第7話 大成果

 家につくとまだ明かりがついていた。


「まだ11時だもんな。そりゃ起きているか」


 気配を消してゆーっくり玄関を開けたのに、案の定2人が出迎えてくれた。


「おかえり、お兄ちゃん。遅くまで頑張ったねえ」


「お、おう。お前もな」


 尊敬する兄ならやれて当然との眼差し。くっ、痛い。

 ヤバい、母さんもニコニコして立っている。

 家族の優しさがツラいぞ。


「それでどうだったの?」


「えっと、そのー、あれだぁ。うん、そこそこのー、2700……円だ」


 凍りつく空気、そして優しく抱擁ほうようされた。

 ぐふっ、優しさが剣山クラス。


「ち、違うんだ。一時は1000万までいったんだ。でも限界突破したら、スルッと溶けてさ。全部神様のせいなんだ!」


「うんうん、お兄ちゃんは頑張ったよね。だから心配しないで、絶対嫌いにはならないよ」


 しまったー、説明をはぶきすぎたあ。

 これじゃあ、まるで博打打ちの言い訳だよ。


 話せば話すほど、2人は大袈裟なほどに明るく笑ってくれる、ぐふっ。


「そうそう、今日はお兄ちゃんの大好きなハンバーグだよ。お母さんと2人で作ったんだ」


 明日だ。


 明日もう1度ダンジョンで、稼ぎまくってくるしかない。

 それしか証明しようがないぞ。


「うおーーー、やってやるーーー!」


「あらあら秀太ちゃん、暴れるとお袖にソースが付いちゃうわよ?」


 はい、母さん、明日です。




 早朝、昨日より難易度の高いD級ダンジョンにやって来ました、はい。

 稼ぎたい気持ちもあるが、実際はE級では物足らないのが本音だ。


 ダンジョン協会としては、ハンターが格上に挑むのを禁止にはしていない。


 現に他のEクラスのハンターもチラホラといる。

 何やらみんなテンションが矢鱈やたらと高く、ちから試しの感じかな。


 ハンタープレートを機械に通して中にはいると、今回はフィールドタイプのダンジョンだった。


 高低差はあるが、荒野のような風景だ。


 ひと気のない方に進むと、近づいてくる足音が聞こえてきた。

 荒い息も隠そうとしていない、複数の獣の音だ。


「まる分かりだって。バン、バン!」


『キャン、キャキャーーン!』


 襲ってきたのはフレアウルフ、小さな炎を操る狼だ。

 しかし近づかれる前に、ペロッと2匹いただきました。


「うひょー、最高だよ。これで昨日と同じペースならウハウハだぞ!」


 ここは俺に合っている。

 ほどよく遮蔽物しゃへいぶつがあるので、倒しやすく隠れやすい。


 ただ他のパーティーがいるので、独り占めには出来ないが、それでも充分な狩り場だよ。


「こりゃ儲かるわ。バン、バン、バン」


 魔石の単価は倍だし、2~3匹で動いているから効率よくて怖いくらいだ。

 二千円札の乱舞だぜ。


 ほどなくして上への階段を見つけ登っても、敵の強さに問題はない。

 多少素早くなった程度だし、俺のワンショットで体は吹き飛ぶ。

 俺が強くなりすぎたかな。


「バン、バキュン、バキュン」


 時たま他のパーティーに遭遇する。


 流れ弾の危険はないけど、念のため離れた所へ移る気配りは忘れない。

 えっへん、気配りは社会人の常識ッスよ。


「あれって、昨日絡まれていた新人だよな?」

「ああ、クチでバンバン言っている可哀想なヤツだったな」

「うん、やはり恥ずかしいんだな。そそくさと逃げていくよ」

「おーい、新人。がんばれよー!」


 おおお、遠くて聞こえないけど手を振ってくれている。


 うんうん、ハンター同士の結束っていいよな。

 おれ、気に入ってるんだよね。

 ハンターは自立を尊重、でも人に優しくだ、カッコいい。


 勇気と元気を分けてもらい、ますます歩みが速くなる。


 3階にあがる頃には、リュックはパンパン。

 小さめのにして失敗したよ。

 予備の袋を持ってきているが、使う羽目になるとは思わなかった。


 大きな岩山が遠くに見え、ボスがいるだろうと当たりをつけ近づいていくと。


 ほらね、ビンゴだ!


「でも手下が5匹の群れか。少なっ!」


 だけどダンジョンボスだけあって、雄牛サイズの大きさで、筋肉だってゴリゴリだ。

 岩山のてっぺんに寝そべり、手下を鼻息だけで支配しているよ。


「自分が絶対だと信じている顔だな」


 俺の存在に気づいているはず。


 50mの距離まで来ても、ボスは姿勢を変えない。

 舐めプはいいけど、撃って下さいと言っているようなものだぞ。


 でも俺も似たようなモノか、単身で乗り込んで来ているしな。


「たのもーーー。……それでも動かないのか。じゃあ遠慮はいらないみたいだし、早速メインからもらおうかな、バン!」


『キャイン!』


 ボスをワンキルされて、周りのザコはキョトン。

 えっ、これって有りなの? だなんて顔で見合わせている。


 そして自分たちの敗北をさとり、しっぽを巻いて逃げだした。


「すまんな、かわいい妹が待っているんだ。お前らの命、使わせてもらうぜ。ばん、ばん、ばん、ばん、ばーーーん!」


 全て倒し魔石を拾っていくと、なんとハンターの夢、宝箱が来ましたよ。


 ────────────────────

『マジックバッグ(小)』


 1㎥の亜空間収納が可能。

 収容時は時間経過停止。

 ────────────────────


「おおお、こんなに運が良くていいのかよ。稼げたしレベルも上がって最高だあ」


 一千万にはほど遠いけど、魔石52個なら家に帰ってもいいでしょ。

 帰還ゲートを通り、足早にダンジョン協会へ向かった。




「たっだいまー!」


 颯爽さっそうと、協会に現れるカッコいい俺。

 ルンルン気分のステップを踏んで、買取カウンターに行くと、昨日と同じ受け付け嬢さんだった。


「あっ、番場ハンター。今日の成果はどうでした?」


 覚えてもらっているのに驚いた。

 と言うか、昨日の3個の記憶は消して貰いたい。


「ええ、昨日の俺じゃないですよ」


「わー、そうですか。よかったですね」


 でも、リュックを見る目が笑っていない。どう見ても中身が詰まっていないもんね。


 しかーし、俺にはマジックバッグという、裏技があるんだよ。

 ヒョイヒョイヒョイっと取り出して、度肝を抜いてやるぜ。


「あれ、クズスキルのバン・マンじゃん。ウェーイ、ちゃんと撃ってるかあ?」


 後ろから頭をはたかれヘッドロック。

 このイラッとする声は、チャラ男ッチだな。

 せっかくの楽しい気分が台無しだよ。さっさと何処かへ行ってほしい。


「ええ、おかげで強くなりましたよ、せんぱい」


「生意気ー。どうせ稼いでもゴブリン2~3匹位だろ、ぷぷぷぷっ」


「フッ、どうかな。いま成果をお見せしますよ、せんぱい?」


「あー、いらね。今からコンパだし、クズに構っていられねーよ。じゃあなー」


「えっ、待てよ。おいっ、これを見ろー!」


「バイバーイ」


 行ってしまった。


「マウントを取れると思ったのにー!」


 チャラ男ッチの中では、俺は底辺ハンターのままだ。

 追いかけるのもしゃくだし、次は絶対ギャフンと言わせてやる。


 と、それよりも。


「これの換金をお願いします」


 集めた魔石を全てカウンターに出す。

 どよめく周囲。

 うんうん、普通にこれを期待していたんだよ。

 チャラ男ッチ、今度な。


「11万1600円になります。番場ハンター、頑張りましたね」


 ガシッと手をとり、本気で喜んでくれる受け付け嬢さん。

 異性だと意識しすぎて、小さくしか礼を言えなかった。


 ヘタレを誤魔化すため600円は募金箱に。


「それとちょっとお話をしてもいいですか?」


 ま、まさかのお誘いですか。

 稼ぐハンターって凄いんだな、たった2日でこの変化。

 ヘタレですから来てくれた方が助かりますが、どうしていいか焦っちゃうよ。


「あのー、番場ハンターの実績が規定に達しましたので、協会でのランクがアップします」


「ありゃ、残念」


「えっ?」


「あっ!」


 ヤバいと慌てて訂正し、D級の若草色のハンタープレートを受け取る。

 その感動に浸っていたいが、見られるのが恥ずかしく、そそくさとその場をあとにした。


 家で2人の驚く顔を早くみたいし、今日はこれで満足しておくか。



 ────────────────────


 番場 秀太

 レベル:9

 HP :85/85

 МP :100/205

 スキル:バン・マンVer2


 (攻撃威力 175)


 筋 力:10

 耐 久:20

 敏 捷:30

 魔 力:50


 ステータスポイント:0


 所持金 111,000円

 借 金 10,000,000円



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