第5話 明日への階段

「へっ、へっ、へっくしゅん。誰か噂しているのかな、参ったなあ」


 新しく生まれ変わった無敵な俺。その活躍ぶりを見られていたか。

 力を持つ者となった今、プライベートが窮屈きゅうくつになるのは仕方ない事だとあきらめる。


 ただ順調に狩っているが、実は次のレベルアップが重要だ。

 そこで今後のハンター生活が決まるといっても過言ではない。

 それを確かめるべく、奥へ奥へと進んでいく。


 そろそろ上がる頃かと構えていると、最奥にあるボス部屋のまえに着いてしまった。

 重厚な構えの扉、この向こうにはこのダンジョンの主がいる。


「ボスはレベルアップしてからだな」


 はやる気持ちを抑えて深呼吸をし、少し休憩がてら、今日の収穫を確認しておく。


 数えると魔石は41個に増えていた。

 換金すると手数料ひかれても35900円になる。

 これでボスを倒せば更に1万円だ。


 これで2人には、ひもじい思いをさせないで済む。

 そう考えると、自然と笑みがこぼれてきた。


 明るい未来を信じて狩りを再開させると、すぐにレベルは上がってくれた。


【♫レベルが上がりました。……レベル上限に達しましたので、以後経験値はストックされます】


 無情な通達に心が冷える。


「はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、おれのレベル上限は3だったのかぁ」


 全ハンターが悩まされる各個人に設けられた最大レベルの上限。

 決して突破できないレベルの壁だ。


 先人の例で、区切りとなるレベル数は分かっているが、到達するまで確認できなくて、そのレベルに近づくとみんな緊張をする。


 レベルが上がるほど、貰えるステータスポイントは増えていくのに、その上限により活躍の場が決まってしまう。


 つまり素質のほかに、運もないと上へと行けないんだ。


「せめてBランクまで行けば、エミリさんと釣り合ったのになあ」


 最初にくるレベル上限は3。全ハンターの80%がここまでだ。


 その後はレベルの区切りは20、30、40、50と上がっていき、Sランクはレベル60を超えられる。


「つまり俺はEランクが限界か……おわた。そして恋もおわったげふ」


 スキルによって活躍は左右されるが、おおむねこれでほぼ確定だ。


「あれ、待てよ。これの何処が超絶ワンダフルな人生なんだ?」


 よくよく考えると、さっき神様から直接語りかけられ、ワンダフルハッピーライフを約束されたはず。


 それなのにコレはない。


 もしかして神様の手違いかと、空に呼び掛けるが返答はなし。声量の問題ではなさそうだ。

 ならばとカワイクおねだりかとしてみても、息が切れるだけで無駄だった。


 姿すら見たことのない相手だが、神だからと無条件で信じてしまっていたので、そのショックはかなりデカイ。


 だが、リュックの重みで考え直す。

 1日4万円以上稼げる仕事など他にない。

 世界のヒーローにならなくても、家族は守ってやれるんだ。


「よ、よし、ボスを倒して帰るか。2人ともびっくりするぞぅ」


 ビシッと頬を叩いて気合いをいれる。


 ボス部屋の扉を開くと、そこにはホブゴブリンがいた。

 舌を舐めずりまわし、獲物が来たと喜んでいる。


 だがいまの俺から見たら、ボスとはいえ少し大きめのゴブリンにすぎない。

 逆にあの自信が、どこからくるのか理解に苦しむよ。


 自分のバン・マンの威力を知っているからこそ、言える事がひとつある。


 俺のバン・マンなら問題ない、だ。


 自分を信じ、一歩踏み入れた瞬間にホブゴブリンを撃つ。


「バンッ!」


 たった一撃で仕留めた。他のゴブリンと大差ない。


呆気あっけ……ないな」


 軽く息を吐き、ゴルフボールほどの魔石を拾い、帰還ゲートが出現するのを待つ。


 達成感はあるさ。

 初ダンジョンでボスまで撃破したんだ。これ以上の金星はないだろ。


 しかもクズスキルと言われたのが進化して、このE級では敵なしだ。

 真面目にやれば月に数十万は稼げるし、借金だって楽々かえせる……。


「でもなぁ、壁っかぁ。悔しいよなーー!」


 うん、本音はこれよ。

 俺だって男の子、強さには憧れる。


 でもこればっかりはどうしようもない。

 世界の摂理は変えられないんだし、やれる事をガムシャラにやるのみだ。


「さーて、そろそろ帰りますか。……んんん、なんだあれ?」


 帰還ゲートも発生したので、ゲートをくぐろうとしたその時、反対の方の床で違和感を感じた。


「扉かな?」


 砂埃を払うと独特の模様が現れた。取っ手までついている。


 まさかと思いながらも、力任せにこじ開けると、中から古い空気の匂いがした。

 そして更に地下へと続く、長い長い階段が現れた。


 心臓が早鐘はやがねをうつ。


「はっはっはっはー、これだよ、これ! ハンターってのはワクワクしなくちゃな、ヒイーハー!」


 さっきの悲壮感はどこへやら。

 四股をふみ、指のストレッチに力がはいる。


 ボスは最後だからこそ、ボスだ。

 その奥にある世界だなんて、想像もつかないぜ。


「それにしてもやってくれるぜ、あの神様。下げてからの急上昇は卑怯だろ! 俺の事をよく分かっていやがるぜ」


 ドキドキが止まらないと胸を叩く。


 この神の計らいに応えるべく、未知のEXステージへの長い階段を、俺は小走りで降りていった。



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