02-03 学園とくれば潜入捜査!

「では予定通り次の任務は、自称アレクセイⅣ世という事でよろしいのでしょうか。ヒルデガルド姉さま」


 ルクレツィアはそう念を押す。


 自称アレクセイⅣ世は、人身売買のみならずソレイユ群島王国転覆を謀ってすでに死刑判決を受けている。ドロソス帝国復興の為、まずはソレイユ王国を乗っ取ろうと画策したのだ。


 ルクレツィアお嬢さまとしても任務の対象なのは承知済みだ。


「そうなりますね。ルクレツィア。しかし今回はターゲットが学園内に潜伏していると推測されてます。司法警察も捜査しておりますが、なかなか成果が上がりません。そこでペンフィールド学園へある程度の期間、潜入して捜査する事にしたいと思います」


「潜入捜査ですか?」


 聞き返すルクレツィアにヒルデガルドは肯いた。


「ええ、理事の一人が協力的で手配はすでに済んでおります。ルクレツィアとシスター・マルチナは学生として。花梨さんは護身術の講師として。そしてリンダさんは学生の私生活を管理する審問官として赴任してもらいます」


「え、なんだよ。私は学生じゃないのかよ!?」


 リンダは思わぬ所に不満なようだ。そんなリンダにヒルデガルドは嘆息した。


「全員が学生ですと却って動きづらいでしょう? リンダさんには審問官として学園の裏を探ってもらいます。さて、ここからが本題ですが……」


 そう言うとヒルデガルドは厳しい顔つきになり、某有名アニメの駄目オヤジ司令のようにデスクに肘を突いて言った。


「自称アレクセイⅣ世はドロソス帝国復興を狙う組織から援助を受けています。これまでのように、単に隠れている死刑囚を見つけて処置するだけでは終わらないでしょう。かなりの抵抗を受ける可能性があります」


 そこで一度言葉を切り、ヒルデガルドは皆を見回しながら続けた。


「今回は四人とも無事に生還できるとは限りません。またモーントシャイン公爵家としても、皆さんの命の保証は出来ません。お分かりですか?」


 死して屍拾うものなし!


 さすが重苦しい空気が流れた。その中で一番最初に発言したのは花梨だった。


「武士道は死ぬ事と見つけたり。私はいっこうに構わぬ。異国で朽ち果てるのもまた一興……」


 よ、さすがはサムライガール! 花梨は巡回処刑人制度を学ぶために留学している身の上なので、本来は危険な現場には出なくても構わないのだけれども、そこはそれ。その辺がサムライだ。


「私はそんなへまはしねえよ」


 リンダはあっけらかんとして笑い飛ばした。


 ヒルデガルドはルクレツィアの方へ黙って視線を向けた。ルクレツィアお嬢さまとしても選択の余地はない。


「……司法取引で救っていただいた命です。今更、死にたくないなどと懇願するつもりはありません……」


 ですが……。ルクレツィアは後の言葉を飲み込んだ。視線は隣に座るマルチナへと向けられていた。


 その視線を受けて、マルチナもけなげにも言った。


「私もルクレツィアさまにお供します」


 そしてルクレツィアへと視線を返して、いたずらっ子のように微笑んだ。


 あぁ、もう! 可愛いな、こいつ!! そりゃルクレツィアお嬢さまも、命と引き替えにしても愛し抜きたいと思うわけだわ!!


 ヒルデガルドは一つ肯いて続けた。


「自称アレクセイⅣ世はソレイユ群島王国の転覆を謀り死刑判決を受けた囚人。それに味方する者も同罪です。この件に関する責任はすべてモーントシャイン公爵家が持ちます。存分におやりなさい」


「よっしぁあ!」


 リンダは派手にガッツポーズを取った。


「そしてルクレツィア。貴女も今回は出来る限り帯刀しなさい」


「承知いたしました」


 ルクレツィアの返答に、ヒルデガルドはもう一度皆を見回してから言った。


「よろしい。新学期に合わせてルクレツィアとシスターマルチナの転入、およびリンダ・トランメルと渡辺花梨の潜入工作を準備しています。以後、必要事項は追って各自に連絡いたします」 

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