真ちゃんはママ過ぎるオトコの娘!?
白野さーど
第1話 ワンピースを着た少年
三月下旬――。
「ふんふんふ~んっ♪」
鼻歌を奏でたくなる季節がやってきた。
春は、私の心をいつもポカポカと温かくさせてくれる。
今もこうやって、アパートの周りを気分良く掃除していた。
箒を持つ手がいつもよりノリノリだから、掃除が
私の名前は、
築三十五年の二階建てアパート、『
最寄りの駅から徒歩五分の近さが評判だったりするけど。
私が自慢したいのは…………学生さんなら、『家賃、電気、水道、ガス、その他諸々』が全て半額になることっ!
なにかとお金が掛かる一人暮らしの学生さんを支援するために、先代の大家が発案したことだった。
利益より愛情を……ねっ♪
「ふふふっ♪」
「――あの……」
まだまだ魅力がたっぷり詰まってるこのアパートに、今日、新しく住むことになる子がやってくる。
さらに賑やかになるんだと思ったら、ワクワクが止まらないっ!
「あの……っ」
「えっとー、確か名前は……鈴川…――」
「あ、あの……っ!」
「んん?」
声のした入口の方を見ると、そこには――――白のワンピースを着た少女が立っていた。
「あの、このアパートの大家さんって、どこに居られますか?」
「……あっ、大家は私のおばちゃんだけど」「え、そうなのですか?」
「うんっ。でも、体調が悪くてあまり来られないから、今は私が大家の代理兼管理人をしているんだけど」
私が説明すると、目の前の少女は驚いた表情から一瞬にしてパァッと明るい表情に変わった。
「きょっ、今日からここでお世話になるっ、
こっちまで元気になるような大きな声で挨拶をしてくれたのだけど。
………………ん?
二度瞬きをしてから、目元を指で擦った。
今日来るのは、確か……『男の子』だった気がするんだけど……。
もしかして、真くんじゃなくて……
「真……ちゃん?」
それから、階段を上がって、真ちゃん? がこれから住むことになる、一番手前の二〇一号室へと移動した。
「ど、どうぞ……」
元々用意してあったローテーブルを挟んで、私たちは座った。
「すみません。向こうでの手続きに手間取って、こっちに来るのが遅れてしまって……」
「全然、気にしなくていいよっ。それより……」
かっ、可愛い……っ。
パッチリなお目々と、長いまつ毛。お鼻は小さくて、唇もキュッと小さい。童顔と言っていいほど、中性的な顔立ちだった。
ショートボブの黒髪にはツヤがあって、うわぁ〜……サラサラしてそう〜……。
一度撫でてみたいと思ったが、初対面なので止めておこう。
「? 僕の顔になにか?」
「えっ……」
さすがにじーっと顔を見続けていたら、気づかれるに決まっている。
私が話題を変えようと周りを見渡していると、真ちゃん? の横にあるブラウンのボストンバッグに目が止まった。
小柄な彼? との対比で、とても大きく見えた。まあ実際に大きいのだけど。
「ああぁ。服とか雑貨をいっぱい詰め込んじゃったから、こんな感じになっちゃいました」「な、なるほど……っ」
「別のバッグに分けようにも、一度入れたら出すのが面倒くさくなっちゃって」
「そっ、そうなんだ! 重そうだったから、なにが入ってるのかなーって思って」
「目を引きますよね?」
「そっ、そうだね……」
それよりもっと目を引くものが、目の前にあったり……。
すると、じっと見られていることに気づいたのか、首をコクリと傾けた。
「…………っ」
不意のその動きに、一瞬、胸がトゥンクと高鳴った。
「オッ、オッホン……!」
落ち着け……落ち着くんだ、私~っ!
一拍間を置いてから、再び目を合わせた。
「ここのことは事前に知っていてくれているとは思うけど、改めて説明するね」
「はいっ」
おぅ……なんて眩しい笑顔なの……?
それからというもの、契約内容や決まり事などいろいろな説明をしている間も、『うんうん』と頷く真ちゃん? に……私の心は、ときめいていた――。
「――あの」
「……っ! な、なに?」
「大丈夫ですか?」
「!? ちょっ、ちょっと考え事をしていただけだからっ!」
と言って、手をブンブン振る私を心配した顔で見つめていた。
「あははは……」
あ、あれ~? ごっ、誤魔化しが効かない……っ!?
「………………」
「………………」
気まずい……。
すると、そのしーんとした空気を引き裂き、真ちゃん? が口を開けた。
「えっと……一つ聞いてもいいですか?」
「!! いっ、いいよ!! なにかな~~~?」
こっちは完全にテンパっていた。どちらが年上なのやら。
「……管理人さんって、年はいくつですか?」
「え?」
な、なに!? 急に年齢を確認してきた!? 私たち、出会ってまだ一日も経ってないんだよっ!?
これは、所謂……口説かれているのでは?
いいえ、違います。
「今年で二十七だけど、それが……どうしたの……?」
「いえ。管理人さんって、もっと年上の方のイメージだったので……」
あっ、だから最初会ったときに驚いてたんだ。
「元々は、私のおばあちゃんが大家兼管理人をしていたんだけど、五年前に急に体調が悪くなってね。それで、誰かがアパートの管理をしなきゃいけなくなって、私がすることになったの」
そう言いながら、シュンとする香織を見て、不安な表情を浮かべる真。
「そっ、それで、おばあ様のご容態は……」
「…………もうピンピンしてるっ! やっと解放されたぁ~って♪」
「へっ?」
「あははっ、ごめんねっ。新しい子が来るたびにやってることだからっ」
「あっ、そうだったんですか……よかった……」
ホッと息を吐いて安心しているところを見て、
(うっ。なんというか……罪悪感が……)
会ってまだ三十分しか経ってないけど、この子はとてもいい子だっ。
うん、間違いないっ!
そんなことを考えながら、ふと腕時計に目を向けると、
「あっ、もうこんな時間かぁ。じゃあ私はそろそろ帰るね」
「はいっ、ありがとうございましたっ」
そう言って、立ち上がると、
「これから、よろしくお願いします!」
見事なまでの綺麗なお辞儀をした。
「!! こっ、こちらこそ、よろしくねっ!」
こっちも慌ててそれに
「あ、帰る前に、私も一つだけいいかな?」
「はい、なんですか?」
「えっと……その……」
「?」
「うーんっと……」
聞いていいのか悩んじゃうけど……どうしても気になってしょうがない。
しかし、いざ聞くとなると、躊躇してしまう自分がいた。
「そ、そのワンピース………………可愛いねっ♪」
うん、確かに可愛い。でも、聞きたいのはそうじゃなくて……っ!!
「お気に入りなんですよ、これ」
ワンピースを優しく撫でていた。
「へぇー。そ、そうなんだ……」
「はい、あっ――」
そのとき、真ちゃん? は徐に指で目元を拭った。
(うぅぅ……目がしょぼしょぼする……)
「……んッ!!?」
その様子を見て、私は目を見開いたまま固まった。
(も、もしかして……私が想像もできない苦労を……)
ただ、目にゴミが入っただけなのだが、それを知らない香織は、
「すみません、目に…――」
「それ以上、なにも言わなくていいからっ!」
「? 管理人……さん?」
真の肩をガシッと掴むと、突然、香織は正面からギュッと抱きしめた。
それによって、香織のその大きな胸が形を変えんばかりに押し付けられていた。
「…………っ」
驚き以上に、その柔らかさに反応して顔がポッと赤く染まった真に、香織は言った。
「大丈夫っ! ここに居る限り、私が守ってあげるっ! だから、たぁ~くさんっ、甘えていいんだからねっ?」
「え、えぇ?」
真は抱きしめられながら、ただポカーンとすることしかできなかったのだった――。
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