が気に入った相手にしか譲ってくれないという事にあるらしい。


「あははは、そこまで言うなら試してみるよ。おほんっ、世界樹よ、実をいくつか分けてくれるかい?」


 少し全体的に揺れたかに見えた。しかし、何も起こらない。当たり前だ。10秒、1分、いつまで経っても変化がない。俺は女神様の方をむき肩をすくめ、この先をどうするのかと促した。それでも女神様はニコニコとし、上を見ろと指差している。


「だから何も起こらないって……痛っ! えっ、実が落っこちてきた?」


 とびきり大きな実が顔面にヒット。そしてそれを皮切りに次々と実が落ちてきたんだ。


 ボタッ、ボタボタッ、ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタッ!


 間髪いれずハンパない数の実。それだけじゃなく、葉っぱや枝までも降ってきて、あっという間に地面が埋め尽くされた。何十、何百とある世界樹の実! 実! 実! 俺を中心にして集まっている。


『ねっ、溺愛されているんだし、ひとつ残らず使ってあげなよ』


 女神様はしたり顔で世界樹を見上げ、器用に葉っぱを指の間にはさんで、俺に渡してきた。それを震える手で受け取り上に掲げる。


「ああ、ここまでされたら応えるしかないよな」


 山と積まれたアイテム群、俺が使わなければ無駄になる。何故気に入られたのか分からないが、遠慮なく貰うことにした。それに俺としても、回復薬が手に入ったのは有り難いからな。


『そうさ、これでゴブリンも怖くないだろ? さっさと奴らをやっつけてよ』


「えっ、どういうこと?」


『世界樹の実があるなら、多少の怪我もすぐ治るじゃないか?』


 女神様がまた俺とズレた事を言い出した。回復手段は手に入れたけど、わざわざ怪我を前提とした戦いはしたくない。危険なことには飛び込みたくないよ。


『いいかい、ハルトくん……』


 まだ言ってるよ。

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