第12話 大誤算と大勝算 ③
「何コレ……ヤバくない?」
『僕に聞かないでよ。こんなの初めてのことなんだからさ。と、と、とにかく試してみたら?』
それはそうだなとステータス画面を出し、攻撃力の部分に触れてみた。するとどんどん数字が加算されていくんだ。10、20、30と上がる数字をみて女神様も興奮し、前代未聞だとバシバシ背中を叩いてきた。俺もエヘヘとニヤつくが、大事な事なので気をひきしめる。
「おっと危ない、ストップ!」
魔力を全く失くすとダメだから、1割を残し試しに攻撃力に全振りしてみた。
名前:ハルト・サクライ
Lv:1
状 態:ボーナスタイム(ステージ2)
魔 力:300−270
攻撃力:10+270(魔力分配)
防御力:20
素早さ:45
器用さ:25
装備:ゴブリンキラー〈攻撃力+25〉
「合わせて攻撃力305かぁ、マジかよ」
〝攻撃力が1だよ、どうしよう〞と騒いでいた昨日。あまりにも急な変化に戸惑ってしまう。本当になんの問題もなく普通にできたよ。ただ数値的には化け物だけど、なんら変化を感じないので実感がない。とりあえず近くの立ち木を、軽く殴ってみることにした。
『あんまり無理しないでよ』
「ははは、大丈夫さ。いくよ、そーりゃ!」
バッッコオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンッンッンッッッ!
振り下ろしのパンチの予想外の威力。ひと抱えもある大きな木が、爆裂音をさせて砕け散る。お調子者の女神様ですら、視線を合わさずのドン引きだ。
『ハルトくん、嬉しいのは分かるけど
苦笑いでごまかして、すぐさま素早さ中心の割りふりに変更した。それにしても原初の神様は、とんでもない裏設定をしていたものだ。
通常10回も戦えば卒業するLv1限定ボーナス。それを100回も続ける者がいると想定していたなんて、やり込み思考の持ち主なのかな。いや、ただ単なる暇人かもね。まぁどちらにしても俺には有難い設定だよ。
「でもこれってさぁ、死に項目だった魔力が役に立つってだけじゃないよね?」
『うん、それは僕も考えていた所だよ』
魔力を自由に何度も変換させられる。それは相手によって、こちらの優位性を変化させられるって事だ。硬い敵にはそれを打ち破る攻撃力を、スピード自慢の相手にはそれを上回る早さで対応。スキルが使えなくても余りある恩恵だよ。
つまり今後は魔力も上げる事を考えなくてはいけない。贅沢な悩みが増えちゃったな。
『あれれ、ハルトくん。この項目に気がついた?』
女神様は眼を擦りながら2度見をしている。何かと聞くと、ステージ2を鑑定した説明が、急におかしな事になっているらしい。
〈ステージ2:魔力分配が解放されました〉
★魔力分配:保持する魔力を他の項目に、任意の数値で分配し貸し与える事ができる。
〈次回予告:魔力値がやってきた。1000で新たな境地に。
「次回予告だって? これってさっきまで無かったよね? 一体全体どういう事なの?」
『そんなの僕だって分からないよぅ。調べるしかないから、少し待っていてよ』
明らかに取って付けたような不審な文だ。何か罠のような気がしてならない。かといって直近で害がある物でもないし、判断に悩む所だよ。そう脳内会議を開いていると、女神様がクチをすぼめて覗いてくる。
『ハルトくん、手短に言うと……原初の神の気まぐれだってさ。だから気にするなって事』
「気にするなって、どういうスタンスの神?」
『うーん、適当って言葉が合うかなぁ』
ぐはっ、そうか分かったぞ。この女神様が女神でいられる訳が。
「と、取りあえず狩りを続けるよ」
俺はこの件にはもう触れることなく、狩りを再開させた。
ボーナスステージ2、その恩恵は絶大だ。相手との実力差がこれまでひらいていると、不意をつかれてもダメージは全くない。殴られてもムカッとくるだけで、擦り傷ひとつもついていないんだ。まさに無双状態で、気分がいい。
こうして昨日以上の討伐スコアを稼いでいく。ただそんな中ひとつ問題が出てきた。
「ねぇ女神様、パワーの貯まり具合はどうなの?」
『うーん、変わらずだね。70%を超えてからは、変化が少ないよ』
最初は順調にたまっていた女神パワーも、急に伸びが悪くなってきた。女神様が言うには、集めたパワーは手に入らず、スルリと何処か別の場所へと集まっているそうだ。狩りを続けても中々進まないのはそのせいだ。
『これはキーになる存在がいるって事だよ』
つまりその邪魔をしている物を排除しない限り、いつまでたっても転移はできないって事だ。女神様の基礎消費もあるし、解決しないといけない。多分ステージ3を用意したのは、これを見越してかと思う。それだけ多くの敵を倒さないといけないって事だ。
「うん、腹をくくるよ。早く親にも合いたいし、奥の方に行ってやる」
女神様もこれには大賛成で、しっかりサポートをすると張り切っている。そうして奥地を目指し歩き出してすぐに、女神様が異変を伝えてきた。
『ハルトくん、ひと足遅かったようね。相手の方がしびれを切らしたみたいよ』
すると霞む森の中に黒い影。それは徐々に姿を現すゴブリンの集団だった。見えるだけで40匹くらいはいて、包囲するように近づいてきている。舌を舐めずりまわし、自分たちの勝利を疑っていない。どうも今までのような、統率感のない素人戦術じゃないみたいだ。
『強いリーダーが率いているわね。もしかしたらボスのお出ましかもよ』
だけど特に目立つ姿はなく、普通のゴブリンばかりだ。ただ時々後ろをチラチラと気にしているし、隠れていることは確定だな。
「女神様、ボスの気配を探ってよ。それで一気にカタをつけるよ」
そう伝えると、オッケーと可愛く両手で丸を作ってくる。これから戦いだっていうのに、ほんわかな気分でのスタートになった。
「端から順にいかせてもらうよ!」
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