第2話 そのスキル「バン・マン」

 俺は目を閉じているが、どうしてもニヤついてしまう。


 チャラ男ッチが説明をしたあと、『どうかウチのギルドに入って下さい』って、懇願してくるのが目に浮かぶよ。


 最初の印象は最悪だけど、そのうち認めれる所も見つかるはずさ。


「おっさん、あんた大阪人か?」


「いや、行った事もないですが、それが何か?」


 開口一番それ?

 チャラ男ッチはテンパりすぎている。

 俺は眉をひそめ大丈夫なのかと促しているのに、気づかずそのまま続けているよ。


「大阪ではよ、指を鉄砲の形にして他人に『バンッ』って撃つと、知らない人でも『うわ、やられた~』って必ず死んだフリをするお約束の笑いがあるんだよ。お前それを知っているか?」


「あ~聞いたことありますね……で?」


 一体なにを真剣に話し始めたんだ、チャラ男ッチ?

 そうじゃなくて、スキルの説明をして欲しいのにな。

 そうか、きっとチャラ男は話し下手なのか。優秀そうじゃないし、納得だ。


「ププッ、それが『バン・マン』だ」


「へっ?」


 ほらね、意味わかんない。


「つまり撃たれた相手は、スキルの力で強制的にさっきの事をさせられる。大阪人でなくてもだ! ほかに例のない異色のスキルで、内輪ノリでしか楽しめないモノだな」


「えっと、敵へのダメージは?」


「あるかよ、そんなもの。まぁ、一種の精神攻撃だし、俺なら恥ずかしくて死んじまうけどな。ぎゃははははは!」


 頭が真っ白だ。


 それの何処がスキルとして成立するんだ?

 いや、するはずないから、この年になっても囲まれて笑われているのか。


 チャラ男ッチと取り巻き2人が、バンバンとクチ鉄砲で撃ち合って、俺を見ては大笑いをしてくる。


 メンタルが豆腐ですから、勘弁を。


「ぎゃはは、1人目の発現したヤツも即引退のスキルだ。お前マジで終わったな」


 チャラ男ッチは自分のこめかみに指を当て、舌をだしてあおってくる。


 だけど知らない人に、ここまでされると流石にめてくる。

 子供の相手はしてられないよな、うん。

 この場を去ろうとするのに遮ってくるし、マジでウザい連中だ。


「うらうら~、バン・マンを使ってみろ、倒れてやるからよう。へっへっへー」


 チャラ男ッチ、マジで撃ってやろうかな。


 そう指を握りかけた時、奥から誰かがチャラ男ッチをいさめた。


「爆炎獅子、また新人いびりなの。いい加減にしなさいよ!」


 凛とした力のある声。

 そこには天使が立っていた。


「チッ、ギルド『白銀霊』のエミリか。正義の味方はお利口さんですねぇ~」


 あ、あ、あの人は!


 白銀霊のギルマスにして、国内に7人しかいないSランクハンターのひとり。

 長い髪と切れ長の瞳がトレードマーク。とんでもない美貌の持ち主の、神花かんばなエミリ様だあ。


 世界中にファンがいて、去年だした写真集も1900万部の大ヒット。もちろん俺も3冊持っている。

 それと『叱ってもらいたい人』ランキングで、いつも1位をかち取る華麗な女性である。


 その神花かんばなエミリが目の前にいるんだよ。


「あのな、エミリ。俺たちは教育をしてやってんだ。邪魔をするんじゃねえ」


 むむ、チャラ男ッチ。顔を赤めて嬉しそう、こいつも叱られたいクチだな。


「何が教育だ。恥を知りなさい!」


 エミリさんが俺の腕をとり、自分の方に引き寄せてきた。

 ふわっといい香りが……あっ。


 チャラ男ッチって顔にすぐ出るタイプだな。

 俺の事を歯ぎしりをして、にらんできている。

 うらやましがっているのが丸分かりだよ。


「エ、エミリ、そんなクズをかばって、またギルドに入れるつもりか?」


「ええ、そのつもりよ」


「ぎゃははー、『誰でも何かの使命がある』だっけ? ご立派なことだな」


 あのエミリさんが、俺の事を庇ってくれている。

 うわさ通り天使のような素敵な人だ。見た目そのまんまだし、惚れちゃうぜ。


 写真集より実物の方が何倍も綺麗だし、なんせ直に触られた。……うん、現実に。


「そっか、俺ってSランクのエミリさんに触れられたんだ」


 掴まれた腕をさわると、なんだか勇気がわいてくる。

 このクズスキルでも、どうにかなりそうな気がしてきたぜ。

 ダンジョンへ行く決心はかたまった。


「うおー、力がみなぎってきたあああ!」


「えっ、急にどうしたの?」


 俺の雄叫びに驚くエミリさんをまっすぐに見つめ、力強くビシッと礼をする。


「どうもありがとうございました。では俺、行きます!」


 常識ある社会人としての基本、完璧な礼。これで何人の顧客を落としたことか。

 エミリさんが見惚れているのを感じながら、格好をつけて走り出す。


「よーし、やってやるぜ!」


「き、君どこ行くのよ?」


 よしよし成功、俺にすがってきているぜ。

 ……もしかしてその声色は、俺に惚れたのか?

 だったら逆に立ち止まらない。

 焦らしてこそ華、ここは一気にダッシュだよ。


「ぎゃはははは、アイツ逃げやがったぜ!」


「何言っているの。……あれこそ男のやせ我慢よ。自分の弱さと戦っているわ!」


「はぁ? どこがだよ」


 何か後ろで騒いでいるけど、構ってなんかいられない。

 俺の輝かしい未来よ、待っていてくれ。




 ダンジョンはかなりの頻度で発生する。

 それをハンターが次々と攻略し、ボスを失ったダンジョンは、魔力を失い消滅していくんだ。


 だから出来立てホヤホヤってよくある事で、昨日できたばかりのE級ダンジョンにやって来た。


 協会で買った木刀(3000円)をひっさげ、ダンジョンゲートの前に立つ。


「トホホ、こんな出費するとは……」


 からまれて忘れていたが、お金を稼がないといけないんだった。

 危なく妄想恋愛に浸りそうだったけど、気を取りなおし、気合いをいれて一歩でる。


 ゲートの前には、入場を管理する機械が既にあり、そこへハンタープレートをかざして入った。


 中は洞窟タイプのダンジョンだ。

 広い部屋がいくつもあるが、そんなに複雑な造りじゃないな。


 少し進むと、早くも一匹目のゴブリンを発見。

 木刀を握りなおし、息を深く吸いこみ呼吸を整える。


「よし、やるか!」


 チャラ男ッチにクズと言われたスキルを使って、人生初の獲物を狩ってやるぜ。

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