第3話 お笑い部門から最強へ
10m先のゴブリンは、まだこちらに気づいていない。
俺はおもむろにゴブリンの前にでて、俺の姿を認識させた。
『グギギギッ、ギギャ!』
一気に戦闘モードになるゴブリン。こん棒を振り上げ襲ってくる。
俺は左手で指鉄砲をつくり、ゴブリンめがけて突きだしバン・マンをしかける。
「バンッ!」
ゴブリンはビクンッと止まり、ケガのないのに胸を押さえ、大袈裟に片膝をついた。
『ぐわ~、や~ら~れ~た~ゴブ』
うーわ……本当にやっているよ。半笑いの大根演技。
呆れるのはあとにして、距離をつめ首元に木刀をフルスイングでめり込ませた。
『痛ーーっ、ツッコミが早いゴブ! ちゃんと最後までやらせるゴブよ。オラの見せ場がないだろが!』
変な所に怒っているのは放っておこう。
綺麗にきまったのに、残りHPがまだありそうだし、もう一回撃ってやる。
「バンッ!」
『ぐえ~、やられたゴブ~』
「で、よいしょー!」
すげー、生死がかかっているのに、またノッテきたよ。
今度こそ倒すつもりで、こめかみを直接狙った。
『痛い、痛い、痛いゴブ。だからータイミングー!』
だけどまだ倒れない。
ゴブリンは血を流しながら、何か熱く語ってくる。その目は真剣そのものだ。
でもそんなお笑い
すると、これが決定打となりゴブリンは倒れてくれた。
じきに死体は消えて、コロンと魔石が転がった。
「よっしゃー! やり方次第じゃ最強だろ」
最強は少し無理はあるよ、うん。
格好悪いやり方だから、自分で
でも危険が少なく、確実にやれると証明された。
時間はかかるが、クズじゃない。
ただ……ダサいだけ、そこを気にしなきゃいいだけさ、グスン。
この後もスキルを使う度に、攻撃をわすれて反論をしてくるゴブリン。
おかげで全くダメージのない狩りを続ける事ができた。
「これでもくらえ、バーン!」
『セリフに被せてくるなゴブ!』
バキッ、コロン
「バキューン!」
『もっと声を張るゴブよー』
ドゴッ、コロン
一個1000円で売れる魔石。もれなく拾い集めていく。
これがあるからダンジョンに来たのだ。
最低ランクの魔石でもこの値段だ。
危険だけど、いかにハンターが稼げるかが分かるよ。
最上位のSランクとはいわないが、Cランクまでくれば悠々自適な生活だそうだ。
「上手くいったら、エミリさんを食事に誘うかな」
まあ、上位ランクになるには、才能と運が必要だけどな。
夢を見てもバチは当たらないし、それに借金も増えないさ。
そうこうしていると、想定していなかった事が起きた。
それは『弾』が尽きていたんだ。
たまたまステータスを開き、バン・マンを意識してみたんだ。
すると説明文に弾数は15発。
補充は弾数×MPによるリロードが必要と書いてあった。
戦闘を始める前に気づいて良かったよ。
「オートマチックの設定かなあ。15発ってシビアだな」
本物の弾倉みたいに交換が必要な仕組み。変な所にこだわっている。
MPは自然回復をするし、エンカウント率を考えればMPが枯渇する心配はなさそうだ。
それに今のところ単体でしか会っていないし、下手したら連続で戦っても3回はリロードできるかも。
それともしも、2匹以上なら即Uターンと決めている。
複数で1人だなんてイジメだし、決闘はタイマンが基本だぜ。
決してビビっている訳じゃない、うん本当に本当。タイマン推奨なだけだ。
その確固たる信念に基づき、へっぴり腰で進んでいくと、リロードを2回する事もなくレベルアップをした。
【♫レベルが上がりました】
初めての通知音、マジで震えるよ。
レベルを上げて強くなる、これこそハンターの醍醐味だ。
────────────────────
番場 秀太
レベル:2
HP :10/10
МP :30/30
スキル:バン・マン
筋 力:5
耐 久:5
敏 捷:5
魔 力:15
ステータスポイント:10
所持金 2,520円
借 金 10,000,000円(New!)
────────────────────
聞いていた通りHPとMPは回復し、ステータスポイントのみが10増えている。
レベルが上がれば、このポイントも倍増するが、今はまだこの程度だ。
このポイントを自由に振り分けれるが、今はしないでおく。
だって充分ゴブリンには対処できるし、今後の敵の能力を見てからでも遅くない。
「フッ、やっぱ俺って天才だよな」
慌てて振ってしまい、後で『力が足りない~』とか、『早すぎて見えねえ!』とかはゴメンだぜ。
おっ、またゴブリン発見。
「くらえ、バーン!」
『ギャー! やられたゴブ~』
ノッてくれてありがとな。
メッタ打ちにして、また1000円いただきです。
今度は袋小路の狭い場所だが、またまた発見。これもペロッと食べちゃうぜ。
「バッキューン!」
「グフッ、こ、これはやらっれたーゴブ。し、死ぬ~~~、ぐおおおおお~ん」
歌舞伎調で演技をしている。……ノリの良すぎるゴブリンに当たったな。
自分の末路も想像せずに
そうゴブリンをあざ笑いながら、上段からの袈裟斬りをした。
が、ミスって木刀で壁を叩いてしまった。
──ポキッ!
「えっ!」
「ゴブっ?」
木刀が根本から折れ、ピョーンと何処かへ飛んでいった。
あまりの事で汗が吹き出てくる。
ゴブリンと2人で見つめ合い、微妙な空気になっている。
『えっと、始めていいゴブ?』
スキルの効果がとけ、ゴブリンがのっそり立ち上がってきた。
一方的に殺っていたから、緊張感のない狩りだった。
でもそれは間違いだ。目の前にいるのは千円札ではなくて、反撃をしてくる敵対者だ。
改めてその事に気づき血の気がひいた。
「ち、近寄るな。バ、バン!」
『ぎゃー、死ぬ~ゴブーーー』
焦って手がびしょびしょなのに、息をする度に喉がへばりつく。
死にたくないと、必死になって頭をフル回転させて考える。
行方不明の刀身は取りあえず無視、残りの柄の部分は武器の意味をなしていない。
MPは充分だけど、素手で殴る? うわ、それは無理。
木刀で3発もかかった相手だ。逆に手の骨がやられてしまう。
「そ、そうだ。ステータスポイントだ!」
天才の俺は、この時に備えポイントを貯めていたんだった。
ステータスを開きポイントを振りさえすれば、あっという間に形勢逆転だ。
「えっと、筋力に……」
『ふう、危なく転ぶところだったゴブ』
膝を払いもう立ち直ってきた。
「バ、バ、ババ、バン!」
『ぐあああん、おっとっとっとーーーー』
耐性がついてきたのか、起きてくる間隔が短くなっていて、ポイントをふる暇がない。
ゴブリンは優位を悟ったのか、にじり寄ってくる。
その恐ろしさで俺は、涙と鼻水をたれ流しながら、手当たり次第に撃ちまくった。
「ヒィィ、お願いだから起きてくるな。バン、バン、バン、バン、バン、バーン!」
『ぐおおおおおん……って大丈夫ゴブ? オラ達やられ役だし、そんなに怖がらなくてもいいゴブよ?』
「いやだーーー。バン、リロード、バン」
『グフ、フ、フ、フーゥ?……だから落ち着けって。オラは優しいゴブリンゴブよ、ニコッ』
「ぎゃーーーーーーー!」
ニチャリと糸をひく不気味な笑い。
その奥に身の毛もよだつ凶悪さを漂わせている。
怖すぎて意識がとびそうだ。
この極悪ゴブリンは、殺戮欲求が強いのだろう。
撃っても撃っても立ち上がってくる。
『わ、分かったゴブよ。オラが死んであげるゴブ。なっ、それなら安心できるゴブよね? ほら、撃ってごらん、ここよ、こーこ』
ゴブリンが罠を仕掛けてきている。俺を油断させて一気に殺るつもりだよ。
モンスター最弱種にでさえ、舐められているのが情けない。
「うおおお、死んでなるものかーー。ばん、ばん、ばん、ばん、ばーーーーーーん!」
もっと撃つんだ。そうもっとだ、もっとだ、もっともっと、もっとだーーーーーーーーーーーーーー!
『う~お~、やられた~。これは、本当に効、い、て、き、た、ゴ、ブ……うっ!』
糸の切れたように力なく倒れていき、顔を地面にぶつけている。
「えっ、し、死んだ? いやいや、騙されるものか、バン、バン、バン……バン?」
だが何度撃っても動かない。
スキルの強制力で反応せざる得ないのに、白目になったままだ。
砂を目にかけても身動きひとつしない。
まさかと覗き込んでいると、ゴブリンは急に消えポンと魔石がとび出てきた。
「うおおおおおお、びっくりしたー!」
不意討ちに腰が抜けた。
だけどこのゴブリン、本当にノリで死んでくれたよ。
「さ、作戦通りだよ、うん」
まだある恐怖をごまかすために、ふんぞり反って
でも残った魔石に目をやり、小さく手を合わせておく。ゴブよ、安らかに眠ってくれ。
「でもこれ以上は無理だし帰るか。明日は予備の木刀を用意しなくちゃな」
値段がはるので、安物の木刀のままだなと考えていると、不意に通知音が鳴り響いたんだ。
【♫バン・マンでのラストアタックが確定しました。偉業を達成したことにより、スキルが進化します。神からの試練を越えた者に、幸あらんことを】
「へっ?」
前触れなしのアナウンス。
ウチの出来ない子が進化ですと?
スキルってバン・マンしかないし、何が起こっているのか説明文を読んでみた。
───────────────────
『バン・マンVer2』
魔力を帯びた強力な弾丸を撃てるようになりました。
弾数 15発
リロード 弾数×MP1
Ver1とVer2の切り替えは常時可能。
攻撃威力: +50、+魔力×2.5
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「はい?」
ウチの出来ない子が『整形手術?』と聞きたくなる程の大変身。
もう別人の域での変わりようです。
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