第25話 買い物にはハプニングが付き物 -2-

 それからお店を見て回っていると、梨花りか先輩の要望で、途中にあったアイスの人気専門店に寄ることにした。


「お待たせ~」


 お店の前で待っていると、梨花とさくらが両手にカップを持って出てきた。


「二人とも、ありがとっ♪」

「ありがとうございますっ」

「ミミちゃんも、はいっ」

「あっ、ありがとう……ございます。いただきますっ」

「うんっ、召し上がれ。美味しいよ~」

 梨花先輩が渡してくれたカップの中には、ストロベリーやオレンジ、マンゴーなどのアイスがロールされた、『ロールアイス』が盛り付けられていた。


 カラフルな色とその形もあって、とても映えるらしい。


 現に今も、梨花先輩がいろいろな角度からスマホで写真を撮っていた。


「おっ、マコマコ、見て~この写真っ! 絶対映えるよね♪」

「そ、そうですね、いい写真だと思います」

「でっしょ~♪ よしっ、いい写真も撮れたし、食べよ~っと」

「やっぱりここのアイスは美味しいね」

姫川ひめかわ先輩、あのお店に行ったことあるんですか?」

「うんっ、梨花ちゃんに連れられて一度だけ」

「さくらの舌を唸らせるんだから、なかなかものだよ」

「そ、そんなことはないよ……っ!!」


 手をブルブル振って否定しているが、顔は満更でもなさそうだ。


「うまぁ……っ♪」


 隣では、琴美が満面の笑みでアイスを食べ進めていた。


 ぱくっ、ぱくっ。


「ミミちゃ〜ん、美味しいーっ?」

「とても美味しいですっ」

「ふぅ〜ん、そうなんだ〜」

「? なんですか?」


 すると、徐に梨花が口を開けて――


「あぁーんっ♡」

「え」


 琴美はどうすればいいのかわからず、流されるままスプーンですくったアイスを口へと運んだ。


「んん~っ♪ 美味しいっ♡」


 その笑顔に、同性ながらドキッとしてしまう琴美なのであった。


「って、同じアイスなんだから、自分のを食べてくださいっ」

「ごめん、ごめんっ。代わりにわたしが……はいっ、あーん」

「!?」

「ほれほれ〜っ♪」

「……っ。あっ、あーん…………お、美味しいです……っ」

「………………エヘッ」

「?」

「エヘッ、エヘッ、エヘヘへッ♥」

「――ッ!!?」


 琴美は恐怖を感じてささっと真の後ろに隠れた。


「ママ、あの人もキケンだよっ」

「えぇ?」

「あっ、私も琴美ちゃんに『はいっ、あーん♡』したいよーっ」

「先にやった者勝ちだよー♪」

「むぅ……次こそは……」

「次なんてありません。ちなみに、わたしはママからの『はいっ、あーん』しか食べないので」


 と言って、真の方に体を向けた。


「ママ、あーん」

「? あーん」


 ぱくっ。


「うぅ〜ん♪ 美味しい~……っ」


 同じアイスで食べ合いっこするという、ちょっぴり不思議な空間がここにあった。


 それから食べ進めていると、


「ミミちゃんってさ、実はマザコン?」

「……は、はい?」


 急な質問に、当の本人である琴美は目を丸くした。


「え、そうなの?」


 真がポツリ呟くと、


「えっ!? ……ち、違うよッ!!」

「ふ~ん。さすがにホントのことは言えないかーっ」

「そっか……」

「マ、ママ? どうして落ち込ん――」


 真は琴美の頭に手を置くと、


「ちょっと離れている間に、琴美も大きくなったんだね……」


 と言いながら優しく撫でた。


「ママ……? ……ま、まだ、マザコンですーっ!」

「ほら、やっぱり」

「あ」




「わたしから提案がありま~すっ♪」


 一通り見て回ったところで、香織が高らかな声で言った。


「香織さん、提案って?」

「ふふふっ。実はここに来たら行きたいお店があったんだ~」


 この一言で、通りから出た大通りにあるというお店に行くことになった。


「今向かっているところって、どんなお店なんですか?」

「ふっふっふ~、まあ行ってみたらわかるよ♪」

「?」


 答えを教えてもらえないまま付いて行くと、


「着いたよ~」


 そこは、女性ものの服が並ぶ洋服店だった。


 店の中に入ると、管理人さんはどんどん奥へと進んで行く。


(あれ? 服を見るんじゃないのかな? ……って、このお店……下着も売ってるんだ……)


 キレイに並べられた色とりどりなものから始まり、セクシーな下着を着たマネキンなど、眩しい光景が広がっていた。


(あっ、あまり見ないように気をつけないと……)


 真が視界を塞ぐために手で壁を作ったのを見て、


(ママが見ても、誰も気にしないと思うけど……)


 と心の中で呟く琴美なのだった。


司紗つかさ~っ、久しぶり~」


 すると、香織がお店の奥にいる女性に声をかけた。


 名前を知っているということは、知り合いの人かな?


「あら、香織じゃないっ。久しぶりね」

「紹介するね。私の大親友の司紗つかさっ、高校のとき同じクラスだったの♪ 運動神経抜群で頭もよかったから、スッゴイ人気だったんだぁ~」

「おほんっ、昔のことはそこまでよ。私は美久月みくつき司紗つかさ。よろしくねっ」

「よっ、よろしくお願い……します……っ」


 こっちは、その圧倒的な大人なオーラにただただペコリとお辞儀するしかなかった。


 あの梨花先輩ですら飲み込む、その迫力。


「おっ、お久しぶりですっ!!」


 と言って、梨花はキレイなお辞儀をした。


「「……っ!?」」


 それは、真と琴美が初めて見る姿だった。


 プルプルッ……プルプルッ……。


 ん? ちょっと震えてる?


 顔をよく見ると、ものすごい量の汗が流れていた。


 ……怯えてる?


「ふふっ。さくらちゃんも久しぶりね」

「お久しぶりです、司紗さん」

 

 姫川先輩も面識があるのか。


 ……それにしても、さっきから姫川先輩の……むっ、胸をじーっと見てるな……。


「梨花ちゃんもだけど、成長著しいのは、とてもいいことよっ」


 と言って、さくらの胸を入念に観察していた。


「この前、司紗さんが選んでくれたブラがよかったからです……っ」

「それはよかったわ。ところで、今日は何の用でここに来たの? まさか、またサイズが合わなくなったとか言わないわよね、香織?」

「えーっと……そのまさかだったり……?」

「はぁ、あなたも『まだ』成長著しいことをすっかり忘れていたわ」


 そう言って、管理人さんの隣に立つと、背が高いこともあってとてもスタイルがよかった。


 というか、琴美以外の人たちは、みんな僕より背が高いんだよね……。


 ちょっぴり気にしたり、気にしなかったり……はぁ。


「ふ~んっ。君が、真くん……いや、真ちゃんね」

「!!は、はい、そうですけど」

「怖がらなくていいわよ。ただ、君に少し興味があるだけだから」


 と言うなり、司紗はマジマジと真の全身を見始めた。


「え、えーっと……」

「やっぱり、あなたが言うだけあって、いい素材ね。まるで、ダイヤの原石を掘り当てた気分よ」

「え、ダイヤ?」

司紗つかさはねっ、可愛い子に目がないんだよ♪」

「へ、へぇー」

「梨花ちゃんたちもだけど、あのアパートは逸材の宝庫ね。恐ろしいわ、ほんとに」

「えへへへっ。どういたしましてっ」

「別にあなたを褒めたつもりはないわよ?」

「あれれぇ~?」

「はぁ……」


 ため息をこぼしながら、司紗は真の後ろにいた琴美に顔を向けた。


「初めまして。あなた、お名前は?」

「えっと……鈴川琴美です……っ」

「琴美ちゃんね。真ちゃんの妹さんだっけ」

「は、はいっ」

「ふーんっ。やっぱりね」

「え?」

「あなたも――――可愛いわぁぁぁっ♡」


 司紗が琴美にギュッと抱きついた。


「!?」

「司紗ーっ。琴美ちゃんがびっくりしてるよー」

「あらっ、つい、ごめんなさいね」

「い、いえ……」


 うわぁ……すっごくいい香りだったな……。


 あれが……大人の女性のフェロモン?

 

 いいえ、香水の香りです。


 ん? 今、声が……


「司紗……例のあれを……」


(……ん?)


 香織となにか話をすると、司紗はどこからか服一式を持ってきた。


「真ちゃん、ちょっと付いて来て」

「? は、はい」


 言われるがまま付いて行くと、フィッティングルームと書かれた部屋の前で止まった。


「ここって試着室ですよね?」

「そうよ」

「気になる服を着てみる場所ですよね?」

「その通りよ」

「なら……どうして、僕をここに?」

「この服を着て欲しいの。君に似合うと思って私が見繕っておいたから」


 真は司紗から服を持たされると、フィッティングルームに入れられた。


「えっ、えぇ……? ど、どういうことなんですか?」

「試着室に入ってすることなんて、一つしかないでしょう?」


 ふと、真は手元の服に目を落とすと、思わず固まった。


「……も、もしかして、これに着替えるとか?」

「正解よ」

「え、ええぇ……」


 ベルトが付いたピンクのフレアスカートに、清潔感のある白のブラウス。そして、一緒に渡されたピンクの下着は、フリルがあしらわれていて、とても可愛らしいデザインだった。


「……っ。あの、どうして下着これも?」

「こだわるなら内側も、ねっ」


 ……。


 …………。


 ………………。


「マコマコ、まだかな〜♪」

「真ちゃんなら、なに着ても似合うよっ」

「たっ、楽しみです……っ!」

「ママ……」


 みんなが待っていると、カーテンの向こうから小さな声が聞こえた。


「いっ、いいですよ……」


 そして、カーテンがシャーッと開くと、


「ど、どうですか……?」


「「「「おおーっ!!!」」」」


 店の中で一際大きい歓声が上がった。


 真の秘めたポテンシャルが、可愛らしいコーデによって余すことなく引き出されていた。


 体の線が細いことも相まって、清楚なイメージの真によく似合っていた。


「真ちゃん、可愛い~っ♡」

「マコマコっ、一緒に写真撮ろーっ♪」

「とてもよく似合ってるよっ」

「ママ……可愛すぎだよっ!!」

「⁉︎ あ……ありがとう……ございます……っ」


 まさかの反応に、思わず顔を赤らめる真。


「あらっ、それは着なかったのね」


 司紗が指さしたのは、試着室の壁にかけられている下着だった。


「あれは……さすがに……っ」

「そっか。よくお似合いですよ、お客様」


 司紗は、カーテンを閉めるときに見逃さなかった。


 受け取った服を見つめる、真の嬉しそうな顔を……。




(鈴川真君……ふふふっ)

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