第9話 Lv1限定ボーナス 

「女神様、それってさっきも言っていたけど何ですか?」


『あはは、忘れたの? Lv1限定ボーナスの事は話したよ』


「うん、そのワードは聞いたけど、詳しいことはまだだよ?」


 一瞬そうだったかなと戸惑ったけど、何度思い返してみてもそれはない。女神様に名前を聞いただけで、その詳しい内容を聞いていない事を伝えた。最初は『ふふん』って澄ましていたのに、段々と表情が崩れていく。で、ついには『しまったぁ』だなんて、大声で白状してきたよ。


『その初心者救済処置は、原初の神々が作ったものだから、僕の範囲外なんだよ。忘れてたんじゃないよ』


 それなのに、素知らぬふりをする女神様。忘れていた事がバレバレなのに、まるで子供ような誤魔化し方だ。なんだかこの人の性質が、少しずつ分かってきた。


 それはともかく、Lv1限定ボーナスとはレベル2になるまでの特典で、倒した相手のステータスからたった〝1〞だけど、数値を奪いとる事ができる【スティール】というシステムだそうだ。

 ひとつの項目に極振りする人もいれば、平均的にする人と千差万別。その人の特徴がでて面白そうだ。ただし、レベル2までなので多くても10回ほど、決してチャンスは多くない。それを俺は格上を倒してしまったので、更に減ってしまう。残念だけど生きていたからこそ言える愚痴、そう思うしかない。


『それでハルトくんは何にするつもりなんだい?』


「もちろんそれは〝素早さ〞だよ」


 経験してみてわかる。2倍のはやさの差は天地の差だ。どんなに強烈な攻撃でも、当たらなかったらダメージはない。つまりゴブリンの素早さ2に対して、俺が3で対峙するなら相手を翻弄できる。ゆくゆくは違ってくるだろうけど、はじめはそれが正しいと思うんだ。ただしレベルアップで魔法を覚えたら、そこからまた変わるはず。300という魔力を活かしていきたいな。


「女神様、この調子でドンドンいくよ」


『いいねぇ、頼もしいよ』


 さっき来た道を戻り探すこと10分、1匹でいるゴブリンを発見した。ステータスはさっきと同じで、不意打ちをすれば確実だ。一度生き物の命をたったから、心配していた忌避感はなく、もはや経験値にしか見えて来ない。


 無言で素早く近づき、首もとへ一発いれる。さすがにワンキルとはいかず、抵抗してくるがそれも問題ない。やはり思った通りで、素早さ2の動きはかなり遅く感じるんだ。そのあとも被弾をせずに無事に終了。またまた〝素早さ〞をとっておく。これでゴブリンの2倍の早さ。他のステータスに振ってもいいだろう。


 それに森を進むスピードも全然違って、次の獲物を見つけやすい。さっそく2匹目を発見。今度は相手に気付かれているけど、横っ飛びをして足元にズドン。うずくまった所にトドメを入れる。そしてスティールを終えたら、また走り出し次の獲物探していく。


「さいこーーーーーだーーーーーーー!」


 一戦ごとに強くなっていく自分に興奮して、狩りを続けていく。時には複数を相手にしたが、俺のスピードについてこれず、漏れなく全て討ち取った。楽しくてしょうがない。こんなにも動ける自分が誇らしいよ。


 そうして気づけば、30体のゴブリンを狩っていた。ちなみにステータスはこうなっている。


 名前:ハルト・サクライ

 Lv:1

 状 態:ボーナスタイム

 魔 力:300

 攻撃力:5

 防御力:10

 素早さ:17

 器用さ:7 (1UP↑)


 装備:木剣〈攻撃力+5〉


 スキル:アイテムボックス、鑑定、言語翻訳


 豪快に暴れるよりも、確実に生き残るを選んだ数値だ。これまで被弾はなく先手をとるものだから、世界樹の実の出番もない。若干パワー不足は否めないけど、まずまず理想どおりで満足だ。俺の目的はゴブリンを狩ることじゃなく、生きて親のいる世界に行くことだ。だからこれまで通り、素早さを中心に上げていくつもりだよ。


 そろそろ日も傾きはじめたので、世界樹の所まで戻ろう歩きだしたら、またゴブリンを一匹発見した。だけどそのゴブリンは今までとは違って、なんと金属の武器を持っていたんだ。


 上位種かと警戒をしたけど、能力的には他と大差がない。見ていても素振りでよろける始末だ。


『ハルトくん、あれを倒して武器を奪いなよ』


 やっぱりだ、ボーナスモンスターがやってきたんだ。嬉しさと緊張で足がもつれたけど、相手に反撃のチャンスすら与えずに打ち取った。


 後に残ったのは、鈍い色の短剣だ。刃は10cmと短いがよく手入れされていて、俺が素でみても業物ではと思える逸品。と、鑑定士気取りはここまでにして、スキルに頼らせてもらう。


【ゴブリンキラー】攻撃力+25、鬼系モンスターに特効で更に攻撃力+25


「ふぉーーーーーーー、素早さを中心に上げてきて正解だったよ!」


 今までは軽くても速さを生かし、ヒット&アウェイを心がけていた。でもこれからは違う。威力をこめた鋭い一撃、理想な形を実現できる。


 一匹にかかる時間も短くなるし、その分リスクも減ってくる。今日はいいことずくめだ。劇的に成長するし武器も手に入れた。もちろん肝心な女神パワーも貯まっていく。言うことなしだよ。




 あの後は敵に会うこともなく、世界樹までたどり着けた。この世界で一番安全だと思える樹の上で休むことにした。世界樹が受け入れてくれた事と、木登りができた事の喜びをかみしめて、夕食を実で済ませる。あとは落ちないようにするだけだ。


『ハルトくん、今日は色んな事が起こったのによく頑張ったね』


「うん、まさにファンタジーの世界だよ。でも、はりきり過ぎたかな」


 ここに来た当初は不安だったけど、案外充実しているので満足だ。食べ物は美味しいし体も動くので言うこと無し。そう考えていると、女神様がお腹の上に乗ってきた。優しく撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らしてくる。その音と一日の疲れで、すぐにでも眠れそうだよ。


 まったりとした時間だけど、何か心の中に引っかかる物を感じる。それが気になってあれこれ考えるけど、一向に思いつかない。もうダメだと諦めかけたとき、その肝心なこと思い出した。


「おれって、レベルアップしていないぞ?」


 BP獲得のかぎになるレベルアップ、それが一切おこらなかったんだ。

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