01-02 職業:国家特殊巡回業務うk……て、長ッ!
ブルックス夫人の手配で、自動車は駐車場の方へ回された。ルクレツィアたちはその間に宿帳へ名前と職業を書いていた。
ルクレツィア・モーントシャイン。職業:国家特殊巡回業務請負人。
マルチナ・ロンド。職業:期間限定聖職者(保護観察中)。
リンダ・トランメル。職業:審問官。
そして四人目の花梨は、書きかけてペンを止めた。
「カリン・デ・ワタベか? カリン・フォン・ワタベの方がいいか?」
「そんなんどうでもいいじゃねえか。カリン・ワタベだろう?」
大雑把なリンダは心底面倒くさそうだ。
「いや、この前、
細かい事を気にする子だ。
「では『ド』でよろしいのではないでしょうか?」
ルクレツィアがそう言うと、花梨は小さく肯いた。
「うむ、ルクレツィア殿がそう言うのならば」
「私の助言は無視か!」
リンダは拗ねるが花梨も、もう馴れたものだ。
「助言なんぞしておらぬだろう」
カリン・ド・ワタベ。職業:公儀介錯人。
苗字と名前の間に入る『の』をどうしたものかと言っていた割には、職業は漢字で書く花梨である。と、いうわけでこの世界にも漢字はある。
「あの、この東洋の文字はどういった意味で……」
ホテルのコンシェルジュは漢字が読めず、困惑したように尋ねるが、花梨が答える前に、横からルクレツィアがにっこりと微笑みながら口を挟んできた。
「わたくしと同じ職業ですわ」
そう言うルクレツィアの職業も国家特殊巡回業務請負人という分かったような分からないような仕事だ。
小首をかしげてさらに尋ねようとしたコンシェルジュに、ブルックス夫人は目配せをして頭を振る。これ以上、詮索するなと言う意味だ。
「分かりました。それでお部屋の方ですが……」
「ツインを二部屋お願いできますか?」」
ルクレツィアの言葉に、コンシェルジュはブルックス夫人に目をやった。夫人はまたもや意味ありげな目配せをしてから今度は肯いた。
「承知しました。それでは211号室と212号室をご用意いたします」
ブルックス夫人とコンシェルジュの様子は、確かにおかしかったが、エレベーターの中では四人ともそれには敢えて触れない。
「部屋割りは、わたくしとマルチナが角部屋の212号室、リンダさんと花梨さんが隣の211号室でよろしいですわね」
ルクレツィアのその言葉に、リンダは即答せず、ちょっと考え込む。そんなリンダにルクレツィアはエレベーターの隅へと視線を送って見せた。
盗聴器があるかも知れない。
そんなジェスチャーだ。リンダは即座に理解してくれた。
「ま、お嬢たちがそれでいいなら構わないんじゃねえの」
そう言われてマルチナはルクレツィアの横で頬を赤くしていた。リンダはその反応を面白がって、さらにからかう。
「でもまぁ、夜中にギシアンするなよな。私はあんたらを見張る審問官でもあるんだ。その場合は容赦しねえぞ」
「重々承知しておりますわ。もしもその際はリンダさんが職務を遂行するのを妨げたりはいたしません」
妙に重い口調でルクレツィアは言うけど、それにはそれなりの、ルクレツィアとマルチナだけの事情があるんだ。これが。
「ははは、いい度胸だ。その場を抑えたら、穴が一つ二つ増える事になるからな。覚悟しておけよ」
そして思い出したように付け加えた。
「……待てよ、お前らみたいなのは、穴が多い方がうれしいのか?」
「な、な、何を言っているんですか!! リンダさん!」
その言葉にマルチナはさらに赤くなった。
「下劣な……」
花梨は蔑むような視線を送ったが、リンダはさして気にしてないようだ。
エレベーターは二階に着いた。
廊下の先に指定の部屋はある。
「じゃあまた明日な」
「今晩はこれにて失礼つかまつる」
リンダと花梨はそれぞれ挨拶して自分たちの部屋に入った。その時、二人は腰に下げたそれぞれの得物、リンダはリボルバーの拳銃と、花梨は二本差しの刀に、意味ありげに手をやり、それを見たルクレツィアは少し肯いた。
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