02-09 マジックミラーってエロいよね(風評被害)
この世界にも一週間、曜日の概念はある。呼び方が微妙に違うんだけど、面倒だからあたし、
てなわけで、ペンフィールド学園は月曜から金曜までは通常の授業。
土曜、日曜は全休。一泊で帰れる距離に自宅がある生徒は一時帰宅しても良い。また学園外への外出も認められるけど、男女で曜日が分けられている。
土曜日が男子の外出可なら女子は外出不可。そして日曜日が女子が外出可なら男子は外出不可という感じ。学園の寮以外での宿泊は、自宅以外は禁止だ。
曜日の振り分けは学校側の判断で替わる事もあるけど、外出時間は概ね六時間程度。でもまぁそもそもこの学園があるペンフィールド島がさほど大きくない。
もともと小さな漁村しかなかった町で、若い学生が遊ぶ場所などない。盛り場に行くには船を借りて、他の島に行くしか無いが、外出時間が六時間しか無いのでは大して遊ぶ時間も無いし、万が一、海が時化て船が門限に間に合わないと大目玉は必至だ。
だから休日外出が可能でも、学園に留まる生徒は珍しくない。
しかし潜入捜査中のルクレツィアお嬢さまたちはそうもいかない。学園内にはターゲットのアレクセイⅣ世が首領の人身売買組織『プリンスD』が目を光らせているかも知れないのだ。
四人揃って情報交換が出来るのは休日だけという事になる。
◆ ◆ ◆
そんなわけでルクレツィアお嬢さまたち四人は、日曜日の午後、ペンフィールド島唯一の漁村にある小さなレストランに居た。
最後にルクレツィアが入ると、高齢の店主夫妻は店頭に『本日、臨時休業』の札を出した。
「この店、大丈夫なのか?」
テーブルに着いた花梨がそう言うのは、情報漏洩という意味でだ。
「ああ、問題ない。もともと学園内にある修道院が作ってるチーズやワインを売る為の店だったんだ。店主は信用できる。店も建て直してからまだ5年と経ってないし、修道院が出資した関係で、工事には修道士が立ち会ってる。隠し通路なんてねえよ」
リンダがそう答えると、花梨は肯き用意してきた手書きの図面を広げた。ペンフィールド学園と島内の図面だ。
「何も知らない外国人を装って、島内を手当たり次第に調べてみた。あちらこちらに隠し部屋や隠し通路とおぼしき空間がある。これなら女子生徒を密かに拉致して姿をくらます事くらいできそうだな」
花梨の図面に目を落としながらリンダも答えた。
「あぁ、私も文献を調べたんだが、この島。百年くらい前までは、要塞として使われていたんだ。だから敵が上陸してきた時に備えて、島内に迷路のように通路が張り巡らされている。そして学園は要塞の施設を利用して作られたそうだ」
そして花梨の図面を指でなぞりながら、リンダは続けた。
「校舎は将校用の宿舎。そして学生寮は捕虜収容所だ。尋問室もあったそうだ」
リンダのその言葉に、ルクレツィアは思わず声を上げてしまった。
「あ、それでマジックミラーが……」
「マジックミラー?」
リンダと花梨がオウム返しに尋ねた。
発見した経緯が経緯だ。ルクレツィアは逡巡したが、黙っているわけにもやむなく説明した。
「ええ、わたくしの部屋にある鏡が、マジックミラーのようでございますの。先日……、そのちょっと……。覗かれてしまいまして」
「ふむ、もともと尋問室ならば部屋にマジックミラーがあってもおかしくないな」
花梨のつぶやきに、マルチナは何か思い出した事があるようだ。
「あの、マジックミラーって。暗い方から明るい方が見えるんですよね?」
「ああ、そうだが」
花梨の言葉にマルチナは少し考えを巡らせてから言った。
「ええと平民クラス女子の間で、噂があるんです。夜中に洗面所の鏡を見ると、若い男性がこちらを見ていると……」
「マルチナはそれを見たのか?」
リンダが尋ねるがマルチナは頭を振った。
「同級生は入学したばかりで見た人はいません。でも上級生の中には、鏡の中の男性に話しかけられたという人もいるようです」
「マジックミラーの向こうから見ていたのであろう。大方、品定めという所か……」
花梨の何気ない一言に、ルクレツィアは思わず頬を熱くした。なにしろばっちり品定めされてしまったのだ。それもあられもないシーンを!
「それで、噂ではその『鏡の皇子』に……」
「『鏡の皇子』?」
突然、出てきた珍妙な単語にルクレツィアとリンダは、思わず声を合わせてしまった。そんな二人にマルチナは、少し強ばった笑みで答えた。
「ええ。上級生が言うには、その鏡の中の男性は、かなりハンサムだそうで……」
「そうか」
リンダは手にした袋から一枚の写真を取り出す。カラー写真も無いわけではないが、まだまだ珍しい。と、言うわけで出した写真は白黒だ。映っているのは、まずまずのイケメン。これが自称アレクセイⅣ世だ。
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