第8話 本格的にハンターです

「たっだいまー」


 やはり2人とも玄関で迎えてくれた。

 暖かい家族に感謝です。


「その様子だと良かったんだね、お兄ちゃん」


「おおお、愛しの妹よ。お兄たんはやったぞ。不自由な生活とはおさらばだ」


「あらあら上機嫌ねー。まるでお父さんが帰って来てみたい」


 母さんのこの一言に萎える。あの人と同じとは勘弁してほしい。

 だけど今日の俺は一味違うぜ。


「2人とも見てくれよ……ジャーン」


 札の扇を見せると、目をまん丸にしている。大成功だよ。


「お、お兄ちゃん、やっちゃったのね?」


「ああ、スルッとできて自分でも怖いくらいさ。でも心配するな、コツは掴んだ。これからは毎日稼いでくるからな」


 俺の成長に感動しているみたい。

 結衣はプルプルと肩を震わせてている。

 こんな可愛い妹だ、何か好きな物を買ってやるかな。


「ま、毎日ですって! この外道ーー!」


 バチコーンと振り抜くビンタをされました。


「え、え、えええ、え~?」


 ショックで腰が砕け、涙がポロリ。ジンジンとほっぺたが痛いんだ。

 妹よ、お兄たんが何をした。


「いくら借金があるからといって、泥棒なんてサイテーよ!」


 今度は俺の目がまん丸だ。

 母さんを見ても同じ。100%信用されていない。


「ち、ちがーーーーーーーーーう!」


「じゃあ、このお金の出どころを説明しなさいよ!」


「あらあらー」


 と母さんもすりこぎ棒を握っている。


 2人の誤解を解くのに、3時間の説明。

 ご飯など貰えずにだから、腹ペコを通り越して朦朧もうろうとしてきた。




「なーんだ、本当に強くなったんだね。私、すごく心配したよ。モグモグ」


 2人は既に食事を終えて、デザートに入っています。


「だから、言ってるのに、ぐすん」


 俺は正座させられ足が馬鹿になってます。

 そして気遣いもないままに、話を進められるんだ。


「でも、スキルの進化って凄いよね?」


「お、おう、お兄たんは有名人になるかもだぞ」


「えっ、秘密にしないの?」


「えっ?」


「あらあらー」


 俺の妹は頭がいい。

 進化のことや限界突破のことを公表したら、いかに俺にとって害になるかを教えてくれた。


「いい、今の力を持たないお兄ちゃんなら、権力者にとって絶好のカモよ」


「カ、カモ?」


 冷や汗をぬぐい母さんを見ても、否定なんかしてくれない。


「うん、良くて飼い殺しね。お兄ちゃんはただの限界突破マシーンにさせられるわよ。権力者たちは自分達の利益のために、お兄ちゃんが弱くなろうが、貧乏になろうが構わないって事よ」


「えっ、チヤホヤされて尊敬されまくるかと……」


「あまーーーーい、私なら手足を切って逃げられないようにするわね。で、嫌がったら電気ショックよ」


 脂汗が吹き出てガクブルだ。

 EXステージのあの悪魔でも、これほど怖いとは思わなかった。

 やっぱ、人間が1番怖いよ。


「そんな事イヤだよ。俺はどうすりゃいいんだよ」


「ふっ、強くなって大金を稼ぐことよ。誰も手を出せない強さなら、お兄ちゃんは安全よ」


 さすが結衣、単純で分かりやすい。

 将来は官僚になってこの国を操りたいと、日頃から言っているから、こんな問題は朝メシ前。


 結衣の言う通りしていれば間違いはない。

 返済管理も任せてあるので、生活費を含めてほとんどを渡しておく。




 次の日。


「ということで、強くなるため1日に最低12時間はダンジョンに潜ってもらいます」


 どこにあったのか、ぴったりサイズの軍服を着ている結衣。

 似合いすぎていて、お兄たんは怖いよ。


「でも会社は? そろそろ出社しないと怒られるよ」


「大丈夫。辞表代行サービスを頼んでおいたから、心置きなく狩れるわよ」


 初耳です。自分の知らない間に無職になっていました。

 さっき着信音を全てオフにしろって、これだったんだ。

 もうすでに50件以上の連絡がきているが、全て削除するのを忘れない。


「ふぅ、これでスッキリしたぜ」


 なにはともあれ、後腐れなくハンターとしての道を、本格的に歩み始めた。


 そして結衣に指定された場所は、D級のゴースト系が出るダンジョンだった。


「妹よ、お化けに銃は効かないぞ?」


「それは本物の銃のことでしょ? スキルはどうかを試さないとね。それでダメなら別のプランを考えるわ」


 強制的に見送られ、着いた場所は近所でした。

 ハンタープレートをピッとして中へ。


 全体的に薄暗い、幽霊街を舞台にしたフィールドタイプ。

 外だけじゃなく、屋内にもお化けがいる。


 おっ、窓から他のパーティーの戦っている姿が見えた。

 お化けが巨大化したり叫んでいて、それでハンターは恐慌状態だ。


 やっぱり精神攻撃が得意のようだし、ハンターの物理も効いていない。


 ホラー感満載だな、ここは1人で来る所じゃないぞ。


「でも、試さないと怒られるからな。よ、よし、あれを殺るか。バン!」


「ヒョーーーーンッ」


 断末魔を上げ、コロンと魔石を落としてかき消えた。


「うはっ、イケるみたい。バン・マンVer2って最強だな」


 こうなるとお化けが可愛く思え、お札にしか見えてこない。


 だけど家の中だと獲物はすぐ尽きる。

 外も同じようのものだし、もっと効率的な狩り場を探すことにした。


 あちこちさまよい歩くと、ひときわ気配の強い場所があった。


「あっ、墓地かぁ!」


 敷地の外から見てもウヨウヨと。

 この場に囚われているのか、外には出てこない。

 ぱくぱくとクチを開けて怨めしそうだ。


「ここは釣り堀? とりあえず始めるか、バン、バン、バン!」


 一匹やるとワンサカと寄ってくきた。

 狭いところに固まってくれているし、一発撃つだけで大漁だよ。


「あはははっ、入れ食い状態ってマジ最高」


 無限に湧いてくれるかと期待をしたけど、30分もたたずに全滅した。

 そして残ったのは大量の魔石である。


「はうぅ、これ拾うのかあ」


 敷石のように落ちている魔石を見て呆然となる。

 中腰だと腰へ、座り込むと太ももへの負担で体が悲鳴を上げている。


「もう疲れたよぅ、休憩、休憩!」


 焚き火を起こし、食事をとる事にした。

 自慢じゃないが、こういったサバイバルは得意なんだよね。


「ソーセージ、旨っ!」


 熱々が笑えてくる。


 そういえば、親父殿が昔よくキャンプに連れていってくれたよな。

 あの頃は親父殿も優しくて、いつも俺らのそばにいた。

 家族4人での楽しい思い出だ。


 俺1人でテントを立て、見つけたヘビをさばき、雨のなかを何日間も過ごしたっけ。

 雨のなかの火起こしって、結構キツイんだよね。

 寒さで体は動かないが、母さんや結衣が待っているし必死だったよな。


「んんん、ろくな思い出じゃないぞ?」


 そうだよ。思い出したぞ、親父殿!

 すべての仕事を押し付けられて、親父殿は出来上がった頃にやってくる。


 雪の中の行軍とか、野鳥が取れるまで食事なしとかも平気であったな。


 楽しいどころか、記憶を封印していた体験だったか。


「結衣が時たま見せる闇はあの時のせい?」


 うむ、結衣には話さないでおこう。それがせめてもの兄ごころだ。


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 番場 秀太

 レベル:10

 HP :100/100

 МP :145/205

 スキル:バン・マンVer2


 〈攻撃威力:175〉


 筋 力:10

 耐 久:23

 敏 捷:30

 魔 力:50


 ステータスポイント:7


 所持金 500円

 借 金 9,950,000円


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