笑われスキルの覚醒進化がおきたので、最強のダンジョン攻略はじめます~神が俺を見てるかも

桃色金太郎

バン・マン 爆誕

第1話 日常にさようなら

 世界各国、同時刻。


 突如つんざく音が鳴りひびき、世界の到るところでダンジョンが出現した。


 ぼうぜんと立ち尽くす者、逃げ出す者と様々だが、ひとしく全人類の頭の中に不思議な声が聞こえてきた。


『我は異界の神だ。……人類よ、お前たちに富と栄誉を用意した。求める者はダンジョンにもぐり、そこにひそむ秘密を解け。さすれば先にある絶景はその者の物だ』


 ゆっくりとした感情のこもらない声。しかしはっきりとした意思を感じる。

 それは何度も繰り返され、人々はこの言葉を噛みしめた。


 これがダンジョン世紀の幕開けである。





 30年後~


『一番線、まもなく本日の最終電車が発車します。どなた様も……』


「ふぅ、間に合った~」


 いつもの終電に飛び乗ると、まばらな車内。

 乗客も毎日似たり寄ったりで、見覚えのある顔もチラホラとある。


 誰もがうつむいていて、俺も座席にすわりネットニュースをチェックする。


「えっと、都内でダンジョンテロによるE級のスタンピードが一件か。……方向がちがうし、これなら素直に帰れそうだな」


 馴れているとはいえ、テロにはうんざりするよ。

 大きなため息をつきながら、疲れた体を座席にあずけた。


 俺の名前は番場ばんば 秀太しゅうた。しがないサラリーマンだ。


 うちの会社は笑えるくらい薄給で、プライベートへの干渉がキツい、そんな何処にでもあるような会社だ。


 だけど有給休暇の取得がさらに厳格化され、俺も明日から連休が取れた。

 久しぶりの休みだし、何をしようか悩みながらまどろんでいく。


『次は~○○~……』


「はっ、あ、お、降りなくちゃ」


 浅い眠りの中、降りる駅のアナウンスに起こされる。


 ヨタリながら家につき玄関をあけると、こんな時間なのに部屋の明かりがいていた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃーん!」


 年のはなれた妹の結衣が、奥からパタパタと可愛らしく走ってくる。


 お風呂を一緒に入ろうとせがんでくるのかな。

 思春期に入ったのに、この甘えようには少し困りものだ。


 だが可愛すぎる結衣に頼まれたら、ダメだなんて言えないよ。

 だって俺にとって結衣は癒しであり、小悪魔的な存在なんだ。

 その結衣がせがんでくるんだ、これ以上の幸せはない。


 最高の休日になりそうだぜ。


「お、お兄ちゃん、大変だよ。お父さんが蒸発しちゃったよ!」


 嘘だろと目を見開くも、結衣は首を横に振ってくる。

 靴はもちろん、見回しても親父殿の物がいっさい見当たらない。


「はあ、またかよーーーーー」


「置き手紙を見てよ、いつもよりひどいのよ!」


 と、ぐしゃぐしゃに握りつぶされた便箋びんせんを渡される。

 達筆な文字はまさしく親父殿の物だ。



 ~皆さんへ。事業に失敗して1000万円(金利30%)の負債ができました♪。ダディは再建のため身を隠すよ。では、元気でやってくれ。


 P.S.お前たちの貯金が、ダディに勇気を与えてくれたよ、チュッ~



「嘘だろ、どうやって引き出したんだ。……あああ、2つともごっそりかよ」


 手紙と一緒に通帳が置いてあったそうだ。

 ご丁寧に最後のページが閉じないよう、クリップで止めてある。


 コツコツ貯めた通帳がほぼゼロに。

 しかも結衣が貯めていた豚の貯金箱まで粉々にされていた。


 この徹底ぶりは完全に鬼畜の所業だぞ。


「やってくれるぜ、親父殿!」


「私、警戒していたのにー。よくも、よくもーーーー!」


 結衣もここ最近で一番のぶちギレ方。

 ケケケと笑い、包丁を研いでいる。


 それは当たり前の行為だよ。


 普段500円生活をしている俺からしても、1000万円って想像もつかない金額だ。


 それをサラッと背負わされて、プレッシャーで血の涙が本当に出てきた。

 兄妹そろって出るなんて、親父殿の教育の賜物たまものだ。


 そう、うちの親父殿はいわゆるクズだ。

 借金踏み倒しの常習犯、浪費に関しては天才的。

 あと事業だなんて絶対に大嘘、どうせギャンブルに決まっている。


 だがこんな時でも母さんは、いつもニコニコしているんだ。

 悟りの人なのか、達観たっかんしているのか、俺や結衣にはどうも理解できない。


「だってあの人らしいじゃない、伸びのびしているから素敵よね」


 母さんのいつものセリフに、妹が食ってかかる。


「キーッ、もうママが甘いから父さんが更正しなのよ。今回は額がデカイし、絶対に許せないわ!」


 これには俺も賛成だ。甘やかして良い部類の人間じゃない。

 捕まえたら必ず逆さ吊りにしてやるぜ。


 ただ、いまの時点で親父殿はこのまま放っておく。

 逃げ上手なのも天下一品だし、追いかけ回しても捕まらない。


「それはそうと秀太ちゃん、これからの生活どうしましょ?」


「うっ、そうだったね」


 のほほんとした母さんだけど、的を得ているよ。

 お金は親父殿が根こそぎ持っていったので、こづかい程度の電子マネーと、多少の現金しかない。

 しかも給料日まではまだ遠い。


「はぁ~、休みなしか」


 日雇いのバイトを探してしのぐしかない。

 休みなのに働くとは、これもブラック企業に所属する者の運命さだめかな。


 と、妹の結衣が、思いつめた顔で切り出してきた。


「お兄ちゃん、私……ダンジョンに行こうか?」


「あっ、その手があったか!」


 ナイスな我が妹のおかげで、家計のピンチと、昔に諦めた夢をかなえるという、2つを同時に解決する方法を思いついた。


 それは『ハンター』となり、ダンジョンに挑むことだ。


 この世界にダンジョンが出現して早30年。

 当初は世界の破滅だと混乱したが、危機と復活を繰り返し、なんとか今は安定期をむかえている。


 その立役者となったのが、特殊な能力に目覚めた『ハンター』と言われる一握りの人間だ。

 ハンターは人類を守る盾であり、同時に大金を稼ぐみんなが憧れる職業だ。


「危険なダンジョンで稼ぐなら、それはお兄たんの役目だよ。結衣はなんの心配もしなくていいんだよん♪」


 つめ寄ってくる結衣の頭をなでて、暴走しないように優しくさとした。


「お兄ちゃん……」


 ハンターとダンジョンを管理するため、この日本にもダンジョン協会が設立されている。


 その協会の役割のひとつとして、全人類に対しハンターの適性があるかの検査を行っている。

 そして俺たち兄妹は、その適性が有りと判断されているんだ。


 つまり俺、番場秀太には、途轍とてつもない可能性が秘められているんだよ。


 これを機に、俺はヒーローになれるかもしれない。ニヤケとはやる気持ちが抑えられないぜ。


「お兄ちゃん……家計がピンチなのにうれしそうね?」


 ギクッ!


「もしかして、格好良いからやりたいって言うんじゃないでしょうね?」


 冷ややかな視線を手でふさぐ。

 どうかつにも似た結衣の圧迫感に、汗が滝のように流れだす。


「な、ななな、何を言う。可愛い妹を犠牲にできないだけだぞ?」


「怪しいなーー」


 妹の結衣は頭がいい。

 人の仕草や表情でたちまち嘘を見抜くので、下手なことはできない。

 それで何度謝ったことか。


「い、いや。き、き、ききき、気のせいだよ、うん。お兄たんは仕方なく行くのだよ?」


「ふーん、そういう事にしておいてあげるー」


 バレてない、セーーーーーフ。


 我が家での最大の難関をクリアをし、新たな一歩を踏み出した。


 嘘がばれるのでニヤつくのを抑えながら、思いつく限りの用意をする。

 もちろん明日のお弁当には、唐揚げを入れて欲しいと母さんに頼んである。


 あえて言おう、これで準備は万全だ。




 早朝、スキップをしながらさっそく協会ヘ出向き、ハンター適性診断書を提出した。


 その場でハンター許可証と、Eランクを表す木目調のプレートを受け取ったので、これでいつでもダンジョンに挑戦できる。


 憧れたハンタープレートを首にかけ、しみじみと見つめる。


「おい、おっさん、新人だろ。こっちに来いよ!」


 見ると俺と年のそう変わらないチャラ男が手招きしてくる。


 随分な物言いにイラッとくるが、胸にはAランクハンターを表すゴールドプレートをつけている。


「チッ、鈍くせえ奴だな。俺はギルド『爆炎獅子』副ギルマスの雷門らいもんだ。お前のスキルを教えな!」


「えっ、爆炎獅子? スゴッ!」


 爆炎獅子といえば、日本でもトップクラスのギルドだ。

 高難度のダンジョンを中心に攻略していて、上を目指すハンターが集まるので有名だ。


 そしてこの人はスカウトってやつだよ。

 それに声を掛けられるなんて、ちょっとほっぺが赤くなるぜ。


「おいおい、ステータスくらい見れるだろ。早くやれよ、コラァ」


 ステータスなどは、許可がないと本人にしか見れない情報だ。

 慌てて協会で教えられた通りに、プレートを触れて念じてみた。

 すると、眼前に半透明の表示が浮かびあがり、俺のステータスを映し出した。

 ────────────────────

 番場 秀太

 レベル:1

 HP :10/10

 МP :30/30

 スキル:バン・マン


 筋 力:5

 耐 久:5

 敏 捷:5

 魔 力:15


 ステータスポイント:0

 ────────────────────


「なんだこれ……バン・マン? 聞いたことないな」


 小さくつぶやいたのに、チャラ男の目つきが変わった。

 そして少し震えながら指をさしてくる。


「お、お前、あの伝説のスキル『バン・マン』を持っているのか……こりゃすげーや」


 チャラ男だけじゃない、周りもざわつき緊張した面持ちだ。


 伝説ってヤバいんじゃない?

 こ、これって、所謂いわゆるキタってやつだ。


 長かったよ。あんな親父殿の世話をして、耐えるだけの人生だった。

 それがやっと報われたんだ、ニヤつくのは勘弁な。


「そ、それってどんな凄いスキルなんですか?」


 自分で詳しく見れば早いのだが、チャラ男ッチに花を持たせてやる事にした。

 俺の問いに、ゴクリと喉を鳴らし覚悟を決めたチャラ男ッチ。

 なんだか可愛く見えてきた。


「いいか、よく聞けよ。今から説明してやるからよ、プッ」


 軽薄な笑いが気になるが、俺は両手をひろげゆっくりとうなずく。

 何処どこからか、俺を祝福する鐘の音が聞こえてくるよ。

 ああ、俺の輝かしい未来に乾杯だ。


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