第10話 大誤算と大勝算 ①
30匹以上も倒したのに、レベルアップが起こっていない。この異様な事態に怖くなり、女神様を
『ちょ、ちょっと待って…………そ、そうか、あれが原因か。やっちゃったよーーーーーーーー!』
「や、やっちゃった?」
恐ろしい事をまたまた言い出した。頭を抱え目が点になっているのが、事の重大さを物語っている。その事をきく勇気はなく、俺もオロオロしてしまう。もしかしたら、全てがダメなのかもしれない。まさかと思う気持ちはあるけど、おっちょこちょいのこの女神様なら、充分あり得る話だ。
『ち、違うんだ。これは君へのサービスが、他の世界では足枷になっているだけで、決して失敗したってことじゃないんだ。それだけは信じてよ!』
俺以上にテンパりだした女神様。めっちゃ暴れ泣く姿に、こちらの方がドン引きしてしまう。一周まわって冷静になった俺は、女神様をなだめる。優しく背中をなでたりして、なんとか落ちつかせようとするが、そうなるまでにかなりの時間がかかった。
女神様の話をまとめると、俺にチートを授けるため、目的地の異世界でしかレベルアップができない、そんな〝縛り〞をつけたらしい。それをすることで大成しやすいし安全なのだそうだ。本来変更は可能だけど、本体じゃない今は無理らしい。
『ご、ごめんよハルトくん。どう
「気にしなくていいからさ、ほら」
『良くないよ! 僕はいつもこうなんだ。調子にのってミスばかり、迷惑をかける常習犯なんだ。自分で自分が嫌になるよ!』
スキルを習得するためにBP《ボーナスポイント》が必要だ。その道が絶たれたと謝ってくる。だけど全ては、俺のことを考えての行動、責めるわけにはいかないよ。
ただ、これはさすがに俺も落ち込み、その場に座り込んでしまった。
ファンタジーの醍醐味といえるスキルとレベルアップがない。楽しさが半減どころの話じゃないよ。あの苦労の末に訪れる能力上昇、新スキルをぶっ放す爽快感。それらの喜びが味わえない。
それにこれからは、より強い敵が出てくるはず。それでドンドン経験値をためて強くなって、また次を目指す。その繰り返しをするはずだった。
「…………んん、ちょっと待てよ、それって最善の道なのかな?」
低レベルの内はいい。でもレベルを上げるにつれ、大量の経験値が必要になるのは当たり前だ。上に行けば行くほど、当然その必要量はうなぎ登りだ。ひとつ上げるのに、1000体や1万体の敵を超えることにもなるだろう。だけどレベルアップをして、得られるステータスは微々たるもの。だから実力が上がったと実感できるには、相当なレベルを上げないといけない。
でも、俺は違う。
どんな相手でも倒せば、ステータスを奪うことができる。たった〝1〞だけど確実に手に入れられる。1000体倒せば1000上げられる。1万体を倒せば、1万のポイントを好きな能力に振り分けられる。これはレベルアップ時の比じゃないな。その効果は既に出ていて、30匹と戦って出来上がったステータスがあの結果だ。どう考えてもレベルアップだけで、素早さ値2が17にまで成長するとは思えない。親のいる世界に行くまでという限定はあるが、これはでっかいチートだよ。
「これって、もしかしたら最強だよな?」
カラッカラの喉から出た声に、女神様がピクンと萎縮している。
「女神様、転移に必要な女神パワーはちゃんと貯まっている?」
『ええ、それは着実だけど、それよりも君のことだよ。ううっ』
「いいんだよ、これでいいの。縛りと限定ボーナス、いい組合わせだよ、あはははは!」
「女神様、まだ分からない? レベル1のままの俺は、ずっと限定ボーナスの恩恵を受けられる。ずーっと1だけど、ずーーーーーーーーーーーーーーっと成長できるんだぜ! すげぇと思わない? これって女神様のおっちょこちょいのお陰だよ」
『あっ、そういうことか。で、でも迷惑をかけた事には変わりはないよ』
「いいんだよ、それぐらいの迷惑は。よーし、明日から忙しくなるぞ。これからも頼りにしているよ、相棒」
『えっ、相棒? えへ、えへへ、うへへへ』
ゴロンと幹に寄りかかり、興奮と疲労でまどろんでいく。お腹に暖かい感触を味わいながら、いつの間にか眠っていた。
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