第11話 大誤算と大勝算 ②

 世界樹の実で朝食をすませ森へ繰りすと、モンスター達も餌を探しているのか、間をおかずに遭遇する。


『とつげーーき、弱ゴブリンめ覚悟しろー』


「待ってよ女神様、危ないって!」


『にゃはははー、遅いと僕がとっちゃうぞ』


 昨日の話で、テンションが上がったのは僕だけじゃなかった。いつも寝ている女神様が、先陣を切って大張り切りだ。


『ぎゃーー、ヤバッヤバいーー!』


 でも自分が戦えないことを忘れていて、尻尾をまいて逃げる有様だ。結局俺が尻ぬぐいをするハメになった。


「ほら、こっちに来て、痛っ!」


 少なくない被害も出て、今日ふたつめの世界樹の実を食べる。


『ごめんよ、ハルトくん』


「いいって、気にしないの」


 これも俺を想っての行動だ、頭ごなしに怒れないよ。途中ズッコケたときは終わったと思ったけど、女神様は悪運が強く、ギリギリの所で大丈夫なんだ。やはり神様ってだけはある。


 こんな大変な朝だったけど、【スティール】の事で収穫が1つあった。それは一気に倒して、あとでまとめてスティールをってのはダメ。あくまで倒し能力を受け取ってから次に行かないと、権利が抹消されるようだ。倒すたびに、能力を奪い取らなければいけないけれど、その手間が俺を確実に強くしていく。


 それと必死だった昨日とは違い、今日は狩りの間に、色々と鑑定をしながら進んでいる。初めて見るものばかりで楽しい。それと心を一番動かされたのは、薬草に毒消し草や麻痺消し草などの回復アイテムだ。そんな状態異常が起こりうるし、それを回復する手だてもある。食べて効果が出るようなので、念のため有るだけ採っておくことにした。


『おっ、採るなら手伝うよ。うんしょ、うんしょ』


 首を傾げ、両手を器用につかう姿が可愛らしい。ほっこり癒される光景だ。採れた黒っぽい草を、マジックバッグの中へと入れてくれる。


「あれ女神様、それって毒草じゃない?」


『あああ、しまったぁ。毒消し草にしては匂いがキツイと思ったんだよ。またやっちゃった、ごめん』


 いま気がついて良かったねと励ましても、さっきの失敗を挽回したくて頑張っていたので、さらに落ち込んでいる。


「少し休憩しようか、頑張りすぎは良くないしね」


 頷く女神様に笑いかけ歩いていくと、休むにはちょうど良いひらけた場所を見つけた。奥には2本の大木が、互いに枝をまじり合わせ、門の形を作っている。その壮大さに圧倒されて思わず感嘆する。


「これこそ自然が作り出した芸術だよ」


 大木に見とれながら両手を広げ、鼻歌を歌いながら門をくぐる。次の瞬間に景色が一変した。


「えっ、霧?」


 それまでの優しい森の姿はどこにもない。ねじれた木々は視界をふさぎ、腐敗臭が鼻につく。


【フィールドダンジョン・Eランク】:憎悪のゴブリン森


「ダ、ダダダ、ダンジョン?」


 すかさず臨戦態勢をとり、周囲を警戒する。周りを見ると、何匹ものゴブリン達がたむろしていた。


 ゴブリン

 Lv:10

 魔 力:4

 攻撃力:7

 防御力:7

 素早さ:7

 器用さ:7


 俺と比べて断然に弱い、だけど外のより何倍も強いともいえる。一度門をくぐり、敵が外に出てこないことを確認し、このゴブリンと戦ってみることにした。


 俺としたら勇気を出した行動だけど、一度相手からの攻撃を受けてみることにしたんだ。そうすれば、より強い敵と対峙したときの目安になるはずだ。そして。


「……オフッ、こんなものかぁ」


 予想通りゴブリンの攻撃は大した事がない。こん棒で叩かれても、小さな擦り傷ができる程度で、薬草で充分にまかなえる。速さも緩慢だし問題にもならない。

 あと外との違いがあり驚かされた。それはスティールすると死体が消えるんだ。まるでダンジョンに戻るようで、アイテムだけが残される。


 それと1つ気になることがある。それはゴブリン達の態度だ。戦った1匹以外は近づいてこようともせず、ニヤニヤとこちらの様子を見ているだけだ。実力以上の余裕で、何か隠しているのかも。


『いいえ、絶対に舐めているのよ。身の程知らずにも程があるわ』


 フーッと毛を逆立てる女神様に、ゴブリンは挑発し返してくる。お尻を叩いたり、真似したりと幼児レベルのやり方だ。でも女神様はこれにまんまと乗せられている。


『上等だわ、やってあげるからそこに並びなさい!』


「ちょ、ちょっとーーーーーー!!」


 伸ばす腕も届かず、スルリと女神様は駆け出した。俺も遅れてはとダッシュした。


『こらー、逃げるなぁ。ってハルトくん邪魔だよ』


「〝邪魔だよ〞じゃないよ。周りを見て、囲まれているよ」


『あっ……ごめん、またやっちゃった』


 反省を聞いている暇はない。女神様を脇に抱えてのハンデ戦だ。一瞬たりとて気を抜けない。またこの人は、俺をハードな状況へ追いこんでくれた。それが自然に出てくるのだからたちが悪い。


 だけど倒しても倒しても次々とくるこの状況は、俺にしたらごっちゃん状態だ。倒してスティールの繰り返し、忙しいのが笑えてくる。


「それっ、ほいっ、はっ!」


『いえーい、ハルトくんがんばれー、いけいけー!』


 女神様がまた調子にのっている。何処から持ってきたのか、太鼓やブブカの鳴り物で大応援。うるさいけど俺も気分がのってくるので、まぁこれ位ならいいかなと放っておく。そんな悦にはいった戦闘だったけど、不意にその時がやってきた。


 最後の一匹にトドメをさしたその瞬間、頭の中で大音量のファンファーレが鳴り響いたんだ。それは女神様にも聞こえたらしく、2人でかたまり見つめ合ってしまう。そしてこれが何かと確かめる暇もなく、次の音が続いた。


【100体討伐達成おめでとう、報酬としてボーナスタイムがステージ2へと進みます。詳細をお確かめ下さい。それでは良き人生を】


「ス、ステージ2だってえええええ!」


 天にむかって問いかけの絶叫だけど、いつまでたっても返事はない。それは当たり前なのに、何処か理不尽な気がしてくる。すると女神様がまん丸な目で、さっきの報酬を確かめるようにして促してきた。中身をみた女神様のあまりの驚きように腰がひけるけど、見ない訳にはいかなくて、覚悟をきめた。


〈ステージ2:魔力分配が解放されました〉


 ★魔力分配:保持する魔力を他の項目に、任意の数値で分配し貸し与える事ができる。


 たまげたよ。これが文面通りならとんでもない事になる。俺はこれから先の事を考え、少しのあいだ呆けてしまった。




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 名前:ハルト・サクライ

 Lv:1

 状 態:ボーナスタイム(ステージ2)New

 魔 力:300

 攻撃力:10

 防御力:20

 素早さ:45

 器用さ:25


 装備:ゴブリンキラー〈攻撃力+25〉

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