第13話 大誤算と大勝算 ④

 

 大勢の敵の群れ。バカ正直にど真ん中に突っ込む必要はない。囲んで背中を叩いて下さいと、言っているようなものだ。それに倒した後の能力を奪う処理も、取りこぼしをしたくない。きっちり並んでくれた方がやりやすいよ。


「ギャブブ、つ、強いゴブーーーッ!」


 俺のスピードについてこれずに右往左往をし、信じられないといった表情だ。それでも後ろから聞こえる叱咤に押されて、前に出てくる。だけど仲間の亡き骸が増えてくると、じわじわと焦りが広がり戦線は崩壊となった。やってられねぇと声に出し、それぞれがなりふり構わず逃げ出している。


 ここで俺は自分の失敗にようやく気づいた。相手の心の弱さを考えていなかったんだ。最後まで戦ってくれると、勝手に思いこんでいた。


「ま、待って、逃げないでよーー」


 女神パワーの回収が目的なのに、色んなの方向に逃げだされては困る。あんなイキッていたから、こうなるとは考えていなかった。


「女神さまーーー、ど、どうしよー。このままじゃあパワー回収が出来ないよ」


『ハルトくん、ボスが出てきたよ。気をつけてね』


「このタイミングでえええええ?」


『グハハハハ、オラはゴブリンキングの玉子、ゴブリンキング候補生だ。ほほう、噂通りの良き経験値になりそうな人間だな。よかろう、オラのランクアップのため、首を差し出す栄誉を与えてやるだ!』


 他より少し大きいだけのボス。それがオラつきながらの登場には、イラッときた。

 こんな忙しい状況で行く手を阻んでくるなんて、こいつ空気読めないのかよ。


 ゴブリンキング候補生

 Lv:15

 魔 力:5

 攻撃力:20

 防御力:10

 素早さ:5

 器用さ:10


 スキル:ハッタリ指揮、ハッタリ軍略



 最悪だ、下手にボスを倒すとザコが消える事もある。ゲームのノリだけど、考えられるパターンだ。こうなると、手段を選ばなくちゃいけない。


『さあ、人間よ、オラと……』


「何が候補生だよ。邪魔じゃま邪魔ー、退けよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


『ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!』


 ドゴンと一発を両足にいれて転がしておく。たったこれだけで、悲鳴をあげているこんな奴にかまっていられない。ザコゴブリンを取りこぼしのないよう、あちこち追いかけなくちゃいけないんだ。女神様に誘導してもらいながら、あちこち駆け回る大変な作業になってしまった。


 そうして、時間はかかったけど、全てを狩り終えてボスの所に戻ってこれた。


『痛ーい、痛いぞぉ。手下ども何処だあ、オラを助けろ。痛すぎて耐えられんぞぉ』


 疲れすぎて、ジト目でこのゴブリンを見る。女神様もボスへのイラつきを隠せない。


『ボスのアナタがちゃん支配しないから、ザコゴブリン逃げたよ。全部アンタの失態よ』


『な、なんて無礼な……』


 まだ何か言おうとしていけど、相手をするのも疲れるし、トドメをサクッと刺して終わらせた。


 そんな疲れきった俺に、女神様が良い事を教えてくれた。


『いまのボスさぁ、凄い量のパワーを持っていたよ』


「えっ、もしかして今のがキーになる存在なの?」


『ええ、ギリギリだけど丁度貯まってね、すぐにでもご両親の元にいけるよ』


 大して強くもなかったけど、キーになる存在ってかなり重要だ。女神パワーを貯めるなら無くてはならない存在で、たまたま見つけ倒す事のできた幸運に感謝だよ。だけど気になることがひとつある。


「女神様、魔力がギリギリって大丈夫なの?」


『あははは、普通は危ないからしないけど、むこうは僕の世界だよ? すぐに補充されるしオッケーさ』


 それを聞いて安心できた。それと各異世界で共通の事らしいが、ボスを倒すとそのダンジョンはほどなくして消滅する。転移をするためにも落ちついてしたいので、このダンジョンを離れる事にした。


 敵の姿も消えて平穏だし、脅威になるものはない。完全に油断していたのが間違いだった。まさかこのタイミングで、不意打ちがあるとは思ってもみなかった。


【パンパカパーン♪、E級ダンジョンクリアおめでとう。………………それでは素晴らしい人生を!】


「びっくりしたーー!」


 聞き覚えのある声でのアナウンスに、2人でビクンとなる。あれだ、原初の神々のヤツだ。唐突すぎるけど、クリアを讃えてくれる律儀さに驚ろかされた。いぶかしがりながらも会釈だけはしておく。


「ふぅ、おかしな世界だよ。よし、そろそろ行こうか」


 これに女神様はしばし沈黙、そして静かに咳払い。


『本当にいいのかい、初心者救済でのステータス強化は貴重だよ?』


「うっ、そうだよね」


 女神様による悩む俺を見透かした一言。少なからず動揺する俺。


『向こうに行ったら、それが全てなくなるよ?』


 最初の取得で失敗し、チートスキルの欠片もないスタート。やっと優位に立てたLv1限定ボーナスも、転移をしたら終わってしまう。ステータスの成長と魔力分配ができなくなる。そうなると俺は魔力を持て余す、ただの平凡な人間に戻ってしまうんだ。……でも。


「うん、いいよ。このまま行こう」


 むこうに行ってからの事を考えたら、魔法の取得や、今より高ステータスは必須だよ。それは分かっている、分かっているさ。でも俺の目的はちがう。8年間も待ったんだ。一刻でも早く3人に会いたい。会ってみんなを抱き締めたい。


「いいんだ、このまま行こう」


『……本当に後悔しないね? このチャンスは一度きりだよ?』


 自分でも驚くほどに爽やかな笑顔で頷いた。いや、当たり前かな。3人を待たせる理由にはならないよ。


「だって俺には頼れる相棒がいるよ。何も心配してないさ。だから向こうに行っても助けてよ、相棒」


『うん、そうだね。任せてよ、相棒』


 女神様は微笑みながら呪文を唱えだし、それに俺はコクリと返す。ここにやり残したことは1つもない。ただ区切りとして、レベル1の限定ボーナスはここまでってことだ。せっかく全項目が、勇者レベルでの超人が出来上がったのだけど、両親に会える喜びには代えられない。

 それに向こうに着いたら、レベルアップの生活が始まるんだ。BPも貯める事ができるし、全魔法を覚えたりと忙しくなりそうだ。


 そして一度味わったことのある、ゴゴゴーと大きな音と共に、優しい光が地面から溢れ出している。その光に身を任せ異世界へと旅立った。




 まぁ今回は、意識を保ったまま転移ができて、拍子抜けだった。亜空間の出口から押し出され、石畳の床に降り立つ。高い天井と大きな扉がみえ、重厚感のある室内だ。だけど全体的には薄暗く、どこかさびれた雰囲気だ。そして俺の周りには大人たちがいて『お前だれよ?』と厳しい視線を向けてくる。


「と、父さんのお知り合いでしゅか?」


 なんだか場違いな俺は萎縮してしまい、情けない声を出してしまった。



 -------------------



 名前:ハルト・サクライ

 Lv:1

 状 態:ボーナスタイム(ステージ2)

 魔 力:382−300

 攻撃力:20+70(魔力分配)

 防御力:20+70(魔力分配)

 素早さ:50+100(魔力分配)

 器用さ:30+60(魔力分配)


 装備:ゴブリンキラー〈攻撃力+25〉


◆◆◆◆◆◆◆


これとは別に、カクヨムコン8に挑戦します。10万文字以上の長編です。


12/01(木)より新規スタート。


【題名】

覚醒したスキル進化で最強ダンジョン攻略~神が俺を見てるかも


読んで頂ければ嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330647987695884/episodes/16817330647987709124

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レベル1のままの神撃無双~『Lv1限定ボーナス』でステータスをガンガン上げれる俺、全てのハンデを吹き飛ばし、驚異のスピードで最強へと成長する!~ 桃色金太郎 @momoirokintaro

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