02-17 悪党はよく逃げる
途端にパッと光が差し込んできた。ドア? いや、通路の先に分厚い布をドア代わりに掛けていただけらしい。
ルクレツィアもその布を払いのけて、その向こう側に出た。
どうやって電力を確保しているのか分からないけど、その中は結構明るかった。そして広い。マルチナを追いかける事で必死だったルクレツィアは気がつかなかったけど、いつの間にか潮の香りもしていた。
つまり海! 明るさに目が慣れてくると、目の前に流線型の物体が鎮座しているのが分かった。潜水艦だ! ルクレツィアは大きいと思っているけど、写真や動画だけだけど21世紀の潜水艦を見ている、あたし
いや、こんな代物で海の底潜るなんてご勘弁! の世界だ。
マルチナをさらった犯人は潜水艦ドックの方へ向かっている。ルクレツィアもそれを追いかけた。
「殿下! アレクセイ殿下!!」
「大変です、殿下!!」
案の定、マルチナをさらったのは、首謀者アレクセイⅣ世本人だ。手下には殿下と呼ばせているらしい。
「どうした、何事だ!!」
アレクセイⅣ世の問いに手下が答えた。
「警察が学園に侵入してきました! 隠し通路も大半の出入り口が抑えられ、警官隊がこちらに向かってきています!!」
「お前らの罠か! 警察官か!?」
アレクセイⅣ世は、マルチナを抱えたまま、ルクレツィアに向き直り怒鳴りつけた。
「警察ではありません。自称アレクセイⅣ世。順延されている、貴方の斬首刑を執行する為に参りました。巡回処刑人ルクレツィア・モーントシャインでございます」
「巡回処刑人!?」
手下の何人かはその名称だけで震え上がるが、さすがボスのアレクセイⅣ世は肝が据わっている。
「俺の首を刎ねる前に、こいつの命がどうなるかな?」
アレクセイⅣ世は手下から受け取った短剣をマルチナの首元へ突きつけた。
「どうせ、俺は死刑だ。あと一人や二人殺して道連れにする事くらい、屁でもないぜ」
手下に殿下と呼ばせている割には、随分と下品な物言いね!
手下もルクレツィアの周りを取り囲み、銃を突きつけてきた。リンダと花梨、そして警官隊を待つのが一番確実だけど、向こうも大人しく待ってくれるはずもない。
でもマルチナは殺さないだろう。アドラー伯爵の件、まだアレクセイⅣ世たちは疑っていないみたいだ。これからアドラー伯爵から、マルチナと引き替えに金を受け取り、それが逃走資金になるはずだ。
ルクレツィアもそう考え剣を片手に、じりじりとアレクセイⅣ世を追い詰めていく。
その時だ。別の通路から走ってくる足音と怒声が響いた。
「殿下、警察だ!! すぐに逃げ出さないと!!」
「司法警察だ!! 人身売買組織『プリンスD』の構成員だな! 抵抗を止めて大人しくしろ!!」
逃げ込んでくる他の手下。それを追いかけてくる警察官たち。まだリンダと花梨の姿は見えない。
ルクレツィアがそちらに気を取られている隙に、アレクセイⅣ世は潜水艦の方へ向かった。あたしたちの世界の潜水艦同様、乗り込むのは
しかしマルチナがもがく為、狙いが定まらない。ルクレツィアはその間隙を縫い、アレクセイⅣ世を追いかけタラップを登った。
「出港するぞ!」
アレクセイⅣ世はハッチを潜りながら手下に叫んだ。
「しかし殿下。まだ仲間が……」
「警察が来たんだ! もう待てない。可哀想だが置いていくしかない!」
そう言う割には、あんまり可哀想に思ってる風でもない。どちらかというと余分な手下を、ここで体よく処分していきたいようにも思える。
「わ、分かりました」
アレクセイⅣ世は潜水艦の中に入り、手下がハッチを閉じようとする。早くも潜水艦は沈降を始めた。
「待ちなさい!」
ルクレツィアはようやく司令塔の上に登ったが、ハッチが閉じられるのには間に合いそうもない。
万事休すか!?
そう覚悟した瞬間、司令塔を守っていた数人の構成員が、中へ逃げ込もうと閉じかけたハッチを無理矢理開けようとした。
「待ってくれ、殿下! 置いていかないでくれ!!」
「ここで警察に捕まったら、俺たちも死刑ですよ!!」
「かまう事はねえ! ハッチを閉めろ! 潜水開始だ!!」
アレクセイⅣ世の怒声が船内から聞こえてくると、構成員たちは必死にハッチをこじ開け、数人が船内へ潜り込む。
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