第6話 エクストラ・ステージ

 カビ臭くかなり長い階段だ。

 その分、期待も大きくなるよ。


「宝物とかいっぱいかもな」


 この先に何もないかもしれないけど、そこへ向かう俺であるだけで十分だ。

 まっ、危なかったら引き返せばいい。


 最深部が見えてきた。

 闘技場のような大きな空間だ。


 その真ん中には、巨大な悪魔が鎖でつながれている。


 山羊の頭に4つの目玉、盛り上がったたくましい筋肉に、千切ちぎれた黒い羽。

 体のあちこちから瘴気しょうきが立ちのぼっている。


 これはS級に属する悪魔、バフォメットだ。


 海外ニュースで見たことがある。

 挑んだハンターが一瞬で全滅していた。

 あまりにも桁違いの強さに、加工映像かと疑ったほどだ。


「あー、無理バトルかなぁ? でも様子がおかしいよな、うーん」


 悪魔のいる場所には魔方陣が描かれていて、うつ伏せのまま頭をもたげてきた。

 どうやら瀕死の状態のようで、少し動かすのもやっとのようだ。


『おい、にんげん、近くに、こい』


 弱々しいがここまで聞こえる。話が通じるようだ。

 この子もゴブリンみたいにいい奴で、何かイベントのパターンかも?

 吐息を吐くように笑っているしさ。


『もう少し、だ。魂を、食って、やるから、ここに来、い』


 うほっ、山賊タイプの悪者で、ちょっと腹立つタイプだよ。

 そんな相手なら身動きとれなさそうだし、情けをかける理由もない。


 チャンスをみすみす逃すのも勿体ないし、味見してダメならスタコラと逃げればいいさ。


 と言うことで、2階席からあいさつ代わりの一発を眉間へおみまいしてやった。


「なんでお前のために、死なないといけないんだよ、バン!」


『グオオオオッ!』


 無理かと思った俺のバン・マンが、上位の悪魔に効いている。

 ヒットすると悪魔は身をよじり、鎖にその動きをさえぎられ、わずらわしいと牙をむく。


『おのれ、どいつもこいつも!』


 お返しとばかりに炎を吹いてきた。

 だがぎこちない動きと、距離もあるので楽々かわせる。


「あははは、礼儀を欠くとこうなるんだぜ。バン、バン、バン、バン!」


『ぐおっ、虫けらのくせに、我が崇高な行いの邪魔をするな』


 だが悪魔はしぶとく、急所を何発撃ってもまだ倒れない。

 衰弱していても、やはりS級だ。長期戦に備えペース配分を考えないといけないな。


「何が崇高だよ。どうせろくでもない事だろが!」


『愚かな。お前ら下等な生物を蹂躙し世界を救うのだ。これほど意義があり未来を見据えた行いが他にあるか? おっと、虫けらには理解できないか。だが安心しろ、食料家畜としては残してはやる。それが王としての慈悲だ。ひざまずいて感謝しろ』


「お前……酔っぱらっているのか? 聞いていて恥ずかしいぞ。ほれ酔いざましをくれてやるよ、バン、バン、バン!」


『グゴゴゴッ! 人間の分際でええええ!』


 腰をかがめて移動をし、俺の居場所を悟らせない。

 俺の動きに惑わされ、面白いようにイラついている。


 時には意表を突いて正面にたち、連射でど真ん中をぶち抜くと、騙されたと激怒してくる。


 それでも走りながらフェイントをかけ、息があがるもその手を止めない。


『グフッ、人間ごときが。我の最大、魔法で……グフッ』


「その必需はないぜ。お前はそこで朽ち果てるんだ。バン、バン、バン、リロード、バン!」


 無防備な構えにあきれてしまう。

 その好機を逃すかと、ここぞとばかりに腹や顔面と急所を撃ちぬいた。

 そして、最後のリロードするまでもなく、悪魔を倒した。


『この、怨み、ぜん、人類にかえして…くれる!』


「ダッサッ、Eランク並の捨てゼリフだな」


『な、なんだとーー、グフッ』


 最後に怒りの言葉を返そうとした悪魔だったけど、時間切れ。

 体は霧のように消え去り、その跡にはとびっきり大きな魔石が残された。


 千円札どころの騒ぎじゃない、その万倍もの大きさがある。


「えっ、えっ、え! そうなると借金がいきなり失くなるじゃん!」


 とんでもない幸せが舞い込んできたよ。


【♫ダンジョン初アタックにして、ノーダメージでのエクストラステージ完全制覇。報酬としてスキルの別枠進化がおこります】


 おおおお、更に大ご褒美ッスか。神様、あざっーす。少し違った声色も素敵っすよ。

 俺、いい子にしていたのを見ててくれたんッスね。

 もう一回、あざっーす。では見させてもらいます。


 ────────────────────


『レベル上限突破弾』

 ────────────────────


 WHAT?


 もしかして神様、俺の愚痴ぐちを聞いてましたか?

 いやいや偶然だろう。まさか一個人の希望にいちいち応えてくれるはずがない。


「でも……偶然にしてもありがたい、あざっーーーーーーーーーーーーす」


 90度よりもっと頭を下げる。

 これしか返せないが、気持ちは本物だ。

 あの母と妹と過ごす生活が、俺に節度と礼儀を芽生えさせてくれた。


【…………】


 神様は答えない。

 でも他人に何かを与えてもらえば、それがどんな事でも心をこめて礼をする。

 俺の美徳のひとつだ。

 本当に本当に、あざっーーーーーす。


 ……と、有り難がるのはここまで。


 切り換えて、さっそく突破させてもらますか。


 ───────────────────


『レベル上限突破弾』


 被弾者のレベル上限を1ランク上げる。

 以下のどちらかを捧げよ。


 ★いま持っている全ての経験値。

 ★装備品以外の全財産。


 ───────────────────


 SO WHAT?


 今日稼いだどちらかを差し出せだと?

 ふざけんな、ありがと言って損したぜ。


「神様、あんたはうちの親父殿かよ。こんな理不尽な要求は飲めないぜ。条件は他に変更してくれよな、ほら」


【…………】


「ほら!」


【…………】


 聞こえているはずなのに反応してこない。

 ちっ、こちらの根負けだ。


 でもどっちだ、経験値かお金か。


「落ちつけー俺。焦ってはダメだし、先延ばしはもっとダメだ。傷口がでかくなるだけだ」


 お金なら所持金はゼロで、明日のご飯もあやうくなる。

 借金とりの期限も近いし、待ったなしで崖っぷちだ。


 逆に経験値なら、うーーーーーーーん、あれをもう一回?

 あんなお人好しなゴブリンって他にいるのか?

 それに俺もあそこまで熱くなれないし、実弾を取り上げられたら、それこそ詰むぞ。


【レベル上限突破弾を使いますか?】


 いつの間にかYesとNoの選択肢。

 ペカペカ点滅してあおってくる。


「うーーーーーーーーー、腹立つーー!」


 巻き舌で返しても、点滅は止まらない。


「はぁ、分かったよ。あんたの勝ちだよ」


 Yesを選びお金を犠牲にして、腕に銃口をあてる。


「はぁ、変更するなら今だぞ。神さまー、おーい、聞いてますかーー?」


 粘っても変化ない、諦めるか。


「ふぅ、ばん」


【♫レベル上限解放、貯まっていた経験値が消費されます】


【♫レベルが上がりました】

【♪レベルが上がりました】

【♫レベルが上がりました】


 ありゃ、上位デーモンと思っていたのに、案外と経験値が少ないね。

 それとお金か、……見たくもないな。


「はあー、本当に魔石も全部なくなっているよ、トホホホホ」


 特大魔石が目の前で消えたんだ。他が無事なはずがない。

 どうやったのか分からないが、電子マネーに小銭までもだ。どうせ家にあるのもダメだろな。


 帰還ゲートがここにも出現。

 だけどもと来た道を引き返す。

 残っているゴブリンを少しでも狩って、手持ちを増やしたい。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ。たった3匹か」


 駆けずりまわって、身も心もぼろぼろだ。

 もういないと諦めたのは、夜の遅い時間だった。



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