第10話 ランチタイムは屋上で♪
キーンコーンカーンコーン。
このチャイムは、午前の授業が終わった合図。
つまり、お昼休みが始まったのだ。
(つ、疲れた……)
真は机に突っ伏してしまいそうになるが、なんとか堪えた。
まだ始まったばかりだと言うのに、この疲労感。
(帰ったらすぐ寝よう……うん、それがいい)
……それにしても、チラッ、チラチラッ。
朝、この教室に入ってからずっと、色々な方向からの視線を感じていた。
そんなこともあって、休み時間に休むこともできない。
挙げ句の果て、休み時間の度に、物珍しそうに他のクラスの生徒が廊下から見てくるという。
はっきり言うと、この環境はキツすぎる。
(ここはパパッとご飯を食べて、どこかでゆっくりしよう……)
真がカバンからお弁当を出したとき、
「やっほ〜♪ マコマコ〜」
「うん?」
「一年の教室とか久しぶりだな」
名前を呼ばれて見てみると、扉のところから梨奈と梨花が顔を出していた。
そして、教室に入ってくる二人を見て、びっくりした顔になる真。
「梨花先輩……梨奈先輩まで、どうしてここへ?」
「ふっふっふ〜。マコマコを穴場に招待しようと思ってね~♪」
「穴場?」
「えへへっ」
「まぁ行ってみればわかるってことだ」
「……えっ?」
二人に両方から腕を掴まれると、そのまま教室から連れ出されたのだった。
それから移動してやってきたのは、なんと屋上だった。
上を見上げれば、空一面を眺めることができる。
そして時折、心地いい風が吹いていた。
「んん〜っ!」
グッと腕を伸ばすと、緊張のしっぱなしで強張っていた体が少しほぐれた気がした。
「わたしも〜っ♪ んん〜っ!」
「じゃあたしも、んん〜っ」
三人仲良く暖かい日差しの下で、腕を伸ばすという光景。この開放感、最高だな……っ。
「気持ちいいだろ?」
長い金色の髪をなびかせて、梨奈が言った。
「はいっ。あっ、でも、屋上って勝手に入って…――」
「マコマコ~、わたしを舐めてもらっちゃぁ~困るな~っ」
「?」
「エヘヘっ♪ これなぁ~んだっ?」
と言って見せてきたのは、銀色に輝く……
「鍵ですね。さっき扉を開けるときに使ってました」
「正解っ! じゃあ、これが今、わたしの手の中にあるということは?」
「え? うーん……ここへの出入りが自由になる……とか?」
「ピ~ンポーンっ! 大せいか~いっ♪」
と言うなり満面の笑みで、また抱きしめてきたのだけど。
会うたびに抱く力が強くなっているのは、気のせいだろうか。
「あぁーあ、梨花がこうなったら長いぞーっ」
「えぇ……」
……。
…………。
………………。
扉の前の段差がちょうど屋根もあって日陰になっているため、そこで昼食を取ることにした。
「あぁーお腹空いたーっ」
「…………」
「早く食べよう~♪」
なぜか、先輩たちに挟まれる形で……。
「ん? どした?」
「へっ!? いや、なんでも……」
「?」
「もう食べちゃうからねっ、いっただっきまーす♪」
梨花は、袋から出した焼きそばパンを大きく開けた口で頬張った。
「ん~っ! 美味しい~♪」
「おいおい、まったく……いただきますっ」
と言って、購買で買ってきたというサンドイッチに梨奈が手を伸ばそうとしたとき、
「どうした? さっきからソワソワして」
「そ、そんなことはないですよ!?」
「いや、さっきから落ち着きがない」
そんな、はっきり言われましても……。
いっ、言える訳がない……。
左右から体温が伝わってきて、ドキドキが止まらないことなんて……。
「なにかあるのなら言ってみろ。少しは力になるかもしれない」
心強いけど、心強いけど……っ!
「…………っ」
はて、どうしたものか……あ。
「えーっと……実は、教室にいる間、周りからずっと見られているような気がして……」
すると、口の中の焼きそばパンを飲み込んでから梨花が言った。
「ああぁー。それってたぶん…――」
「え、心当たりがあるんですか?」
「これだよー」
梨花先輩が見せてくれたスマホの画面には、いろんな人の呟きが書かれていた。
『鈴川君、超可愛いよね!!』
『可愛い!』
『可愛すぎ』
『その子、男の子ってホント!?』
『さっき見てきたけど、超ヤバかった!!』
『ええぇ~いいなーっ。後で見に行こっと♪』
………………。
「あの、これは……?」
「全部、マコマコについてのことだよ♪」
「へ、へぇ……」
自分の知らないところで、勝手にいろいろなことが書かれていたなんて……恐ろしいにもほどが……。
というか、昨日の今日でもうあんなに……。
口を滑らせようものなら、次の日には立場が一変する。これが高校生の世界か……恐ろしい……。
「ど、どうしてそんなこと……」
「マコマコ、今、この学校で一番の有名人なんだよっ? 知らなかった?」
「え? ……ええぇー!!?」
真は立ち上がると、今日一の大きな声が屋上に響き渡った。
「マコマコ、静かにしないとここにいることがバレちゃうよ」
「あ。す、すみません……」
静かに座り直すと、話を再開した。
「ぼ、僕が……有名人……?」
「うんっ♪」
同じ学年だけでなく、他学年にも真の名前は知られていた。
オトコの娘だという理由もあるが、顔立ちが整っていて、そしてなにより可愛かったことが理由に挙げられる。
僕が……可愛い……? ――ないない。
ぐぅううう……。
「…………」
どうやら、体は正直らしい。
そう思った真が膝の上に置いたのは、可愛らしいクマのキャラクターがデザインされたランチバッグだった。
そして、その中から同じデザインのお弁当箱を取り出して、カパッとふたを開けた。
切った海苔を使ったパンダの顔のおにぎりを中心に、玉子焼きやタコさんウインナーなどで脇を固めている。
……プチトマトは、苦手だけど克服のために敢えて入れた。一個だけっ。
「マコマコのお弁当~可愛い~っ♡」
「ほんとだっ。
「えへへへっ。妹が幼稚園に通っていたときに、いつも作ってましたから」
このお弁当箱も、そのときに使っていたものだ。
「えっ、妹ちゃんがいるの!? 年いくつ!?」「なんで名前より先に年を聞いてんだ?」
「えへへっ、だって気になったんだも~んっ」
「あはは……。二つ下で、今年から中学二年生です」
「そっか~、JCかぁ~」
言い方がちょっぴり引っ掛かるけど、まぁいいか。
「ねぇねぇ、どんな子〜? マコマコに似てる〜?」
「そうですね……。しっかり者を装っていますけど、実はかなりの甘えん坊です」
「へぇ〜。会ってみたいなーっ♪」
「いつか遊びに来ると思うので、そのときにでも――」
「気をつけないと、妹ちゃんが大変なことになるかもよ」
「へっ?」
「えへへ、えへへへへ〜っ」
「……っ!!?」
不敵な笑みを浮かべる梨花を見て、ふと身構える真。
「マコマコの妹で、JCで、かなりの甘えん坊なんだぁ〜」
「い、妹は渡しません!」
「冗談だよ〜」
「じょっ、冗談?」
「そうそうっ♪」
「なら、いいんですけど」
そう言って、真はぷくっと頬を膨らませた。
「そんなに妹ちゃんのことが好きなんだな」
「ママですから、当然です」
………………………………………………………………。
「ママ? それって……ん? その箱はなんだ?」
と言って梨奈が指さしたのは、横に置いていたもう一つのランチバッグだった。
「朝行くときに管理人さんが渡してくれたんです。『お昼に食べてねっ』と」
……料理初心者の管理人さんが作ったから、はっきり言って想像できない。
でも、手作りのお弁当は正直とても嬉しい。
「「…………」」
「? どうしたんですか?」
二人とも浮かない顔で弁当箱を見つめていた。
「マコマコ……がんばっ♪」
笑顔でグッドサインをする梨花。
ポンッ。
梨花が真の肩にそっと手を置いた。
「まぁ……みんなが通る道だからさ……」
と言って、それ以上はなにも言わずに昼食を再開したのだった。
「……先輩たち、さっきからものすごい量の汗が流れてますけど」
――ギクッ。
――ギクッ。
「「きっ、気にしたら負けって言葉もあるっしょ?」」
「息ピッタリで言われても……」
な、なんだ?
疑問符を頭に浮かべながら、中に入っている曲げわっぱの弁当箱を取り出した。
見た目には、特に変わったところはない。ということは、この中に、二人が怯えている理由があるということだ。
ゴクリ。
口の中の唾を飲み込み、真は恐る恐るふたを開けた。
「………………っ!! こっ、これは…――」
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