第24話 買い物にはハプニングが付き物 -1-
次の日。
昨日と大きく違って、今日は雲一つない青空が広がっていた。
そんな天気の下で真たちは駅から出ると、たくさんのお店がズラリと並んだ通りの入り口の前までやってきた。
「「おおーっ」」
休日ということもあって、凄い人の数に、
駅前の信号を渡っただけなのに、もの凄い熱気を感じる。
ファッションを扱うお店から、アイドルグッズの専門店まで、テレビの中の世界が目の前に広がっていた。
「すごい……」
「うん……」
都会、恐るべし。
「まっ、
自分を呼ぶ、この元気のない声の主は、なんと……管理人さんだった。
「昨日の夜、急に押しかけてごめんね……」
「それはさっきも謝ってもらいましたし、僕も琴美も気にしてませんから。だよね、琴美?」「う、うんっ」
そもそも、どうしてこうなったかと言うと、あれは…………昨日、日付が変わろうとしていたときのことだ――。
ピンポーン。ピピピッ、ピンポーン。
急にインターホンが鳴り、恐る恐る扉を開けると、
『真ちゃ〜~~んっ?』
『管理人さん? どうしたんですか? こんな遅くに』
『えへへへっ。会いた~かった~よーーーっ♪』
『管理人さん……っ!?』
『くんっ、くんっ。真ちゃん……いい匂いがする~……』
それから、真の首元に顔を寄せると、ほのかにシャンプーの香りがする髪を思いっ切り吸った。
『ッ!!?』
『すぅぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ…………』
首にかかる息がくすぐったくて、ゾクゾクと鳥肌が立ってしまう。
『もっ、もしかして……またあのチョコ食べました?』
『ん~~~?♪』
『酔ってますよね……』
『ふにゃぁ……?』
『はぁ。そんなに酔っ払ったら、明日起きられなくなりますよ?』
『ええぇ〜……っ。行~き~た~い~っ……!!』
『じゃあ部屋に――』
『もし起きられなかったら~~~真ちゃん、起こしに来てねっ♡』
と言って、手に持っていたものを見せてきた。
『この鍵で……っ♡』
『…………』
ダメだこりゃ。
香織は首元から顔を離すと、胸に埋めた。
『……っ!』
まるで駄々をこねる子供のようだ。小さい頃の琴美を思い出す。
『……ママ……』
『え――』
『あああああああーーーーーっ!!!!!』
行ったっきり真がなかなか戻ってこないため、来てみると、目の前にこの状況が広がっていた。
『ママから離れてください~ッ!』
二人を引き離すと、琴美は疲れたように「ふぅ」と息を吐いた。
『ママ、管理人さんの部屋ってどこ?』
『え、ちょうど下の部屋だけど』
と言って真が下の方に指さすと、
『オッケーっ。こんな足取りで階段を下りられるわけがないし、ちょっと部屋まで運んでくる』
『だったら、僕も――』
『ママはダメっ。ママが一緒に付いて行ったら、またこの人なにをしでかすかわからないもんっ』
『た、確かに……』
『ほら、部屋まで行きますよっ!』
『んん~~~? 真ちゃ~ん、こんな可愛い子と~こんにゃ遅くに~なにをしてたのかにゃ~?』
『ほらほら……って、どう動いても胸が当たるんだけど!?』
胸への嫉妬心でいっぱいの琴美は、香織を支えて部屋を出て行ったのだった。
『……あははは』
……。
…………。
………………。
そして、今日、アパートの前で待ち合わせしたときにすでに謝られていたので、気にしていないと言い続けていたのだけど。
「うぅぅぅぅ……」
「本当に気にしてませんから。ちょっぴり、びっくりはしましたけど……」
ガルルルル……ッ。
横ではなぜか、琴美が、獲物に襲い掛かる一歩手前の狼のような唸り声を上げていた。
(酔った勢いでママに抱きつくなんて……っ)
やっぱり、この人はキケンだっ!
そのとき、手をポンっと叩く音と共に、隣で真たちの話を聞いていた
「はいっ、その話はここで終わりっ。香織さんもちゃんと反省してるし、二人も気にしてないんだからさ〜」
梨花先輩は、このままでは
「うぅぅ……わかったよ」
とりあえず、これで一件落着かな。
「それにしても、うさセンパイ来ればよかったにーっ」
「『限定イベントがあるから行けないわ』って、言ってましたよ?」
「せっかく、みんなでお出かけなのに~。まあしょうがないかー、だってうさセンパイだもんねー」
それだけで、なんとなく説得力があるのはなぜだろう。
「あっ、
「うんっ。今度、練習試合があるからって朝早くに行ったよ」
「…………」
「琴美ちゃん、どうしたの?」
「いえ、なんでも」
じーーーーーっ。
「……?」
そんなこんなで、真、琴美、香織、さくら、梨花の五人で、買い物に――
「あれ、
「あっ、そういえば」
四人は周りを見渡しが、どこにもさくらの姿はなかった。
「あんな、背が高くておっぱいがデカい子がいたら、とっくにザワついてるはずなんだけどなー」
「その見つけ方はどうなんですかね……?」
本人の前では絶対に言わない方がいいですよ?
姫川先輩のことだから、顔真っ赤にして帰っちゃいます。
「確かに!」
「琴美……」
「あ。あははは……」
「でも、ほんとにどこに行ったんだろう? 電車を降りるところまでは一緒だったんだけど……」
それから、連絡が来るのを待つこと、数分後。
「姫川先輩から連絡は?」
「ううん、なにも。さっきから何度かけても繋がらないし……」
そのとき、
「はぁ……っ!! はぁ……っ!! ごめんなさーーーいっ!!!」
声のした方を見ると、横断歩道を渡って姫川先輩がこっちに向かって走ってきていた。
ちなみに、『あれ』がどうなっているかは想像にお任せするとして。
姫川先輩は目の前で止まると、膝に手を置いて呼吸を整えた。
「ホームに降りたら、電車に乗る人たちに流されちゃって……」
どうやら、そのまま降りることができず、次の駅まで行ってしまったらしい。
「スマホは? 連絡してくれれば」
「えっと……昨日の夜、充電のコードに挿したつもりだったんですけど……」
と言って見せてきたスマホの画面は、真っ暗のままだった。
「でも、ほんとによかったよ。なにか事件に巻き込まれたんじゃないかって心配してたから」
「つ、次は気をつけます……っ」
「まあ、これでみんな揃ったことだし、早速行ってみよーっ!」
おおーっ!
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