第4話 秘密を見つけし者

【♫バン・マンでのラストアタックが確定しました。偉業を達成したことにより、スキルが進化します。神からの試練を越えた者に、幸あらんことを】

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『バン・マンVer2』


 魔力を帯びた強力な弾丸を撃てるようになりました。

 弾倉数 15発

 リロード 弾数×MP1

 Ver1とVer2の切り替えは可能。


 攻撃威力: +50、+魔力×2.5

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「なんだ、こりゃ!」


 実弾が撃てる進化ですと?

 それはもうバン・マンじゃないじゃん。


 偉業だと言っているし、初代バン・マン殿はこれを知らずに引退したんだろうな。

 だけど知っていても、簡単にやれる事じゃないし、俺だって2度とゴメンだよ。


 ……それよりこの性能だよ。

 本当かどうか、試しにダンジョンの壁へ向かって撃ってみる。


「ば、ばん?」


 グッと腕に伝わる衝撃がきた!


 それと見えなかったけど、何かが指先から出たんだよ!

 狙った壁は硬い鉱石なのに、大きな穴が空いている。とんでもない事が起きているぞ。


「かなり深いぞ。……なんて威力なんだ!」


 日本人の俺は当然だけど、拳銃なんて撃ったことがない。

 でもこれは本物だ。家族を養うため、神様がくれた最高の武器だ。


『気に入ったか?』


「へっ、いまの何?」


 高笑いしていた中で、不意に誰かのつぶやきが聞こえた。いや、そんな気がした。

 本当にそうだったのかは自信が持てない。


 あまりにも短すぎる言葉だし、聞き違えだと結論づけてくうを見る。


『〈スキルの進化〉というダンジョンの秘密を見つけし者よ、そなたに褒美を授けよう。望む方を選ぶがよい』


 違った、幻聴なんかじゃない。


 ゆっくりとした神の声が聞こえてきた。

 驚きのあまり腰が抜けてしまったよ。


 さっきもそうだが定型文でない言葉で、神からの語りかけだ。

 いま起こっている異例の出来事に、俺は理解が追いつけずにいる。

 だがそんな俺をよそに事態は進む。


 目の前の空間に突然文字が浮かび上がり、2つの選択肢を映し出された。


 その内容をみて苦笑する。

 あまりにも個人的すぎる選択内容だ。


 もう疑いようがない。これは俺個人への神からの接触だ。


【褒美のどちらかを選びなさい】


 ①現金一千万円

 ②他では手に入らない超絶ワンダフルなワクワク人生


 すぐにでも必要な①は親切すぎて怪しい。


 だが②は抽象的すぎる。①以上に怪しいし得かどうかも判断できない。

 おまけに②だけが、ピカピカと点滅していて、マヌケを誘う罠のようだ。


 こんなのに引っかかる者はいないぞ。


 だが、それをあえて踏みぬくバカはいる。そして俺はバカだ。


 俺は目先の現金にまどわされず、夢のある②をポチッと選んだ。


『そなたの意思は受け取った。そなたがここまで来るのを楽しみにしておるぞ』


 もう少し悩めば良かったかと思うが、間違った選択はしていない。

 それは神のセリフからも分かる。


 夢が神のもとへとつながっている。

 そして、今回がゴールでないと言うことは、今後もこの手の秘密を見つけろって事だ。


 あえて言わない神のイジワルにはだまされないぜ。


 既にそこにいないだろうが、神に深々と頭をさげてこの区切りとした。


「グギギギ」


 と、そんな余韻に浸るもつかの間、運の悪いゴブリンを発見した。


 だけどモンスターにも、ちゃんと効くのか試したいが、保険になる木刀がない。

 めようか悩んだ末、後ろからこっそりと殺ることにした。


 気づかれないよう息をひそめ、ささやくような小声で。


「ばん」 と。


 見えたのは、頭がはじけて花を咲かせたゴブリン。そのあるじを失った体は力なく崩れた。

 完全なるオーバーキルに身ぶるいがくる。


 ネット動画で見たことがあるが、本物の銃ではモンスターには通用しない。

 BB弾なのかと間違うくらいだ。


 だけど、俺のはそれを超えていく。

 俺のバン・マンが、お笑いの域から脱したんだよ。


 すると欲がでてきた。


「こうなると弾数は多いほどいいよな」


 リロードするためのMPを増やすには、魔力にステータスポイントを振ればいい。

 耐久や魔力を1上げる度に、HPやMPは5つも上がってくれる。

 と、副産物。攻撃威力が魔力×2.5も上がる。


 残りのポイントの割り振りに、悩んじゃうけどこうした。


 番場 秀太

 レベル:2

 HP :10/10

 МP :60/60

 スキル:バン・マンVer2


 〈攻撃威力:102〉


 筋 力:5

 耐 久:5

 敏 捷:9(4↑)

 魔 力:21(6↑)


 ステータスポイント:0


「すっげえ。攻撃力が100超えって、極振りしたレベル10相当の強さだぞ。レベル2が達する域じゃないぜ!」


 これもネット情報の受け売りだけど、確かな事だ。

 だがあくまでも極振りの場合だ。

 ちゃんとしたハンターなら他のステータスにも振るので、レベル20~25が相当だ。


 その威力の弾を計4回のリロードを可能にし、最高75発が俺の盾となった。


 早打ちも意識したステータスにしたしさ。

 実際に構えるのが早くなって、舌も滑らかに動いてくれる。


「早打ちを極めても良いよな。目指すはビリー・ザ・キッドか次元の人か。どちらにしても、敏捷は重要項目には違いないな」


 格好いいのひと言につきるよ。


 放つ弾はかなりの命中率で当たる。

 俺には才能があるようで、ピンポイントで狙える精巧な腕前だ。


 バシバシ当たり、口許がゆるむ。

 千円魔石をかき集める度に、借金が減る嬉しさで震えてくるぜ。


「うらうら~、最強シューターが爆誕だぜー、ヒイーハー!」


 迫るモンスターをワンショット。気分はまるで、バイ●ハザードだよ。

 近づかれる前に、ガスガスと撃ってなぎ倒していく。

 100%安全圏内からのお仕事です。

 

「バン!」


 どさっと倒れたあと、コロンと魔石。


「バン!」


 ばたんと、コロン。


 怖いほど調子よく、背後から来られても冷静に対処。


「バッキューン!」


 コロン。


「サイコウだーーーーーーーーーー!」


 歓喜の声がダンジョン内に木霊こだました。


 ◆◆◆◆◆


 ちょうどその頃ダンジョンの外では、30年ぶりに発せられた神の声により、全世界が混乱していた。


【♫いましがた、隠された秘密のひとつを見つけし者が現れた。その者が更なる追求者となる事を我は望む】


 通知音のあと、たった数秒の短い言葉である。


 だがそれだけで人々を興奮させるには充分であった。


 その言葉はあらゆるネットワークを駆け巡り、更なる夢を膨らませる。


 ニュースはそれ一色。

 独自の説を掲げる者や、自分がその本人だと名乗る者が後を絶たない。


 人々の期待は留まることを知らない。

 町のあちこちでもその話で持ちきりだ。


「うおー、遂に2人目がきたか!」

「えっ、父さん。1人目っていたの? ぼく初耳だよ?」

「ああ、ダンジョン世紀すぐの事さ。高レベル者がいない頃の事だから、みんな自分にもチャンスがあると湧いたものさ」

「す、すごいや。……でもさ、何年も経っているんでしょ。どうしてみんな、1人目の真似をしなかったの?」

「それは無理だ。その内容どころか、何処の誰なのかさえ分からなかったからな」

「えーーーーっ、じゃあ今回もなのかなあ?」

「いや、あの頃とは違う。ダンジョン協会が突き止めてくれるさ」

「そっかー。どんな凄い人か楽しみだねー」

「あははは、もしかしたら案外にも平凡なヤツかもしれないぞ」

「もー、夢を壊さないでよ!」


 ダンジョンの秘密を見つけし者にとっても、はたまた彼に夢見る者にとっても、この日は特別な一日になった。


 これ以降ダンジョン攻略は加速をし、第2次ダンジョンブームが巻き起こる。


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